第十六話 こぼれ話 ② 守らなければならない。
カードゲームのイベントがあったり、ワイバーンが着たりと昼間は色々あったが、深夜になるといつものように街は静まりかえっていた。
ある家の屋根裏では、無遠慮に入りこむ月の光がベッドで横になる兄弟を照らしている。
目を閉じる弟の隣で、月の光から目を逸らすように兄は天井を睨んでいる。
「…兄ちゃん」
「まだ起きてたのか?明日起きれないぞ」
そう弟をたしなめながらも、自分も目が冴えて眠気など一分もありはしない。
理由はわかっている。
この街中に充満するワイバーンの血と肉の匂いが否応がなく兄弟の本能がくすぐるのだ。
だが、これだけならまだ我慢できた。
困ったことに理由はもう一つあり、そちらがなんとも頂けない。
そいつは、心の奥底の衝動を強制的に膨らませれくる。
どこか馴染みがあって、霧のように思考を覆い隠す不思議なマナ。
幸いそれは、何かしらの意図があったわけでは無く、ただ漏れ出たというだけのモノだったようで、オレはなんとか抵抗する事ができた。
だが、まだ幼い弟は強く影響を受けてしまった。
「兄ちゃん、なんか美味しそうな臭いがするね」
「駄目だ。我慢するんだ。オレ達はもう人間なんだぞ」
「…うん」
「明日、仕事が終わったら兄ちゃんと一緒に牛丼食べにいこうな」
「…うん。わかった」
兄は弟を頭から強く抱きしめると、何かから逃げるようにギュッと目を閉じた。
守らなきゃいけない。
守るんだ。あらゆるものから…
読んで頂きありがとうございます!
宜しければ、評価やコメントをして頂けると、
励みになりますのでよろしくお願いいたします!