第十七話 ➂ 兵隊さんも大変だ!
「どうした。父君よ。先ほどの槍が当たっていたのか?」
「あ、いや大丈夫です。ちょっと立ち眩みがしただけなので…」
「そうか。ならいいが。まだ幼い娘がいるのだ。体は大事にするんだぞ!ハハハ!ではな!ジャスティース!!」
そう叫ぶと、白鳥の頭の変態はさっそうと店を出ていった。
「…何だったのアレ?」
「お父さんにもわからん。というか、知りたくない」
「あれ、二人ともどうしたんですか?」
配達から帰ってきた兄弟が、なんとも言えない顔をした親子に首をかしげる。
◇
衛兵の詰め所では、追い払われたマッシがあーだこーだとブークに唾を飛ばしている。
いくら説明しても、じゃあお前らが店を立て直してくれるのか!?無責任な事を言うな!と無茶苦茶な理屈を振りかざしてきて話ならないのだ。
だが無茶苦茶であろうとなかろうと、領主様の名を出されればマウイさんとミトラちゃんを捕縛することになってしまうのは時間の問題だ。
しかも、頭が痛いのはそれだけじゃない。
先ほどから玄関ドアの隙間をこじ開けどす黒い殺気が入り込んできているのだ。
これはそうとう怒ってるなぁと、ため息を吐きながらどうしたものかとこめかみを押さえると、扉が勢いよく開く…というより吹き飛んでいった。
うん。想像通りだ。
「おじさん!一体どうゆう事なのか説明して!!」
赤い髪を逆立てズカズカとなん遠慮もなく女の子が入ってくると、その背中越しに息子が手を合わせてごめんとジェスチャーを行っている。
部下達はというと、もう慣れたもので壊れたドアを付け直し、散乱したゴミを集め始めている。
「ユーネちゃん。もうちょっと普通に入ってきてくれなきゃまたドアが壊れちゃったじゃないか」
「そんなことはいいから!なんで、ミトラちゃんが逮捕されなきゃいけないのって!」
「いや、ただ話を聞きたいだけなんだよ。おじさん達はなんで火事が起きたか調べるのも仕事だからね」
「その後に、捕まえて賠償金を払わせるのさ」
ブークおじさんの後から、薄ら笑いを浮かべた見慣れないオッサンがしゃしゃり出てきたがった。
しかも、こいつ今ミトラちゃんを捕まえるとか言ったよな。
ユーネにはす~ぐわかってしまった。
こいつのせいだってね!
ユーネは何も浮かばない顔で何も言わずに床を蹴る。
しかし振りぬかれた拳は彼の頭上で空を切る。
そう動くと読んでいたリーブルが即座に羽交い絞めにしたことで功を奏したのだ。
「少し落ち着けって!まだミトラもマウイさんも無事だろ!」
「だって、コイツ今捕まえるって言った!」
「大丈夫だって!父さんが何とかしてくれるから!な?ちょっと信じてくれよ!」
「…ほんとに、ホント?」
リーブルには悪いけど、少し疑いを含んだ目でブークおじさんを見ると笑顔で頷いてくれた。
「ただ、ユーネちゃん。冷たく聞こえるかもしれないけど、おじさん達の仕事は悪い事をした人を捕まえることなんだ。だから、もしも、もしもミトラちゃんが犯人だったら捕まえなきゃならないんだよ。そこはわかってくれるよね」
「だったら、今からユーネがミトラちゃんの無実を証明してやる!!」
両手を腰に当て堂々を胸を張るその姿はとてもカッコよく映るはするのだが、大人達からすれば現場検証も聞き込みも終わらせている現状でこれ以上何かでてくるとは思えないのだ。
だけども、真っすぐな目を向けられるとつい目を逸らしてしまう。
「う~ん。わかった。じゃあユーネちゃん調べて貰おうかな。ただし!時間は今日の夕方の鐘がなるまで!おっと、これ以上は無理だからね。おじさんは隊長といっても何でも好きにできるわけじゃないからさ」
「うん!それでいい!じゃあ、すぐに速攻で爆速で行ってくるね!」
「あああ!ちょっと待って!」
駆け出そうとするユーネをブークが慌てて引き留める。
「急いでいるからといって、さっきみたいにいきなりドアを蹴とばすような事をしちゃダメだからね」
直したばかりのドアをまた壊されてはたまらない。
部下の面々もゴクリと唾を飲み込む。
「わかってるって!ユーネはそんな乱暴なこと好きじゃないから大丈夫だよ!」
「ホントにホントにホントに頼むよ!!下手するとおじさんクビになっちゃうからね!」
「もう、おじさんもリーブルと同じで心配性なんだから!」
親子のその心配がどこから来ているかなんて、想像だにしないユーネであった。
そして数分後、路上で木片の掃除をする兵隊さんたちが目撃されたのは言うまでもないだろう。
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