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第十八話 ⑥ 女神の涙だ!


次の日、朝早くから慌ただしく人の行き交う音がひっきりなしに聞こえてくる。

響いてくる大声にユーネも眠たい目を擦りながら、体を起こす。

今日は結婚式というお祭りがあるらしいので、きっとそれだろうと大きくあくびをすると、それを待っていたかのように物置のドアが乱暴に開いた。


「ユーネちゃん!すぐに逃げる用意をして!」

昨日会った受付のお姉さんが血相を変えて飛び込んできた。

何かあったのかと、尋ねると説明する暇すら惜しいとこちらの腕を掴み立ち上がらせる。


「魔物よ!昨日言っていた魔物の群れが村に入ってきたの!きっとキョウたちでも手に負えなかったんだわ!」

手を引き逃げようとギルドの扉を開けた瞬間、横から四足歩行の魔物が飛び掛かってきた。

視界を埋める影に悲鳴をあげ目を閉じるお姉さん。

しかし、次の瞬間魔物の悲鳴と壁の壊れる場違いな音に恐る恐る目を開ける。


彼女の目には何故かギルドの壁に突き刺さっている魔物の姿があった。

状況が飲み込めずに瞬きを繰り返す受付嬢の横で、不敵に笑う少女が腰を落とし手を前へと突き出す。


「一宿一飯の恩!受けた恩は返すが人情!このユーネちゃんが~やっ~てやるよ~!」

(そんな変なポーズどこで覚えてきたのよ)

更に隣の眉間に皺をよせた黒猫から、即座にツッコミが入る。


(こないだリーヴルがやってたから、真似してみた。なんかカブキっていうらしいよ)

(カブキ?ふ~ん最近の子供の間じゃ不思議なものが流行っているのね)

(ほら、それよりこの魔物の顔を見てみてよ)

ユーネが壁に突き刺さった魔物を引き抜き、地面に転がす。


(これって…)

襲ってきた四足歩行の魔物の姿は、コチラに来る前にみた遺跡男の姿そっくりだった。

被り物をした人の顔を持つライオン。俗にいうスフィンクスというヤツだ。

(そそ、丁度よかったってわけ!)


「ちょ、ちょっとユーネちゃん何してるの!?魔物なんて眺めてないで早く逃げるわよ!」

晴れやかな顔を浮かべ、見た事もない魔物を平気で触る少女に僅かな不気味さを感じながらも、大人としての責任感でそれを塗りつぶそうとしているのだろう。

その声には焦りよりも怒りが滲んでいる。


「今みたいに魔物が自分で壁にぶつかって死んでくれるなんて幸運はもうないのよ!だから、早く!」

受付嬢の視界には、既に数匹の魔物が入ってきている。

もう時間がない。

慌てて、少女の腕を取ろうとのばした手はなぜか空ぶることになった。

それどころか、もう姿もそこにはないのだ。


「え…?」

ギャンと響いてきた悲鳴に反射的に顔を向けると、そこには魔物が空に舞っている風景があった。


「ルウはお姉さんと村の人たちを守ってあげて。こいつらはユーネが惹きつけておくから…っと」

更にもう一匹が地面を蹴り襲い掛かってくるが、大きく開いた顎に掌底が撃ち込まれて綺麗な放物線を描く。


「ほら、早く行って行って」

(…気配の量からいって、この村完全に囲まれているみたいよ)

(ん~確かに百はいるね。まぁ時間はかかるけど、問題ないっしょ!)

(もう…じゃあ、すぐ戻るから無理はしないようにね)

(了~解!)

少女の言葉に合わせてルウのシャボンの魔法が受付嬢を包むと、けたたましいそれを引き連れで黒猫が駆けていく。


ユーネは別にここの人達に思い入れがあるわけじゃないけど、友達でもなんでもないのに親切にして貰った人の顔が曇もるのは普通に気分がわるい。


「今日は皆が楽しみにしてた日なんだぞ。それを無茶苦茶にしやがって。お前の目的何かは知らないけどこのユーネちゃんがお姉さんに変わってぶっ潰してやるよ!」


    ◇


穏やかな日差しの中、サラサラとした心地の良い風が吹き抜けていく。

辺りに一面に広がる草の匂い妙に懐かしさを感じさせる。

そんな中にいる三人の男達の目と鼻の先にはデカい本が突き刺さっており、それを見上げながらのっぽ男が独り言のように口を開く。


「平和…だな」

「ああ…眠たくなってきた」

「腹へった…」


「闇夜を切り裂く月影の(ヤミヨヲキリサクゲツエイノキバ)」の面々は森で一夜を過ごし、ダンジョンの前まで来てはみたものの魔物など姿形もなく、纏っていた緊張感は一気に風に溶けて消えていってしまっおり、おのおの欲望を自制することもなく垂れ流す。


「それにしても、このダンジョンってなんだろうな」

目の前にそびえるこの本みたいな奴は昔から謎の塊らしくいつ何が起きても不思議じゃないらしい。

だから今回の魔物の群れもここから溢れ出したのかと思い来てみたのだが、その異様な存在感以外は特に何も感じることなどありはしない。


「きっと見間違いとかだったんだろ。という事で、帰る前にちょっと寄り道して行こうぜ!」

唐突なキョウの提案に二人はつい分かりやすい嫌な顔をだしてしまう。

なんといっても今日は結婚式だ、二人とも早く帰ってご馳走にありつきたいのだ。


「はぁ?結婚式には出ないつもりかよ?」

「まぁ最後まで聞けって。お前らも女神の涙って知ってるだろ?」

女神の涙といえば、マナが結晶化した姿で市場にはあまり出回っていないが綺麗な物で、装飾なんかで使われたりするものだ。

フジザクラ村みたいなド田舎では見る事はないが、流石にそのくらいは知っていると二人は大きく頷いてみせる。


「そんな普段滅多に拝めない綺麗な物をオレ達が取っていってやれば…」

「そりゃあ結婚式にはピッタリだし、みんな喜んでくれるどだろうけど、ある場所なんてわかんないだろ」

「フフフ。案ずるな者どもよ!こんなこともあろうと、この間あそこで見たって話を仕入れきておるわ~!」

そう言ってキョウはダンジョンの更に先にある高い山を指さす。



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