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第十七話 ➀ もう一つのケーキ屋さんだ!


もうだいぶ陽も落ち、薄い月が照らし始めている通りをミトラが片手間に魔法の練習をしながら帰路についている。

ユーネ達とひとしきり遊んだ後、今日あったことに思い出し笑みを浮かべる。

「ふふ。ほんとユーネちゃんたら…」

その瞬間、流れ星が瞬き視線が上にそれた事で、石畳の凹凸に躓き体が宙に浮く。

しまったと思った時には、手の平の上で舞っていた風魔法が目の前の建物に飛んでいく。


ちゅどーーーーん!!!


「え…」

爆音と衝撃をまき散らして建物を上三分の一が綺麗に吹きとんでしまう。

残った部分もあっという間に火に包まれていく。


目の前で崩れおち、轟々と燃え上がる建物を目の前にして体が動かかない。

(なにこれ…私がやったの…?でも、火の魔法なんか使ってないし…)


そこで前にみんなでお邪魔した鍛冶屋の風景が思い起こされる。

火を強くするために道具を使って風を送っていたことを。


更に目の前の半壊した建物には見覚えがある。

マッシさんというおじさんがやってる同じケーキ屋さんだ。


(もしかして、窯に風が入って…それで…でも、この時間にスポンジを焼いてるなんてことは無いはずだし…でもでも、それは自分の家のやり方であって…もしかしたら…)

ギュッと握った手の中に滲み出る汗が、妙にぬめりつく。


ネガティブな感情は加速しながら、転がり落ちて行く。

どんどん人が集まってくるのと合わせて、顔から血の気が引いていくのが自分でもわかる。

足は自然に赤く染まる建物から背を向けて走り出す。


そのすぐ近くで夜空に撃ち上がる大きな花火に照らされたオッサンが、絶望に膝を折り呆然としていることに気が付く余裕はミトラにはなかった。


「店が…先祖代々続いてきたオレの店が…」

炎に包まれたケーキ屋だったものを見ながら店主のオッサン。マッシが呟く。

「夕食をとりに小一時間ほど酒場に行っていただけだぞ?それなのに…」

燃え盛る火を見つめていると、ふとした事を思い出す。

(そう言えば、ほんの少しの間だからと思ってオーブンの火を落とさずに…そのまま…それが魔力を溜めている女神石に反応して爆発を…?)


顔は青ざめ、先ほど胃に収めたものが一気にせり上がってくる。

酷い音を立てながらひとしきり出し切ったことで、少し冷静さが戻ってきた。


だが、冷静になった事で現実が見せてくる。

金が無い。

進行形で燃えていると言うのもあるが、ここ数ヶ月マウイの店にごっそりと売上を奪われたおかげで、立て直すほどの金銭的な余裕がないのだ。

「領主様の御用達まで頂いたことのある店がこんな簡単に終わってしまうのか…ダメだ!オレは子供のころから老舗と敬われるこの店を誇りに思ってきたんだ!そんな簡単に諦めてたまるか!」


しかしだ。意気込んでみたのはいいがどうする?

結局、金がないという所に戻ってきてしまう。

これがせめて付け火であったなら、犯人に対する賠償や領主さまからの援助なんかでどうにか…いや、いや。そうこれは付け火だ!オレのせいじゃない!


そういえば、さっき忌々しいマウイの所の娘がいたな。

あの娘は最近魔法なんかも使えるようになったらしいじゃないか。

だったらよ。自分の店の為に競合店を燃やすようなことをやってもおかしくないよなぁ。


なるほど、わかったぞ!そういうことか!

犯人はあの娘だ!だから、走って逃げたんだ!そうに違いない!


「あのガキ!きっちり落とし前つけてもらうからな!」



     ◇



次の日の朝、微妙な顔をしたリーブルの父親ブークを先頭に数人の衛兵がマウイケーキ店を訪ねてくる。


「お、これはブークさん。今日はどうしましたか?あ、もしかして今日はリーブル君のお誕生日とかですか?だったら…」

ブークはショーケースからホールケーキを取り出すマウイを慌てて止める。


「あ~いや。そうじゃないんですよ。マウイさん。あ~実は…ミトラちゃんがですね~その~放火の疑いがあって…」



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