第十七話 ⑲ 三つ子なのか!?
「あの魔物だったら、あそこの岩山の下におねんねしてるよ。お前もすぐに同じように眠らせてやるから安心しな!」
威圧と苛立を乗せて方向だけ示すように親指を立ててクイっと指し示す。
それを見て、今度は遺跡男の方が大きなリアクションを表す。
「岩山?あの岩山ですって!?」
「…そ、それがどうしたのさ」
威圧の方には一切反応せずに何故か岩山なんかに反応しだしたので、また変な性癖をくすぐってしまったかのと、ちょっと焦ってしまった。
「あそこの岩山には女神の涙に埋もれた遺跡がなかったですか!?」
「あ~そう言えば、あった…ね」
散々「私は常に冷静なジェントルメンですよ?」みたいな空気出してくせに、急に駄菓子屋さんに集まる子供みたいな反応しやがって、まぁ遺跡男って名前だから気になるのかもしれないけどさ。
そこまで変わるとちょっと怖いんだけど。
「でもな。確かに前はあった。けど、邪魔だったから熊の魔物と一緒にぶっ飛ばしてやったからもう無いぞ!」
「え?は?邪魔だったから吹き飛ばした?……フ…フフ…ハハハハハ!正直こんな戦いどうだってよかったのですが…そういったわけにはいかなくなったなぁ!黒騎士ぃぃ!!」
怒号と共に背中から更に二本の腕を生やす姿は、あの凶悪なクマを彷彿とさせ先ほどまではあった人間のようなものは徐々に無くなっていく。
数秒後、四つとなった手にそれぞれもつ水晶ドクロの目が一斉に光る。
それは太く早く、鋭くなってジャングルジムの上にいるユーエルを難なく貫く。
ように見えている彼の視界に地を這うゆうに影が走ったと思った瞬間、強烈な衝撃が腹部を貫く。
怪人は口から盛大に液体をぶちまけながら、体をくの字に曲げる。
「だからぁ~お前戦闘苦手なんだから油断しちゃだめだろって!」
砂場でもそうだったが、確認もしてないのに思い込みで敵から目を離すなんて完全に素人そのものだ。
なまじ体の基本スペックが高いもんだから、力押しでもなんとかなってきたのかもしれないが、この完全無欠のユーエルちゃん相手にはそうはいかない。
鼻を高くしながら、折れ曲がった体を腕力に任せて一回転させると、そのまま地面へと叩き付ける。
続けて、硬い地面で跳ねてだらしなく宙に浮く怪人に向け、高く掲げられた踵を真っすぐに落とす。
爆発音と間違える様な轟音を響かせ、穴を掘るように地面に埋まっていく怪人。
人間であれば確実に死んでいるであろう攻撃でも、そこは怪人。
ダメージを負いながらも一応の反撃を試みてくる。
苦し紛れに掲げられたドクロから飛び出してくる光に頬をかすらせながら、ユーエルのカウンターが放たれる。
拳によって砕けちる水晶の欠片が月明かりを反射して、暴力が舞う辺りを美しく彩る。
これ以上時間を掛けるつもりは無いと言わんばかりに、連続して左右の拳が繰り出されていく。
それにより残った水晶ドクロもあっという間に壊され、持ち主である怪人の方も成す術もなく地面に埋め込まれていく。
「これで、終わりだ!!」
大きく振りかぶり辺りの魔力を強引に集め握り潰すように拳を作ると、そのまま凶悪な一撃を振り下ろす。
その衝撃に周囲の土がめくれ上がり、重力に逆らうように空に向かって消えていく。
数秒後、静かになった深い穴の中では腹部を叩かれた怪人が白目をむき動かなくなっていた。
「よし!これで後は勝手にマナに還るでしょ!」
先程から抱いている違和感を残したまま、勝利宣言をしながらユーエルが立ち上がろうとすると背中に焼ける様な痛みが走る。
あまりの痛さに、たまらず嗚咽が漏れてしまう。
もうそのくらい痛かった。
しかし、どんなに状況だろうがこちらの都合などおかまいなしに次々と降ってくる紫の光に、何が起きたか確認するよりも早く横穴を殴って開けると慌てて中に逃げ込む。
溢れんばかりの光から逃れるように懸命に前に堀り進むんでいくが、なにぶん土の中だ。
そう簡単に距離がとれるわけじゃないが、それでも懸命に前に進まなきゃいけない。
何故なら上からくる光の魔力が穴の中で蓄積していっているからだ。
「ヤバヤバヤバ!!」
穴の中に貯まった魔力が臨界点を越える。
それは視界を紫色に染めあげ、光は大きな爆発へと変わると公園の半分を吹き飛ばした。
キンとした無音の音を響かせ、雲にも届かんばかりに立ち昇った煙が少しづつ風に流され公園の残骸が見えてくる。
その中の一点を見つめながら鳥の様な羽を生やした四本腕のスフィンクスが黙って空に浮いている。
「あっぶなかったぁ~今のは流石のユーエルちゃんもヒヤっとしたぞぉ。まさかもう一匹いるなんてよぉ」
「…言葉のわりには随分と余裕そうだな」
壊れた水道から噴き出す水で手を洗う黒騎士に、更に苛立ちが募る遺跡男。
「まっ、泥だらけだからね。ルウに怒られる前にやるのが出来る女ってわけ!わかる?」
「ならば、オレの怒りにも気を使ってほしいものだな」
「まぁそれはどうでもいいじゃん。それより、何でもう一匹いるわけ?」
「さあな。こっちこそお前の都合なんてどうでもいい」
と、ユーエルの後から目の前にいるやつと同じ声が聞こえてくる。
「特にお前のような遺跡に対して敬意を払えないようなやつには尚更な!」
更に増えた遺跡男の声が耳に届くと同時に横に飛ぶ。
鎧を掠め光が横を通りすぎていく。
「もう一匹!?今度は三つ子なの!?」
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