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第二話 ➃ 初めてのダンジョンだ!



それからルウの熱心な教育により、あっという間に一週間が過ぎ去り、運命の日を迎える事となった。


しかめっ面のユーネを祝福するように晴れわたった空の下で、街の門をくぐり、小さな森を横切ってから、三十分ほど歩くと心地いい風が吹く大きな平原に出る。

すると、お父さん見て!見て!凄いよ!と可愛らしい感嘆の声が頭の上から聞こえてくる。


予想通りの反応に満足するアキラと目を丸くするユーネの視界一杯には、ドカンと黒い表紙の「巨大な本」が若草色の中につき刺さっていた。

誰しもが異様に感じるそれは、ダンジョンと呼ばれる地下へと伸びる迷宮の入り口だとアキラが答える。


こいつは世界各地にいくつも点在していており、大きさはもとより、刻まれている文字、内部の様子、出現する魔物までまるで統一性がない。

その異様さと地下へ地下へと下っていくことから地獄の入り口だ。なんて意見もあるが実際のところ何の為に生まれて、存在しているのか一切わかっておらず、長年物好きな研究者たちのネタの一つとなっている。


確かなのは中にはマナが多く溢れているが故に魔物が生まれやすくなっている事とその生まれた魔物を人間が狩り、生活の糧にするようになったという歴史ぐらいだろう。

いや、あと一つ。表紙が黒と青と二種類あり、黒い方が青と比べて格段に難易度が低いと言う事ぐらいか。


因みに、マナというのは世界を巡る無色透明の謎のエネルギー体の事だ。

こいつが魂と反応して魔力を産み出していると…言われている。

本当かどうかは知らないが、人によって魔力の量など個人差がある事から、オレは半分は当たっているじゃないかと思っている。


まぁ話はそれたがそんな感じの黒い表紙に挟まれたここに出現する魔物は、他の場所と比べてみても弱く、深さも大した事が無い為に、今回のように初心者の研修に利用したりと、駆け出しが基礎を学ぶ場所になっている。


なので、日ごろはポツポツと新人がいる程度で閑散としているのだが──今はズラリと屋台が建ち並び、両親に手を引かれた子供が我儘を言う光景が広がっている。

その様子はまるでお祭りのそれだ。


なんかオレが…と言うか「伝説の冒険者アキラ」がダンジョンの引率をするという話が広がり、この機会を逃すまいと多くのベテラン冒険者や野次馬が一目でも見てみたいと集まってきたらしい。

更にはそれを商機とみて商売人が集まり、たった数日で小さい街ほどの賑わいまで発展したというわけだ。


対して研修希望の子供の数はたった一桁。

こちらはいつも通りみたいなのだが、大人の参加者はすでに百人を超えている事と比べると、当初の目的がなんだったのかわからなくなっている。


ギルドとしては予定以上の収入が入りそうで喜ばしいことだろうが、こうも収拾が付かないとなると、いらぬ騒ぎに発展しかねない。

それこそ何か犯罪が起こればギルドに責任があるなんて言い出す奴も出てくる事だろう。

そんな事を考えていると不意に横から声が掛る。


「アキラさん。あの人達はあなた目当てに来ているんだから、ちゃんと面倒見てくださいよ」

ディーモのその微妙な表情とふくよかなお腹をさする様子は、きっと同じ事を考えていたのだろう。

だが、そんなギルドの事情などオレの知った事ではない。


「はぁ?無理無理!こんな数を一体どうやってまとめるんだよ!」

「それを何とかするのが、今日のあなたの仕事でしょ。誠意を見せてください。誠意を」

「ぐぬぬ…そうかよ!そんじゃあ勝手にするから、後で文句言うなよ!」

責任感につけ込まれた事で、渋々ヤロウ共を向けて声を張り上げ列を作らせていく。


そんな喧騒をよそに、少し離れた芝生の上ではベイベースター・ラーメンをポリポリしながら、ユーネが寝そべっていた。

虚ろな目に青い空を映して何をしているのかと言うと、なんで自分がこんな所にいるのだろうと、何やら難しそうな事を考えているのだ。


あれだけ念を押されたのに自分で参加すると言った事は既に記憶には無く。

強制的に勉強もさせられたこのイベントに良いイメージなんか一つもない。

なのに、一体自分はここで何をしているのだろうかと謎は深まるばかりだ。


「コレを食べてしまうと♪もうお菓子のストックがないな~♪」

「コレが終わったら♪すぐに駄菓子屋さんに行かなきゃな~♪」

変な歌を歌ってしまうほどに。


ん…終わったら?…違うな。間違っているぞッ!

今、行けばいいじゃないか!元々はお父さんの責任だ!ユーネにはまったく関係ない!

よし、条件は全てクリアされた!出発だ!

元気よく立ち上がり眠っているルウを抱き上げると、そっとダンジョンに背を向ける。


「何処に行くのですか?あなたはこっちですよ」

突然背中に掛けられた声に振り返えると、目の前にはタプンとしたお腹が揺れていた。

「あ~その~、フヒ!」

チッ!腹は出てもさすがはギルドの職員という事か。


ポヨンとしたお腹に押されて、子供たちの集団へと近づくとディーモがイヤらしい笑みを浮かべる。


「さてさて、あなたは算術ができるらしいじゃないか。少しお願いしてもいいですか?」

うぅ…と口ごもるユーネに対して、目が細め口角を上がげながら続ける。

「今、ここにいる子供達でパーティー作りたいのですが──あーこれは研修ですからね。それで、前衛後衛を二人ずつ入れたパーティーは何組作れますかね?勿論、わかるなら、で結構ですよ」


最初から、こんなガキからちゃんとした答えが返ってくる事なんて期待していない。

貴族でもないただの街の子供に、算術なんて出来るわけがないのだから。

「クク。あとから、アキラさんに何と言ってあげましょうかねぇ」

そんな大人げない愉悦に浸っていると、隣に立つクソガキから信じられない言葉が飛び出す。


「ユーネとお前を入れても、前衛後衛2:2人ずつのパーティーが二組と2:1のパーティーが一組になって力が均等にならないよ」 

「お、お前ぇ!?」

い、いや、そんな事より除法を使ったのか!?こんなビチクソガキが高等算術を!?い、いや、勘がたまたま当たったのかもしれん。あ、あと一問だ!


「そ、それは均等でないと困るぞ」

「じゃあ、子供同士3人で3組作ればいいじゃん」

「なっ…に!」涼しい顔をして即答だと!?

当然の結果に、今度はユーネの目が細まり口角が上がっていく。

フヒッ!お前が組分けをさせてくる事ぐらいなぁ、ルウがとっくにお見通しなんだよ!

子供達の参加人数から、パンツのサイズまでしっかりリサーチしているユーネ達に死角はないのだ!


視界に端にクスガキのにやけた顔が入ってくると、先程までのディーモの驚きはすぐに何処かに飛んでいってしまう。

認めろと言うのか!?こいつただのバカガキではないと言う事を!

伝説の冒険者の娘というのは伊達では無いという事を!

いや、きっと不正を働いているに違いない。あのアキラさんの事だ、証拠がなければ問題ないとでも思っているはずだ!


「ねぇねぇ、おじさぁ~ん。今どんな気持ちぃ?ねぇどんな気持ちなの?ちょっとユーネに聞かせてみてよおぉぉ?」

「クッ、クソガキがうるさい!うるさい!!ほら、お前らも見てないで、早く三人組を作って班になれ!今日の研修はその班で行うからな!」

ユーネの煽りを無視すると、周囲であっけに取られている子供達を怒鳴り散らしていく。


「フヒッフヒィ~!!」

勝ち鬨をあげるように響き渡るユーネの下品な笑い声に、魔物が出たのかと広場が一時騒然としてしまうのであった。




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