第十七話 ⑱ ケジメだ!
「そう言うことらしいから、さっさとケリつけさせてもらうよ」
「それは困りますね。こちらとしては頑張ってますよというアピールタイムなので。ほら、あなたならわかるでしょ?」
遺跡男はそう言うと、街の外の何も無い空間を指さす。
なにもないじゃんと言おうとしたとき、ユーエルのバイザー越しの目が何かを捕らえる。
遠くの空にとても小さな長方形の物は浮かんでいた。
…ふすま?ううん、あれは障子だ。しかも更に小さな目がびっしりくっ付いてこっちを見てやがる。まじできっしょい…。
「見つけたようですね。あれは偵察に特化したモクモクレン…これも自分で名乗っているだけですが、そういう名前の怪人です。彼が見たものは即座に総帥の元に送られているんで私も堂々とサボるわけにもいかないわけです。ご理解いただけますか?」
(心情は理解はできるけど、おかしいわね。あんな便利な怪人がいるならどうして…ユーネ、あれが何時からこの街にいるのか聞いてみてくれない?)
(うん。わかった)
何を言いたいのかは分からないけど、街のピンチでも冷静なルウが珍しく緊張しているので、ここは素直に言われた通りにすることにした。
「おい!あのキモイのは今までもずっと街の上に居てストーカーしてたのか?」
「ん?…彼には他に主要な任務がありますから、ここに来るようになったのは最近だと思いますよ。なにやらこの街で重要な人間を見つけたらしいですが、私はあまり興味がありませんで詳しくは知りませんのであしからず。さて、話もそこそこに…宜しいですか?」
ユーネには分からなかったが、ルウがまた何か考え込んだみたいので、もう良いのだろう。
「いいよ。情報ありがと。でも、手加減はしないからな」
「ええ、構いませんよ。そっちの方がこちらも都合がいいので」
そう言い終わるとユーエルを四方八方から突き刺すように、光の柱が円を描きながら次々飛び出してくる。
それらを無視して、怪人へと真っすぐ突っ込んでいく。
先ほど躱されたばかりなのは百も承知だ。
ルウの助言通り、あの武器もスゲー危ない臭いがプンプンする。やべー奴だ。
呪いがどういったものかは知らないけど、きっと誰かを憎み害そうとする心を形にすれば、きっとあんな気配を漂わせるだろうと何となく、そう思う。
そんなものに当たれば、きっとユーエルでもただでは済まないだろう。
今までの敵とは少し毛色の違う敵と攻撃。
しかし、数多の怪人とやり合ってきた黒騎士ユーエルとって、その程度は脅威にはなりえない。
所詮は当たれば。の武器なのだ。
故に真っすぐ、迫りくる光の柱をステップで躱しながら、最短を詰める。
「戦闘が得意じゃないってのは本当みたいだな!」
敵の力量を確信し、あと数メートルと迫ったところで思いっ切り足元の砂場を踏みつける。
高く舞い上がる砂が二人の視界を覆う。
「煙幕代わりですか!しかしこの程度で!」
同時に数本の柱が二人の間に壁を作りだし、黒騎士の侵入を防きつつ砂を吹き飛ばしていく。
「そして、後から狙って来るんでしょ?知ってますよ」
更に怪人の後方からも光が飛び出す。がしかし、勝ち誇りながら振り返ったそこには鎧の欠片どころか焦げた臭いすらない。
「そっちに何かあるのか?」
すぐ後ろから声が聞こえくる。
だが、そこは今の今まで目を向けていた場所だ。
誰もいなかったからこそ、振り向いたのだ。
それなのに…。
ユーエルの右ストレートが振り向きざまの遺跡男の頬に吸い込まれていく。
キリモミしながら吹き飛んでいく怪人を、今度は大きなスプリングにくっ付いたパンダがお迎えする。
成されるがままパンダにぶつかるとスプリングの反動であらぬ方向へと投げ出されしまい、今度はシーソーの上へと落ちる。
それに合わせて向かい側に走り飛び上がったユーエルが、シーソーの反対の端を思いっ切り踏みつける。
遺跡男は自身の意思が反映されない体と何とか動く手足をバタつかせ空へと舞い上がっていく。
それを追うように黒騎士は滑り台を駆け上がり、がら空きの背中へ拳を叩き付けて地面へと落とす。
遅れてジャングルジムの上に降り立つと、倒れる怪人にカッコよく人差し指を付きつけて偉そうに上から台詞を決める。
「ほら、苦手だったじゃん。それともユーエルが強すぎたのかな?フヒ!」
とは言っても、さすがにこのくらいで倒せるなんて思っているわけじゃない。
さっさと本気になってもらって、あの“びる”とやらを召喚する余裕をなくさないといけない。
なので、大きく息を吐きながら立ち上がる怪人に対し更に続ける。
「あのさ。妙に余裕こいてたけど、ここはアウェイだって忘れてただろ?ユーネはな、毎日ここに来て、どこに何があるか目を閉じていてもわかるほどだぞ?完全に地の…地のあれがあるのにどうやって勝つつもりなんだよ」
「イタタ…そうですね。仰る通りです。これまで幾多の怪人を退けてきたアナタ相手に観せる戦いをすればいいなんて、甚だ思い上がっていました」
考古学者の様な体をボコボコと変形させていく。
頭上の帽子はライオンのたてがみのような髪飾りへ、手足も同じように鋭い爪をもつ太く勇ましいものに変わっていく。
変わり果てたその見た目は、まるで本で見たスフィンクスとかいう人面の動物のようだ。
しかし、その見た目の禍々しさが増すのと比例して力の大半を自身に回し始めたのか、“びる”の召喚は思惑通りに止まってくれた。
良かったはずなのだが、なにか小さな引っ掛かりが生れた。
なんかこの変化の仕方は前に見たことがあったのだ。
「なんかお前、なんとかっていう変な魔物みたいだな」
あのミトラちゃんを悲しませたクソ魔物を彷彿させるそれに、ちょっとだけムッとしてしまう。
まぁ自分でも八つ当たりなのはわかってはいるけどね。
「…ああ。濃化種のことですか、参考にはしましたからね。そう言えば、調べ終わったクマ型の奴をこの街の近くに捨てたんですが…どうやらアナタに倒されたようですね」
捨てた!?唐突な怪人の告白にユーエルはバイザーで顔半分を覆っていなかったら、コントのようにわかりやすく丸くなった目を晒してしまっていただろう。
世間は狭いとかいうかなんというか、どうやら八つ当たりじゃなかったみたいだ。
ふ~ん。なるほど。あの事件の犯人はコイツだったってわけ。
じゃあ、真犯人さんにあの時のケジメを付けてまらわなきゃいけないな!
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