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第十八話 ⑤ いつもの薬だ!


何故かルウの足がルンルン過ぎてちょっと引くなぁなんて思って村を回っていると、淡紅色の綺麗な花をつけた木が見えてくる。

フジザクラだ。

その前には華やかな装飾を施された多くのテーブルが並び、奥には廃材を持ち寄って作ったであろうステージがある。

そんなに大きな村でもないこともあいまって、式の会場へと辿り着いたようだ。


ステージの上で若い男女が微笑ましく微笑み合っている。きっと明日の主役の二人だろう。綺麗なドレスも豪華飾りつけもないのだが、なぜかため息がでそうなるほど幸せを感じさせてくれる。


「なんかいいね」

「そうね」

短く言い合うと暗くなるまで眺めてから冒険者ギルドに戻ることにした。

その途中でふと顔を上げたユーネ達は驚くべきものを目にして言葉を詰まらせることとなった。


「…もう陽が落ちるから、アレについては一先ずはギルドに戻ってから話ましょうか」

「うん。そうだね。まぁ原因は想像通りだろうからね」


ギルドに戻ると、受付のお姉さんが用意してくれていた夕食を摂って奥にある物置部屋に案内された。

ランプを灯しながら中に入ると換気もされて、拭き掃除までしてあるのがわかる。

知り合いでもない子供の為にここまでやってくれた事に感謝を伝えると、明日のことを考えると窓口で座っていても落ち着かないから、感謝する必要はないと言われてしまった。


それから少し世間話をしてから、退勤の時間が来て彼女は慌てて帰っていった。

ユーネは誰もいなくなった物置で大きく手足を伸ばしシーツの上に転がる。


「ほらユーネ、寝る前に薬飲んでおきなさい」

「え~今日ぐらいいいじゃ~ん」

「今日だからよ。それに困るのはあなたよ?いいの?」

遺跡男との決着をつける時に困ることになるかもしれないわよと言われていのだ。

そう言われれば、もう返す言葉はない。


「ぶ~!はいはい、わかりましたよ」

いつものガマグチから紙に包まれた粒を取り出すと、中身を真上に放り投げて口で受け止める。

味がどうこうで飲みたくないわけではない。とにかく痛いのだ。

しかしこれを飲まなければもっとひどい目にあったことがあるので仕方がない。

ほんとはアキラやルウだって、痛がるユーネなんてみたくはないだがこればっかりは仕方ないのだ。


指先まで毒に侵されるような痺れと吐き気、牙に貫かれるような鋭い痛み。

堪らず目をぎゅっとつむるユーネの体から、徐々に紫色のモヤが抜けていく。

ここまで来ればあとは全身を爽快感が駆け抜け体が軽くなるのを感じる。


「ふぅ~」

額の汗を拭いながら、一仕事終えたように大きく息を吐く。

「ごめんなさい。もう少しで完成できると思うからもうちょっと我慢してくれる?」

「わかってるって。お父さんもルウもユーネの為にやってるんだからさ。それで話は戻すけどアレはやっぱり本物だよね」

「そうね。最初は幻覚でも見せられているのかと思ったけど、あの圧倒的な存在感は間違いなく本物ね」


何が本物かと言うと、先程二人の目に映ったものだ。

自宅からも毎日のようにその姿を見る事が出来る大山。世界一の霊峰タケザオ山。

そのタケザオ山がいつもと同じ様に村の北側にそびえ立っていたのだ。

ルウの言う通り、息を呑む華麗さと反比例するあの独特の威圧感は偽物などには到底出せはしないだろう。


「そしてキョウって冒険者の名前も思い出したわ。どっかで聞いたことあると思っていたら百年以上前にいたとされる伝説の隻腕冒険者の名前よ。今まだ、伝説にはなっていないみたいだけどね」


「てことは、やっぱりここって百年前のフジザクラタウンって確定ってことだよね!」

「認めたくはないけど…そうでしょうね。まったく頭が痛いわ」

ルウはそう言って額に肉球を添えると頭を振る。


「てことはさ!てことはさ!キョウってお父さんのおじいちゃんのおじいちゃんじゃないの?あんなにそっくりなんだしさ!え?まって!じゃあユーネのおじいちゃんでもあるってこと!?」

「おじいちゃんかどうかはわからないけど、あの軽薄さ。アキラとはどこかで血は繋がっているでしょうね」

「うわ~帰ったらお父さんになんて言おうかな~!すっごい楽しみ!」

「もう。先に帰る方法が分からないと、そんなこと一生言えないってわかってるの?」

「大丈夫だって!どうせあの遺跡男のせいでしょ?だったら目的も変わらないし問題だし!ぶっとばすだけ!」


ルウが笑いながらため息をつく。

なんだかんだでこの無鉄砲さに救われているのだ。


「そうね。どのみちあの怪人しか手掛かりがないのだから、明日からしっかり探しましょ」

「よし!じゃあ今から何する!?」

「何するって…何言ってるのよ。もういい時間なんだから寝なさい」

「無理無理!だって物置で寝るなんて秘密基地みたいでテンション爆上がりだもん!これで寝ろってのは無茶だよ!今夜は遊び倒すぞぉ!ふっひぃ~!」


疲労の溜まったルウの脳みその奥で何かブチリと音を立てる。

ゆっくりと静かに冷たい光を放つ瞳を閉じると、今日始まって何度目か分からない大きなため息をつく。

今度はその反動を利用して大きく息を吸い込み目を見開く。


「いいから寝なさぁぁぁぁいいいい!!!」




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