第十七話 ➄ 正義の怪人ソードオブジャスティスだ!
「うるせー!こっちはさっきからタイミングを見計らって良い所を狙って登場したんだよ!後から乗っかってくんな!」
「そんな冷たい事を言うなよ!そっちだけで盛り上がったら、疎外感が生まれてオレに惨めな気持ちに味合わせてしまうかもって気が回らないのか?その位の気遣いも出来ないなんて、人として情けなくないのか?え?まったく最近の子供は一体どうなっているんだ!親の顔が見てみたいぞ!」
早口で正論をまくし立ててくる変態。
ユーネは一旦コイツを黙らせないと話が進まないと悟ると、いつでも行けるように小指からゆっくりと拳を握り込んで準備をしておくことにしたが、流石に名前ぐらいは聞いてあげないさよ。とルウが仏のような優しさをみせるものだから、仕方なく手を開き人差し指を突きつける。
「うっぜぇ!!いったい誰なんだよ、おめぇはよぉ!?ほら言ってみろ!」
「誰?人に名前を聞く時は自分から名乗るのが筋ってもんじゃないのか?まったく気遣いも出来なければ、常識も持ち合わせていないのか?」
「な、なんなんだコイツ…ああ言えばこう言いやがって。めんどくせーな!おい!」
「面倒?初対面の人に向かって、その態度は失礼だと「わーったつうの!!私はユーネ!でこっちがルウ!これでいいだろ!それで、お前は誰だ!」
「フッ!ならば答えよう!オレは絶対正義の怪人!ソォォォドオォォブ!!ジャスティス!!どうせ白鳥男とか黒鳥男だとか思ったのだろうが、違うからな!ソードオブジャスティスだからな!間違えるなよぉ?」
灰色の羽を広げて、腰を振る男のどこにジャスティスがあるのかは分からないが、話が広がってしまうのでスルー一択だ。
一択!それしかない!わかっている。わかっているのだが、あまりのウザさについ口が開いてしまった。
「うっわ~!またうぜーの来やがった~~!!」
「なぁこいつら怪人のセンスってなんでこうクサイというか、いちいち鬱陶しいんだ?」
「そんなことユーネに聞かれてもわかるわけないじゃんって…ちょっと待って、こいつ今怪人って言ったんだけど!!」
リーブルも大人達もハッとして身構えるが、セクハラ怪人野郎は人差し指を立て横に振る。
「おおっと心配するな。ここにはそこのか弱き少女を助ける為に来ただけだ。なにか危害を加えようとは思っていない。それに、この件は「ユーネちゃん」が今からどうにかしてくれるのだろう?」
そう言うと、焼け残った椅子の上に腰を下ろし、おもむろに手足を組む。
(ユーネ…)
(うん、大丈夫。油断はしてない)
不測の事態が起こった際に対応が遅れるであろう姿勢に、穏やかな魔力。
この怪人…え~と名前何て言ったけ?あ~黒鳥男?まぁそれでいいや。
この黒鳥男の言葉通り、今から戦闘を前提としているようにはとても思えない。
まぁ普通の人間なんてどうとでもなると思っているだけかもしれないけど、こっそりズルいことは考えているかもしれないので油断はできない。
それこそ、また良い所で腰のブラブラしているのが伸びてきたりなんかしたら、色々ぶち壊しだ。
「おいユーネ。ミトラを連れてきたってことは何かわかったんだろ?アイツはオレが気にしておくから、始めろよ」
纏う空気の変化を感じ取ってくれたリーブルから助け船が入る。
「…そうだね。ありがと。今はミトラちゃんの方が優先だからね」
ユーネは一つ咳をすると、大袈裟に両腕を広げて皆の視線を集める。
「皆さん、ごせーしゅくに。今から名探偵ユーネちゃんの推理ショーを始めたいと思います!まず初めに…犯人はお前だぁ!!」
(ユーネ!違う!それは最後よ!最後!見せ場で使うセリフ!)
(あっそうだった!ついつい)
買ったはいいがタンスに奥にしまっていた探偵セットにやっと出番が来たからか、テンションが高くなってしまった。
…ダメダメ!今はミトラちゃんの件が優先だ!
ズレていこうとする思考を無理矢理に元に戻すように、もう一度大きく声を上げる。
「というのは冗談で~まずは、今回の事件をおさらいしたいと思います!ではブークおじさん、火事があったのはいつですか?」
「あ?ああ。火事は昨日の夕暮れ時だ。陽もほとんど沈んで街灯がともり始めたころだね」
「はい。では、原因はなんだったんですか?」
「そこのマウイのガキが魔法で火を付けやがったんだ!」
ユーネの言葉を遮るかのように聞かれてもいないマッシが急にしゃしゃり出てくる。
その完全にわかっていない振舞いに、リーブルなんて戦々恐々としてしまう。
「はい。そこ五月蠅いですよ」
一言と共にユーネの周りの景色が揺らぐ。
ふざけているようだが、奥底には怒りの炎が轟々と燃え続けているのだ。
マッシもやっとそれを理解し、すごすごと兵の後へと隠れていった。
「げ、原因はまだわかっていない。目撃した者たちの話だと突然店が爆発したように見えたとしか証言がないからだ。ただ、ミトラちゃんに似た背格好の女の子がいたという話も出て来てはいる」
「そうですか。では、ミトラちゃんの話を聞かせて?火事が起こった時に現場にいたの?」
「…居たことは居た。けど…わからないの。あの時歩きながら風の魔法の練習をしていて、空から光が降ってきたと思ったら、躓いてちゃって…そしたら目の前の建物が爆発して燃えだしたて…」
「ほら見ろ!オレの言った通りだっただろ!自白しんたんだからサッサと捕まえろ!…うっ…な、なんでも、ない…」
言わなきゃいいのに、ギラりと一睨みしただけで黙ってしまう。
だけども、ここでも少し疑問が浮かび上がってくる。
こいつなんでこうビビり散らかしながらもわざわざ突っかかってくるんだろう。
ガタガタ震えながらも、前に出てきて声を張り上げる。
そんなに大事なら火事なんかにはなっていないはずなのに、なんだか心がちぐはぐになっている印象を受ける。
まぁ自分の家が目の前で燃えてしまったショックだからと言われれば、そうなんだろうけど。…アレのせいか?
取り敢えず優先順位を間違えないように、話を進める。
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