第十八話 ➃ 自称大賢者さまだ!
そんなこんなで、満足気に鼻息を荒くしながら暫く歩いていると淡い緑色が途切れ目の前が大きく開ける。
夕焼けの眩しさに目を細めた先には、木々を伐採しながら少しずつ村を広げているのだろう。ほんの百メートルほど先には丸太で作った壁が森との境界を示していた。
「ルウ。どう?村を見た感じ、ここが何処かわかった?」
「…村は…見た事ないけど…いえ、まだ全然分からないからもっと見てみましょ」
難しい顔をする二人の前にキョウが飛び出してきて目の前で大きく両腕を広げる。
「オレ達の村フジザクラへようこそ!裕福じゃないが、みんないい奴で最高の村だぜ。あとは夢の中に出てくるスマホって奴があればなおいいんだが、まぁ無い物ねだりだな」
「すまほってなに?」
「ま~たいつもの悪い癖が出てるぞ。ごめんなユーネちゃん、コイツ時々夢の中で見た事と現実がごっちゃになる癖があってさ。時々変な事言い出すんだよ。意味はないから無視していいからな」
ナントカ団の一人が笑いながら、しっかりしろよとキョウの背中を叩く。
「でもさ、妙に現実味があるんだって。因みにオレ、夢の中なら最強無双の大賢者様だからな!お前ら頭が高ぁい!ひかえろぉ~!」
「ハハ~って、小さな子の前で何させんだよ!ほら、早くいくぞ!」
もう一人のメンバーが大袈裟にノリツッコミをして更に肩を叩く。
門番の男に挨拶をしながら、壁の中へと入ると村の中心へと続く大きな土の道があり、それ以外は不規則に小屋のような小さな家が建ち並んでいる。
ユーネはキョウたちに連れられその中を抜け、ひと際立派な平屋の建物へと入る。
中は豪華ではないが、掃除も行き届いておりきちんとした仕事を行っている場所だとわかる。
「あら、自称大賢者さまじゃない。おかえりなさい。もう原因がわかったの?」
奥のカウンター越しに、若いお姉さんがキョウたちに向かって声を掛けてきた。
「あ~そのヒント。というか新しい問題を連れきた」
そんな二人のやりとりを聞きながら、やっとユーネにもわかった。
ここは冒険者ギルドなんだと。
フジザクラタウンのものよりもかなりこじんまりとしており、気がつかなかったのだ。
物珍しくキョロキョロと中の様子を見比べているとキョウが少し横にズレてユーネの姿を露わにする。
「あら、綺麗な赤い髪。どうしたのその子?村の子じゃないわよね」
「あの光の原因に巻き込まれて遠くから飛ばされてきたらしいんだよ。それでさ、この子今日はここに泊めてやれないか?」
「え?ここに泊まるの!?」
そんな話になるとは思ってもいなかった二人は驚いておもわず聞き返してしまう。
宿にでも止まればいいと思っていたので、かなり以外な提案だ。
「だって、こんな出来立てほやほやの小さな村に宿屋なんてないぞ」
「あ~そっか。でもだったら、その辺で野宿でもいいんだけど」
「だめよ!」
受付のお姉さんはジロリとなんとか団の三人を順に見定めていく。
その目には「小さな女の子にキャンプなんて論外として、男やもめに蛆…とまではいかないが、所々薄汚れてだらしない生活をおくっているであろう男どもにも任せるわけにはいかない」と語っていた。
「…わかったわ。日が暮れるまでには用意しておくわ。それでこっちもちょっとお願いと言うか、報告があって。さっきダンジョンから帰ってきたパーティーが、狼みたいな変な魔物の群れから逃げて来たらしいのよ。ザっと見た感じでも数十匹は居たらしいから明日にでも、見て来て欲しいんだけど…いいかな?」
それだけ聞くとナントカ団の三人はお互いに目を合わせて頷く。
「だったら、今からすぐに行ってチャチャっと終わらせてくるさ。折角のお祝い事を邪魔されたくないしな」
「今から!?もう日が暮れるわよ?そんなに急がなくても…」
「いいんだ。元々ユーネから怪人ってやつの話もあったから、今夜は森で野営するつもりだったんだよ」
「と、カッコいい事を言ってるけど、ようは、面倒事は今日の内に片付けて明日は馬鹿騒ぎしたいって、下心からだから気にしなくてもいいぜ」
とぽっちゃりが本音を暴露して笑いあった後、すぐに真面目な顔をして手早く打ち合わせを終えると三人がブーツを鳴らしながら出ていった。
「お祝い事って、なんかあるの?」
「あ、そっかそっか。あのね。明日は私の妹の結婚式があるの。それで村のみんなが色々と協力してくれてるのよ。まぁこんな所じゃお祭り騒ぎできることなんて滅多にないってのもあるからでしょうけどね」
受付嬢は身内の事で少し気恥ずかしいのだろうか変な言い訳をすると、恥ずかしそうな顔を浮かべて、首をかしげて見せる。
だが、ユーネにはそんな些細な情緒など目に入ってはいなかった。
なぜなら結婚式とは、一生に一度だけ華やかな舞台の上で、綺麗な服を着た男と女が豪華なケーキを配るイベントだと認識しているからだ。
そう。言わずもがな、彼女の頭の中は既に自分もケーキ食べたい。で占められているのだ。
「何言ってるの!激レアの幸せイベントじゃ~ん!」
「ふふ、ありがとう!そう言って貰えると凄く嬉しいわ!あ、そうだ…え~と…」
「ユーネ!で、こっちがルウ!」
「わかった。じゃあ泊まる準備もしなきゃだからちょっと村の中でも見てこない?まだ式の準備なんかもやってると思うからさ」
どのみちまだここの情報も欲しかったことだし、そうだね。と答えてギルドを出ることにした。
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