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第二話 ➄ デカいイモリだ!



「それじゃあ、俺たちで班組むか?オレはリーヴルっていうんだ。よろしくな!」

班を組めというギルドのオッサンが五月蠅いので、一番前に居た灰色の髪の男の子が両隣にいた二人の男の子に声を掛ける。

歳の頃はユーネと同じぐらいだろうか、見るからにやんちゃそうな男の子だ。


その様子を見ていた他の子供達も次々に班を作っていく。

元から人数が少ないこともあって、大した時間もかからず班分けが済むとディーモが自分に注目させるようにパンッと手を叩く。


「よし、ちゃんと組めたみたいですね。今日はしっかりとルールや決まり事を学んで帰るようにして下さい!これは、遊びではなく研修ですからね!わかりましたか?」

ハイ、と元気よく返事をする子供達に満足して、後を振り返るとアキラ達の方も何とか纏まったみたいだ。


「では、そろそろダンジョンに入りましょうか。アキラさん、私達が先行しますのできっちり10分してから入ってきて下さいね」

ディーモを先頭に表紙の隙間から、先の見えない空間へと躊躇なく足を踏み入れていく。

腹は出ていてもこの男も元冒険者だ。この程度のダンジョンに後れを取る程鈍ってもいない。


「ほら、剣の高さが6㎝落ちているじゃないですか!そっちの子も、第一ボタンが開いていてますよ!冒険者のしおり第2項に書いてあったでしょ!決められた事はちゃんと守りなさい!そんな事ではクズになってしまいますよ!クズに!」

次々に現れる魔物を相手に戦闘の基本を実践でレクチャー?しながら、ゆっくりと進んで行く子供の一団。


もちろん研修なので、スライムなどは比較的大人しい魔物は、ディーモの監督付きではあるが班ごとに連携させて戦闘を行っていく。

その中でもひと際才覚を感じる子がいる。

先程の灰色の髪の男の子リーヴルだ。単独で次々と魔物をなぎ倒しながら進んでいる。


オレの母さんは衛兵の隊長してたんだぜ!と班のメンバーに自慢げに話をしている所を見るとうまく才能を引き継ぐ事が出来たのだろう。

しかし、何を焦っているのか一人で突っ込んで行っては、他の二人と距離が空いてしまう状況が起こりがちだ。


「はぁ、これだからクソガキは…」

こういった勝手な行動はディーモが一番嫌がりそうな事だが、何故か声を荒げるわけでも無く、一つため息を吐いてブツブツ文句を言うだけだ。

その後も特に問題も無く一同は地下二階へと続く大階段にたどりつく。研修の予定は次の階で終わりだが、一旦足を止め、強い語気で気持ちが緩み始めた子供たちに釘を刺す。


「皆さん!これから先は魔物も増えてきます。今までのように楽勝ムードで好き勝手にやっていると死ぬ事になりますよ!特にそこの・・・お前らぁぁぁッ!!!」

怒声と共に突き付けられた人差し指の先には、その辺に咲いていた野花を鼻の穴に突っ込んでウェーイしながらぎゃははは!と下品に笑う幼女と黒猫の姿がある。


先程から緊張感の欠片すら感じさせないその態度に、いい加減ディーモの頭の血管が切れそうだ。

一体、親は何をしているんだと後ろを振り返ると既に酒盛りを始めていやがった…。


「子供はピクニック気分で親はダンジョン内で飲酒…ハッ、所詮はルールすら守れないような男とその子供という事ですか」

先程の算術の件で少しは見直したのだが、どうやら幻想にすぎなかったようだ。

溢れ出すため息を隠そうともせずに、もういいと足音を響かせながら大階段を降り始める。


安全の為に子供達を散々脅しはしたが、所詮は初心者用とされるダンジョンだ。

階下に降りても現れる魔物は先程と変わらず、違いといえば多少数が多くなったほどだろう。


そうなると、多少腕の立つ子供が調子に乗るのは仕方のない事で、今まで以上に他の子が置いてけぼりになる事が増えている。

それに合わせたように、大人組がゆるんだ赤い顔で階段を下りてくるものだから、ディーモの心労は計り知れない。

このままでは、カミからも見放されそうな勢いだ。


「このクズども!いい加減にッ……!!」

片手で胃を押さえる彼に追い打ちを掛けるように、突如ダンジョン内にけたたましい音が鳴り響く。


『異常…検知。ま…の…汚…による破棄…の再起ど…へ…いこ…。さ…動へ移行。』

けたたましい警告音と共に意味の分からない言葉が繰り返される。

「なんだこれは!?異常?一体何の事だ?これも、アホガキのせいか!?」

数多くのダンジョンに潜ってきたディーモも初めて経験する非常事態に全身が泡立つ。


ディーモが大人達の方へ目をやれば、向こうはすでに戦闘態勢に入っている。酒は入っているが、流石はベテランという事だ。

おかげでこっちは子供の方だけに集中すれば良さそうだ。

「さぁ、あなた達は私の近くに集まって、班ごとに安否の確認をしなさい!」

「ディーモさん!リーヴル君がいません!あいつ、どんどん一人で先に行っちゃって!」


慌てた声を上げる子共の方を振り向くと、先程の灰色の髪の子の班だ。

ほら見た事か!ルールを守れとあれだけ言ってきたのにこのザマだ!

だが、そんなクズでも助けに行かなければならないのが大人の責任だ。


「私が探しにいきますから、あなた達は大人の方へと向かいなさい!」

こんな緊迫した状況にも関わらず、少しは瘦せようかな。などと考えてしまうほど重く感じる体に気合を入れて走り出す。


数十メートル進んた所で突如足元が大きく揺れると、蜘蛛の巣の様なヒビが地面に広がり、思わず足を止めた瞬間に、ヒビは大きく暗い口と姿を変えて、四人を飲み込んでいく。



     ◇



「うっ…ここは?…確か穴が開き…ッ!」

気を失っていた事に気が付きディーモが慌てて上を見上げると、天井に開いた穴が再生されて閉じていく所だった。

幸いな事に気絶していたのは、ほんの数秒の事だったらしい。いくら雑魚しか出ないダンジョンと言えども、一時間も気を失っていれば待っていれば確実な死だ。


「よりにも寄って、このタイミングでダンジョン事変が起こるなんて」

辺りを見渡すと、すぐに身を起こして落下によるダメージを確認し、問題なく動ける事に取り敢えずホッとする。


「ダンジョン事変」──昔から突発的に、何らかの形で内部に異常をきたす事が知られているが、滅多にあるものでは無く、それこそ十年に一回程度の話と聞いている。数々のダンジョンに挑んで来たディーモも初じめての体験だ。

それがこのタイミングで起こるなんて、今日は本当についていない。


「さて、色々考える事はありますが…まずは自分の身の安全ですかね」

広く開かれた空間にポツンと置かれた自身の目の前には、二対の真っ白い羽を広げた巨大なヤモリがジッとこちらを見ている。


人型だったり、動物型だったりと形は様々だが、背中の大きな純白の羽。それは黒いダンジョンのヌシである証。

コイツらを倒すと一時的にだが魔物が居なくなったり、暫くすると復活している事からダンジョンを司っているマスターではないかと思われている存在だ。

まぁ実際の所はわからないのだが。今はそんな事どうでもいい。大事なのはこの状況をどうきりぬけるのかだ。


「普段をこんな浅い所に出るはずはないのですが、トカゲ型と会うのは初めてではありませんし、所詮は浅いダンジョンのヌシ。何とかなるでしょう!」

気合と共に腰の剣に手をとり、一気に間合いを詰める。


爬虫類系のモンスターの弱点は総じて、柔らかい腹部と決まっている。

しかも、腹下に潜りさえすれば、押しつぶされる事だけに注意すればいい。


「出会ったばかりですが、これで!!」

長年の知識を武器に、一気に剣を振りぬくと、ガチンッ!と硬い音が空間に響く。

視界の隅に光が走り、追いかけるように反射的に顔を向けるとヤモリの腹部に放った剣が半ばから折れ、あらぬ方向へと飛んでいっている光だった。


「馬鹿な!ミスリル製の剣だぞ!」

答えを求め腹部に目をやると、そこにはおびただしい数の小さな人の腕が蠢いている。

腕はじわりじわりと伸びきて、ディーモの体を掴む。


「…なんだ!止めろ!離せ!!私に触るんじゃない!!うわあぁぁあ!」



     ◇



もう何匹目か分からないゴブリンの死骸を見下ろしながら、喜びを噛みしめる。

生まれて初めての魔物との闘い。


思ったよりもずっと簡単だった。

もしかして、オレは強いのか?

きっとそうだ!才能があるんだ!英雄になる才能が!


「ねぇ、私達だけでこんな奥まで行っちゃダメって言われたじゃない。早く皆の所に戻ろうよ」

折角、いい気持ちになっている所に隣からが水を差される。


「うるさいなぁ。そんなに皆の所が良いなら、一人で戻ればいいだろ」

勝手に付いて来たくせに、二言目には決まり事だ。ルールを守れだ。と口うるさい幼馴染を放っておいて先に進む。


だいたい、そんなものは強い奴が弱い奴に言う事を聞かせる為のものだ。

強いオレには関係ない!だけど、まだ皆がオレの強さをわかってないのも確かだ。

その為にもっと見せつけなきゃいけない。だったら…


よし!と気合を入れ走り出した所で、体をこわばらせるほどの大きな音がダンジョン内に響き渡る。

悪い予感に即座に振り返り汗ばむ手を伸ばしてみるが、続けて起こった地面の崩落にあっという間に二人とも巻き込まれ、闇に飲み込まれていく。



「ゲホッゲホッ!」

新鮮な空気を吸い込もうと肺が無理矢理その機能を働かせる。合わせて走る背中の痛みに、沈んでいた意識が浮かんでくる。

「ここは?…落ちた衝撃で気を失っていたのか…」

どのくらい気を失っていたのかわからないが、目を開け上半身を起こす。

背中の痛み以外は特に問題なさそうだ。


「たくよぉ。急に穴が空くなんて何が起きたんだよ」

だが周りを見渡し思う。…ツイていたかもしれない。ずいぶん下まで落ちたであろうに、即座に悪態を付く余裕はある。それに、すぐ隣に倒れている幼馴染にも大きな怪我は無さそうだ。


よかった。コイツが勝手に付いてきたといっても、怪我でもされると流石にいい気持ちはしないからな。

「おい!起きろ!」

「うぅ…ん。む…し。虫食えよ~美味しいだろ~。ウへへヘ」


不穏な事を口走っている事に若干引いてしまうが、崩落の音を聞きつけていつ魔物が集まって来るかわかない状況だ。オレ一人ならまだしも、コイツがいる状態でのんびりしていたくはない。


「おい、そんな夢はいいから起きろって!ここは危険なんだよ!」

満足そうに笑顔を浮かべるだけで一向に起きてくれない幼馴染みに、少々手荒いが頬を数度叩く。


「ハッ!!私の料理はどこ?ちゃんと食べたの?」

「食べてもいないし、食べる気もねぇよ!そんな事より早く起きろ、ここだって魔物がいるんだぞ」

「ちぇっ!夢かぁ~。ざ~んねん。てか、ここ何処だっけ?」

幼馴染はのんびり立ち上がり、首をまわし辺りを不思議そうに見渡す。

その物怖じしない態度は肝が据わっているというか、鈍いというか。日ごろ気付かなかった一面に凄いなとちょっとだけ尊敬してしまった。


「…落ちたんだよ。急に地面に穴が空いただろ」

「あ!そうだった!ほら~だから、戻ろうって言ったのにぃ!」

「心配すんな!オレがちゃんと家まで帰してやる…よッ!」

後から忍び寄っていたゴブリンを一太刀に切り捨てる。


今自分達が何処にはわからなくなって状況はかなり悪いはずなのだが、ワクワクする自分がいる。

なんならボスでも探してみようかとつい考えてしまう。

だが、どっちにしろコイツが五月蠅いから一度上まで帰ってからだなと、上への階段を探す事にする。

「よし、じゃあさっさと行くぞ!」


少し歩く速度を緩めて歩くと、先の方から異様な気配が伝わってくる。

「ねぇ。この先に行ったらダメだよ!凄くイヤな予感がする!」



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