第十八話 ➁ お父さん!?
小一時間ほど鬱陶しい植物をかき分け、道なき道をかき分けた先には予想通り綺麗な小川が飛び込んでくる。
額に汗を浮かべたしかめっ面のユーネは瞬時に笑顔を浮かべ、ルウが止めるもの聞かずに靴を投げとばし、川にドボンと飛び込んでいく。
年頃の娘がいい感じの小川を目の前にして、大人しくしなさいと言うのがどだい無理な話?なのである。
「ぷっはぁ~!生き返るぅ!」
「ほどほどにしなさいよ」
もぅと呆れながらも、ルウも足を漬けて大きく息を吐く。
獣道を姿を消した怪人や魔物に気を張りながら進んできたのだ。
思った以上に精神が摩耗しているのを感じているのだろう。静かに目を閉じ水の冷たさを感じている。
「もう少し休憩したら、変身して空を移動しましょうか。この感じだと、迷子になりかねないわ」
「そだね。流石にこのままだと何時間掛るかわからないし、早くあの怪人を見つけなきゃ」
十分程経ち、少しづつ体力も戻り始めた所でルウの提案に頷く。
さっきまで戦闘をしていて、直後に森の中を歩いてきたのだ。
自分でも大幅に体力を失っている自覚ある今、ユーネも無理をして遺跡男を探そうとは思っていない。
勿論、仕留めそこなった焦りやまったく知らない場所にいる不安が心に滲んでこようとする。
だけども約束したのだ。あとは任されたと。
その約束を反芻すると、自然と落ち着く事が出来た。
だから、今はちゃんと休むべきときなのだ。
遊ぶ時は遊ぶ。勉強するときは勉強する。
ルウのこういった教育方針による切り替えの繰り返しが今に生かされているのだろうが、今のユーネにわかるはずもなく、ルウも別に口にするほどのことではないと思っているので、暫くの沈黙がそこに流れていく。
そんな中で、不意に気持ちの悪い視線が刺さる。
「誰かに鑑定スキルを使われたわね…」
そう言ってルウが毛を逆立る。
いくらのんびりと休憩しているといえど、ここは深い森の中という状況を忘れてはいない。
当然存在するであろう魔物が息を殺して近寄ってきたとしても気が付く程度には、二人は気を張っていたのだ。
にも関わらず、ほんの数十メートルの距離まで不審者の接近を許してしまっていた。
ユーネは裸足のまますぐに戦闘態勢に入り腰を落とし身構る。
そいつは、こちらから発っせられる殺気を物ともせず更に距離を詰めてくる。
気付かれたのを認識したのか、先程までとは一転して堂々と枝葉を鳴らし気配を漂わせ始める。
「…かなり手練れよ。あの遺跡男とやらを優先するなら最悪撤退することも選択肢に入れときなさい。無駄に戦う必要はないわ」
「うん、あくまでユーネ達の狙いはアイツだからね」
緊張に空気がひり付く。
濃厚な気配はもうすぐそこだ。
いつでも行けるように、ユーネは固めた拳に力を込める。
次の瞬間、ばさりと大きな葉をのれんのように掻き分け現れた男の顔は二人がとてもよく知っているものだった。
「アキラ!?」
「お父さん!?」
一気に二人の警戒心が何処かに飛んでいってしまう。
「へ?子供?お父さん?」
現れた真っ黒の髪と目をもつ人物も、まさか森に小さな女の子がいるとは思わなかったのだろう。
予想外の光景と言葉に毒気を抜かれてしまってポカンと目を丸くする。
「お、おいおい勘弁してくれよ。オレはまだ十六だぞ、誰かの親なんて無理無理。それとな、オレの名前はキョウだ!今絶賛売り出し中、「闇夜を切り裂く月影の牙」のリーダーだ!聞いたことあるだろ?」
「「きしょ」」
頼まれてもいないのにポーズを決めるキョウと名乗るアキラそっくりの男の行動に益々、自分らの知っているアキラと重なる。
「…まぁそのダッサい名前は置いといて、確かに似てはいるけどちょっと違うわね。だってアキラは四十超えたぐらいから目元の皺なんかも目立ってきてたけど、この人のお肌はプリップリなのよ!」
「そこなの!?お父さんの方がカッコいい!とかじゃないと、また拗ねちゃうよ?」
「大丈夫よ、どうせここには居ないし!それより、キョウって名前どこかで聞いたことがあるわね…でも、こんなにそっくりなら忘れるはずないんだけど…どこかで会ったのかしら」
「きっとそうさ!開拓村フジザクラ一番の冒険者で将来SSSランクまで登り詰めることが約束されているオレの名前だぜ!知らなって方がどうにかしてるからな!」
開拓村のフジザクラ?
SSSランクの冒険者?
それになんであいつみたいにルウとの会話に入って来れてるの?
しかもお父さんそっくりだし、この人怪しすぎるでしょ。
悪人には見えないけどさ、もしかしたら怪人なんてこともあるかも…。
「…あんた一体何者なの?」
そんなユーネの疑問に被せるように森の奥の方から、人の声が響いてきた。
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