第十七話 ⑪ 息を合わせるぞだ!
その時、吹き抜けた風に乗ってふわりと香った火薬の臭いにユーネがハッとする。
「…もしかして、今までのロケット花火か?」
ユーエルの言葉に花火男はおぉ!と驚いたように手を叩く。…というか布を叩き合わせる。
「流石は噂の黒騎士さん。気が付くのが早いねぇ!そうだ、お前たちが散々壊した花火さ!一個一個は大したことなくても、これだけの数だ。そうとうな量の魔力が下に溜まっているだろうさぁ!そうなればぁ~お前たちのせいで街が滅んじまうなぁ。ヒィヒヒヒ!」
ムカつく態度を強引に無視して考える。
どのみちコイツをサッサと倒すことに変わりはないんだ。変更することはない!
ただ一つ問題なのは、アイツの異様な手数だ。ロケット花火やネズミ花火は勿論のこと。
きっと近接武器のススキ花火もあの四本だけじゃないだろう。
そういった状況で速攻で倒すには、どうしてもユーエルだけじゃ手数が足りない。
「こうなったらなら、息を合わせるぞ。あんなのでも黒騎士を倒す為に選別されて送り込まれたのだ。街を崩壊できるというのも嘘ではないはずだ」
なんか気になる事を言われたが、それは置いておいて手を組むと言ったの?ユーエルと?
さっきも手伝うとか言っていたけど、ホントにホントに本気なのか?
…手放しで信じられる話じゃないけど、ここは話に乗った方がいいかもしれない。
何故なら時間がないからだ。
だけど…。
花火男の言う通り街にポツポツと灯りがともり始めている。
人々はすぐにでも爆音の原因を探し始めるだろう。
そうなれば、黒騎士と怪人が一緒に戦っているぞ、やっぱりアイツは怪人の仲間だった!となってしまう。
今までの我慢や努力があっという間に無かったことになってしまうのだ。
自分がキツイのは勿論だが、ルウたちが心配しちゃうというのもあって、なるべく表に出さない様に頑張ってきたのに…。
だけども…こいつは怪人だし…でもでも、長引けば長引く程街とみんなは危険になっていくし。
(どうしよう…)
悩んでいる間にも花火男からの追撃が放たれ、戦いはさらに険しくなっていく。
(いいのよ。どっちを選んでも。結局、正解なんてだれにもわからないんだから。でもあなたの心がなんと言っているのかは、ちゃんと聞いてあげなさい。そうすればどんな結果になっても、乗り越えていけるから。そもそもユーネはそんな頭を使うタイプじゃないでしょ)
(な…何言ってるの!?ユーネはバリバリ頭脳派だよ!?それこそ灰色の脳細胞よ!)
(フフ、灰色よりもきな粉色でしょうけどね)
可笑しそうに笑うルウの言葉にいつの間にか気持ちが落ち着いていた。
…やっぱりうちのおか…ルウが凄いなって思う。もちろんお父さんも凄いけど。ルウも全然負けてない!
ふつふつと沸いてくる熱い気持ちに、力が溢れる気がしてくる。
もうこれで負けたら嘘でしょ!
「はぁ~まったく仕方がないな~。この優しいユーエルちゃんが手伝ってやるから遅れんなよな!」
「!?…それはこっちのセリフだ!友よ!」
一瞬目を丸くした黒鳥男だったが、すぐに背中から黒い羽を生やすと先に飛び立ったユーエルへと並び飛ぶ。
夜空に蒼と黒の光が螺旋を描く。
それは花火男が一瞬固まってしまうほどの美しく、幻想的だった。
「ふ、ふざけるな!この夜空で一番綺麗なのはオレだけでいいんだよ!後からきて他人の見せ場にチャチャを入れるんじゃねぇ!」
更に手数を増やし攻撃を激化させるが、促成のコンビとは思えないほどの連携を見せる二人に一蹴され、ついに黒鳥の剣により体の中心辺りを大きく切り裂かれてしまう。
悲痛な叫び声を上げる怪人へと追撃をかけようとした二人の動きが止まる。
何か聞きとれないキーキー声で怒鳴り散らしながら赤く色づき膨らんでいく花火男。
その姿は見惚れてしまった自分になのか、二人対する嫉妬からなのかは分からないが怒りを表しているのは確かだ。
「なんだ、あの魔力の量は…」
黒鳥男が汗を垂らしながら、独り言のように呟く。
「あんたが知らないなら、ユーエルが知ってるわけないでしょ」
「それはそうなんだが…」
正論大好きなクセに自分が言われると、タジタジなところがちょっと面白くてつい笑ってしまう。
「ほら、はやく行くよ。さっさとトドメささなきゃ!ここまで来てビビッてたってしょうがないっしょ!」
「あ、ああ。そ、そうだな!ならば今度は私から行かせてもらおう!」
再び連携する二人だが、花火男も今度は簡単にはやらせてはくれない。
弾幕を張り、回避に専念することで二人の攻撃を寄せ付けない。
ただ逃げるだけ。これがジワジワ二人の心を蝕んでいく。
優勢だったはずの二人がいつの間にか息を切らして、赤く光を漏し始める三尺玉に余裕のない表情を向ける。
「友よ!あいつの体を見ろ!時間がないぞ!」
「わ~ってるって!一応作戦はあるけどさ…」
確かに考えはあるけども、かなり危険だ。
全部の力を攻撃にまわしてしまう為に小さな花火の攻撃もそうなのだが…。
「よし!それでいくぞ!」
こちらの心配をよそに内容も聞かずに二つ返事で飛び出していく。
おいおい。と呆れながらも、そんな行動で示されれば答えないわけにもいかなくなるわけで。
「じゃあそのまま飛んでいけぇぇ!!」
読んで頂きありがとうございます!
宜しければ、評価やコメントをして頂けると、
励みになりますのでよろしくお願いいたします!