第十七話 ⑫ 相棒だ!?
ユーエルは全ての力を攻撃へとまわす。
防御をいっさい無視して召喚した大量の蝶が、花吹雪のように夜空を彩っていく。
それはロケット花火の中を最短距離で真っすぐ進む黒鳥男へと一発たりとも被弾させないように意識を集中させて撃ち落としていく。
今、攻撃受けたらヤバいよなぁ。とちょっとヒヤヒヤするが、今は両方同時にこなすってのは贅沢すぎる。
あくまで片方づつやらないと、全部ダメになっちゃうからね!
そして遂にアイツがあと数十メートルのところまで辿り着く。
時間にしてほんの数秒飛べば、もう剣の間合いだ。
もちろん花火男だって黙って待っているわけじゃあない。
即座に回避行動をとるが、背後にまわりこんでいた蝶からの攻撃を受け向かい合うしかなくなってしまう。
「まだまだぁ!」
蝶の群れを操作して壁を作り視界を塞ぐ。
これで時間を稼ぐと思っているんだろうが、違うからな!
蝶の壁の僅かな隙間から、ギラりと金属の硬質な光が飛び出してくる。
伸縮自在の黒鳥の剣だ。
「私たちの勝ちだ!!」
勝利の確信とともに突き出された剣が硬質な音と共に止まる。
「ヒヒヒ。残念だったな。その伸びる剣はさっき見せたばっかだぜ」
ハラハラと蝶の壁がほどけた後には、またもやススキ花火で剣を止めている姿だった。
勝ち誇ったように笑いながら剣を弾き、反撃に転じる花火男。
振り下ろされるススキ花火の死の輝きをその目に映しながらも、黒鳥男の表情にはなにも浮かばない。至って冷静そのものだ。
「遂に諦めたか裏切者が!だがもう遅いぞ!これからお前にふさわしい死をくれてやる!」
「そんな暇があればな!」
何も無いはずの真後ろから、子供の声が耳に滑り込んでくる。
すぐに事態を把握すると、振り返り防御姿勢をとるがもう全てが遅かった。
蒼い騎士の拳が下段から白い尾を引きながら迫ってくる。
恐怖に硬直する体の中心を重く鈍い衝撃が通り過ぎていく。
あまりの速さに完全に打ち抜かれてから全身が持ち上がり、クルクルと舞い上がっていく。
「があああああ!!なんで!?お前はずっと向こうにいただろうが!」
「バカがよ!いつまでもあんな隙だらけ突っ立てるわけないだろって!」
「くぅぅ!!だがぁ!!!」
「フッ。その「だが」はもう来ないぞ」
回転する視界に斜め上から灰色物体が突っ込んでくる。
更に斜め下からは、蒼色を黒色に戻した騎士が大斧を振りかぶりながら迫ってくる。
「「これで!!トドメだぁぁぁ!!!!」」
「ク、クソがぁぁぁ!!!」
夜空に三尺玉を中心とした黒色と白色の強大な光が美しいクロスを描く。
すぐに地面に下りたユーエルに対し、消えゆく光の残滓を見つめながらまだ浮かんでいる黒鳥男。
「どうした?」
「あぁ…まぁ…嫌われてはいたけど一応同僚ではあったからな。そんな男を自分の手で葬ったとなると…色々とな」
「…そうだね」
ユーネには同僚とかいうのもいないけど、知り合いと戦うことになったら、勝っても負けてもいい気分はしないだろうと思う。
しかもこれからその気持ちは、より深いものになってしまうだろう。
だから、あとはいつものようにユーネ達がやればいい。
まっ超絶最強のユーエルちゃんの足を引っ張られても困るしね~!
「まぁそれはそうとして、良い連携じゃなかったか?これからは未来永劫二人でコンビを組んで街を守っていこうじゃないか!」
「イヤだよ!こっちは、タダでさえみんなに嫌われて悲しいってのに、怪人が相方だなんて恐怖の対象にしかなんないだろ!」
「そうか、そうか!なら今日から私達は相棒だ!」
「ヒ、ヒャヒャ!」
ふざけた事をぬかす黒鳥男のセリフに被せるように甲高い声が響いてくる。
声が耳に入って来た瞬間に誰の声で何が起こったのかすぐに理解できた。
あれで生きているなんて、流石はユーエルを討伐する為に選ばれたというのは嘘ではなかったみたいだ。
「仕留め切れなったか…」
警戒するユーエルに対して黒鳥男は条件反射的に尾羽を散らしながら飛び立っていく。
その先には、赤く明滅するボーリングの球程の大きさになった花火男が浮いていた。
先ほどとは比べ物にならない小ささだが、その魔力は鋭く凶悪さを増している。
「お前らも街の人間も全員全員ゼンインみちづれだ!ヒャヒャ!オオオレの命を全部使いきってやるから、盛大に一華咲かせてもらうぜぇぇxうぉhpw!!」
「…狂ってる」
あまりに狂気を含んだ声色に、思わずたじろんでしまう。
きっと命を懸けるというのも、躊躇なく実行するだろうという迫力がある。まともに会話の通じる相手とは明らかに異なるのだ。
しかも、あの明滅する赤色を見ているとイヤな汗が背中に流れる。
すぐに対処しないと不味い。とすぐに地面を蹴るが、先行する黒鳥男が制止するように手の平をこちらに向ける。
「ここは私に任せろ!友よりも私の方が速いからな!」
そう言うと不気味に笑い続ける真っ赤な玉を掴みとり、頭上へと掲げるように両腕を突き出すと、月へと向かってグングンと昇っていく。
「あのバカ!そのままじゃ自分も死んじまうかもしれないだろうが!!」
すぐに我に返り慌てて羽ばたく。
その瞬間、強烈な殺気が背後から放たれユーエルの足を止める。
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