第十七話 ④ お前は敵だ!
ユーネが走り去って、一時間もすると詰め所の中は言い知れぬ不安に侵されて、足早にリーブルたちも火災現場へとやってきていた。
今だに漂う焦げた臭いと、くすぶる熱に火事の怖さを思い知らしらされる。
幸い消火活動も早く外壁は石造りだったため、さほど延焼もなくマッシのケーキ屋だけで被害は収まったのだが、内部は派手に崩れていた。
だけども、何故か小一時間は自分達よりも早く出たはずのユーネの姿が見当たらない。
しかし、アイツがミトラの事を放っておくなんて考えられないのだが…。
きっと何かしているのだろう。今はそう信じよう。
ただジッと待っていても時間が勿体ないので部下のおじさんたちと、何故かついて来たマッシさんと一緒に吹き飛んだ屋根瓦をパキパキ踏み鳴らしながら店の周り一周する。
「さて、リーブル。お前はどう思う?だれかの仕業だと思うか?」
「う~ん。どうだろう。ぐるりと一周した感じだと外側には怪しい所はなかったけど」
「そうだな、じゃあ残るはうち側か…」
今度は正面から中に入る。
中は思いのほか陳列スペースというか…お客さんへと対応する店の表側は比較的に綺麗に焼け残っていて、割れたショーケースにはなんとか形を保ったケーキがみてとれる。
それと比べて奥の作業スペースは酷い。
炎の激しさを物語るように、一面ススで真っ黒だ。
出火元は十中八九この部屋からだろう。
だが正直この真っ黒な瓦礫の散乱した中から何かを探すという事は、無理だと思う。
例え探すモノがわかっていたとしても、黒一色しかない床から探すとなるとゾッとする。
「おいおい、こんないつ爆発するか分からない危ない場所で何をするつもりだ。そんな事よりも、早く犯人を捕まえろ。わかっていないないようだから一応言っておくが、御用達を受けているほどの街一番のケーキ屋をいつまでもそのままにしておくというのは、それだけで街自体の損失なんだ!お前らみたいな木っ端兵ごときが私情を口を挟んでいいような話じゃないんだよ!」
「コイツ!さっきから言わせておけば!」
マッシのあまりの態度に兵士の一人の飛び掛かろうと踏み出していく。
「止めろ!!」
「しかし隊長!!」
「しかしではない!我々の仕事を思い出せ!感情的になれば見えているものも見えなくなる。そうなって泣くことになるのは誰だ!なんの罪もない街の人々になんだぞ!…それはお前たちもわかるだろ?」
「…すみませんでした」
「いや、いい。オレもさっきからどうやって合法的にアイツを殴れるか考えているところだからな」
兵士たちの空気が緩んだところで、何処からともなく不思議な声が響き渡る。
「ククク。場も温まってきた事だし、そろそろ頃合いのようだな!」
「だ、誰だ!」
「誰だと問われれば答えてやろう!フジザクラタウン一の名探偵!最強可愛いユーネちゃんとは私のことだぁぁ!」
柱の影から某有名探偵のような帽子にとんびコートを羽織った少女が飛び出してくる。
と、その後から不安げな表情のミトラも顔を出す。
まぁミトラちゃんが不安そうな顔をしているのは、よくある事なので気にしないで問題ないだろう。
そこに居た一行的に「なるほど。ミトラを連れ来るためにここから離れていたのか。うんうん」…とは勿論ならない。なるわけがない。
片手に虫メガネなんかも持っていることから、きっとこの探偵セットを取りに帰ったのだと無言の内に悟ることができるからだ。
因みに何故マウイさんは来ていないのかというと、もしもの為にアキラさんと相談しているらしいと後で話していた。
「おおおお前はさっきのガキ!何しにきやがたった!」
「そんなの…「それは、貴様の悪事を暴き、友を救うために決まってしるだろう!!」
ユーネのセリフに被せて、何処からともなく渋いバリトンボイスが響き渡る。
みんなが一斉に辺りを見回すと、通りに面した塀から鳥の首だけにょきっと飛び出しているが見てとれる。
人間でいう所の腰の辺りから生えている長い鳥の首…
自然にみんなの心が一つに重なり合う。
そうこの瞬間に世界平和への第一歩がここに踏み出されたのだ。
【うん。無視をしよう】
言葉を介さずに全員が頷きあったところで、時間を巻き戻したかのように同じ光景が繰り広げる。
「お前はさっきのガキ!何しにきやがった!?」
「そんなのミトラちゃんの無実を証明するために決まってんだろって!この親友のユーネちゃんがなぁ!」
「お前みたいなガキが無実の証明だとぉ!?」
「おいコラ!無視をするな!無視とはその人の尊厳をないがしろにする事だぞ!」
無視したはずの変態が、臆することなく腰から生える鳥の頭を盛大に揺らしながらて、間にしゃしゃり出てきやがった。
その見た目はくすんだ灰色の汚い鳥と人間を混ぜたような感じだ。
白鳥じゃなくて、黒鳥というのだろうか。あんな感じで綺麗な灰色の羽を背中に付けていて、折角探偵セットを着てきたユーネよりも目立てやがる!
もうコイツが何者だろうと、この時点でお前は敵だ!
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