第十七話 ⑮ 長方形の石だ!
彼女の家が視界に入ると矢のように急降下して、屋根裏の窓を蹴破って転がり込む。
中ではソロがマウイさんを、リズがミトラちゃんを必死で抑えていた。
「二人とも正気なの!?」
「ユーネか!今のところはな!でもいつまでもつか分からないぞ!」
「大丈夫!」
すぐに瓶ごと薬を口に突っ込むと、その瞬間死んだように床に倒れ込み寝息を立て始めた。
…大丈夫って言っちゃったけど…これホントに大丈夫なの?
もしかして、一滴でよかったとか、そんなんだった?
あまりの効き目にちょっと恐くなってしまう。
しかしソロリズの手前、不安な顔を見せるわけにもいかないので予定通りという顔を作って、指示を出す。
◇
一方、探検家のような怪人は本当に黒騎士にはあまり興味がないようで、公園のベンチに腰掛け、赤く光る自身の手を見つめていた。
「う~ん。思ったよりかなり魔力が余ってしまいましたね。では、これを使って総帥様の命令でも遂行するとしますか。一応仕事をしているポーズだけは取っておかないといけませんからね」
探検帽子の怪人が、自慢のカイゼル髭の先を摘まんで整え直すと、そのまま空に向け手を掲げる。
「異世界ふしぎ発見!」
手の平から真っすぐ放出される魔力が、空に渦を巻く分厚い雲を呼び寄せ始める。
◇
リーヴルの部屋の窓を蹴破り、大きな音のする一階へと向かうとブークのおじさんだけじゃなくて兵隊おじさんたちも暴れていた。
その中でリーヴルが何とか攻撃をさけて一人一人抑え込もうとしているが、流石に一人ではうまくいっていない。
「大丈夫!?」
リーヴルは視線だけでこっちを確認すると、やっと来たかという感じで悪態をつく。
「全然大丈夫じゃない!攻撃するわけにもいかないし、マジでやばいってこれ!」
「はい、じゃあコレ飲ませて!睡眠薬!引くぐらい効くから!」
受け取りながらリーヴルが何とも言えない顔をしたがすぐに元に戻る。
若干恐くなったのだろうが、信じるしかないと切り替えたのだろう。
受けとった瓶の蓋を豪快に開けおじさんたちの口に流し込んでいく。
「これ後でちゃんと起きるんだろうな?」
「大丈夫だって!…タブン…」
「…信じるからな」
全員に飲ませ終わりやっと余裕のある会話を行っていると、外の騒がしさが響いてくる。
顔を合わせイヤ想像をすると、玄関をぶち壊してゾンビのようになった街の人が外から流れ込んできやがった。
しまったと思ったときにはもう遅く。攻防が逆転し、今度は寝ているおじさん達を守らなければならなくなってしまったのだ。
これがブークさん一人とかいうのであれば、飛んで逃げればいいだけだからなんの問題もないけど、転がる大人が五人もいて、さらに襲ってくるのは近所の人全員だ。
「あんたは大丈夫?変な感じはしない?」
ここでリーヴルも変になったら堪らないと、安心したくて問いかけてみる。
「ああ。不思議と…なんともない」
「ならよかった。もう薬はないから、全員気絶させるしかないけどいける?」
「まぁ何とかするしかないだろ。それに、あの数だと作戦とか考えても上手くいきそうにないし」
リーヴルが自嘲気味に笑って盛大に穴の開いた玄関を指さす。
その先には、通りを埋め尽くす人の波が暴れ散らかし、街を破壊しながらこちらに向かってきているのだ。
もうユーエルとリーヴル二人で何とかなるんじゃねってレベルじゃない。
「いやいや、人居過ぎだろって!」
「それもだけど、上見てみろよ…」
リーヴルの視線を追って空を見上げる。
「何あれ!?」
そこにはぶ厚い雲が渦を巻き、張り付くように浮かぶ魔法陣から、時計塔ほどある長方形の石が街に向かって落ちてこようとしているのだ。
「ユーネ!お前はアレのところに行け!」
「いやいや、あんた一人でこの数をどうにかできるわけないじゃん!どうやって、おじさん達を守るの!?」
「でも、アレが街に落ちたらどのみちだろ!」
そんなことは言わなくてもユーネだってわかっているけど、だからといってリーヴルだけここに置いていくわけには…。
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