第十七話 ⑭ 街の人達がだ!
「いやですね。そんな凄まないで下さいよ。ただ仲間の危機を助けたいと思っただけじゃないですか」
…正直ムカつく。何でって?
こうやって簡単に誘導されてしまったからだ。
どう考えても、コイツは悪人だ。
勿論、こういった心持ちになるのはソロリズや黒鳥男の影響があるのは確かだ。
だが、こいつら怪人にも仲間を大切にする心があって欲しいと簡単にほだされている甘ったれた自分に腹が立つ。
「どうでもいいから、それに触るな」
「いやいや、何をおっしゃるかと思えば瀕死の仲間に触るなと?あなただって、こちらの仲間を触って助けようとしてたじゃないですか。それを純粋たる仲間である私には触るなというのですか?」
そういってユーエルの言葉を無視して、テニスボールサイズまで縮んでいる三尺玉男を掴みとる。
その様子を注視していてわかったことがある。
どうやら三尺玉男の方にはもう意識はないようだ。ただ、あの小さな中にグルグルとアイツが抑えた爆発するはずだった魔力が渦巻いている。
今からでもあれに強い刺激を与えれば、この街を吹き飛ばすことぐらいは簡単にできるだろう。
もしかすると、コイツの狙いはそれかもしれない!
そんな風に考えていたのだが、目の前で起こったことについ驚いてしまった。
「フフ。もしかして私がこの玉を爆発させようとかって思っていますか?安心してください。そんな勿体ない真似はしません。そこで横になっている彼がそうであるように、我々強い力を持つがゆえに自我が顕著に出る傾向にあるのですよ。むろん総帥からの命令が優先度が高いのは変わりませんが、それよりも自分の欲望を満たせるチャンスがあれば見逃すような事はありません。そしてそれが、今なのです!」
そう言うと考古学者の様な怪人は、おもむろに三尺玉男を口に入れ飲み込んだのだ。
それには傍で倒れている怪人の黒鳥男でさえ、驚きの声を漏らしてしまう。
「食いやがった…お前ら怪人って仲間を食えるの?」
「まさか。そんな話聞いたことがない」
そう言えば前に怪人に寄生した怪人がいたけど、こいつら案外なんでもありなんだなと考えると、食ったぐらいなんともなく感じ…はしないけど、幾分かは耐性ができるってもんだ。
いちいち驚いていたらキリがない。もうこんなの開き直ったもん勝ちだな。
「さて、これでこっち準備は整いました。が、貴方は私を相手にしててもいいんですか?」
「なんの話だよ?」
「いえね。噂だと貴方は、我々怪人から街の平和を守っているそうじゃないですか。なのに、いつまでそこにいるのかと思いまして。ほら、聞こえてきませんか?正気をなくした人々の声が」
しまった!そうか、花火男は最後ほんの少しだが爆発したんだ!
その影響は確実に街まで届いていた。という事は狂わせる能力も届いていたと考えるのほうが自然だった!
そうなると一番に心配なのはミトラちゃんたちだ。
即座に黒鳥男を抱え上げ、自宅へと飛ぶ。
玄関ではすでにお父さんが待っていてくれた。
手に何やら瓶を持っているが、今はそれどころじゃない。
「お父さん、コイツをお願い!悪い奴じゃないから!」
抱えている怪人を強引に押し付けると、それだけ言ってすぐに飛び出そうとするが、待てと呼び止められる。
「みんなの所に行くんだったら、この速攻性の睡眠薬を持っていて飲ませろ。それでウチに連れてきて寝かせておけばいい」
「他の人たちは?」
「急いで解除薬を作るから、大丈夫だ!」
街中の人の分を?と驚いたけど、まっ、お父さんだから問題ないか。
ここはさっさと自分にできることをやった方がいい。
「わかった!じゃあお願いね!」
「ああ!コイツも状態異常もお父さんに任せておけ!」
頷きあって飛び立つ。先ずはミトラちゃんちだ。
あそこはすぐ近くだし、ソロリズもいるから効率もいい。
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