第十五話 ⑤ わかってんな!だ!
「そ、そうはさせるか!」
セブレの口が裂けるほど。大きく開くと、怪人の声が響き渡る。
どうやら、セブレが意識を失ったことで逆に意識が戻ってしまったようだ。
「どへへへ。ガワを壊したことは褒めてやるよ。だがな。あの時のような失敗しないぞ。このまま引き籠って再度魔力を溜まったらもっともっと強いガワを再生してやるから、そこで指をくわえて待ってなぁ」
喉の奥で、鋭い目を光らせた怪人はそのまま奥へと引っ込んでしまった。
「どうするの?あの兄弟のときみたいに吸い出す何てことはできないでしょ?」
物理的に寄生していているのだ。マナのようにはいかないとルウが念を押す。
しかも魔力が溜まったらまたゴーレムを復活させると言っている以上、悠長に構えている時間はない。
だが、下水の時みたいに外に出て来てくれないと浄化の魔法も使えない。
セブレを抱えながら、どうしようかと考えていると、みんなが駆け付けてきた。
ゴーレムが崩れるのが街からも見えたそうで、あとから衛兵のおじさん達もくるそうだ。
じゃあ元に戻った人たちはおじさんに任せるとして、今は折角人が増えたのだから、アイデアを出して貰おうとみんなに状況を説明することにした。
「ん~だったら、自主的に出てきてほしいところよね…なんとかしてセブレ君の中の居心地が悪くできれば…」
「おらぁぁ!」
ミトラが言い終わるか終わらないかの内に、片手に吊るされたセブレがぐうぇという嗚咽を吐きながら体をくの字に折り曲げる。
「うおおっ!お、お前何やってんだ!?」
なんの躊躇いも無く腹パンしたユーエルに対し驚き戸惑う一行。
「いや、衝撃が入れば、居心地が悪くなるかなって」
「なんでそうなんだよ!!」
「じゃあどうすんのさ!」
「なんで逆切れしてんだよ!」
『まぁまぁ二人とも、落ち着いて。でも話は逸れるけどヘドロって側溝の掃除をするときとか大変なんだよね~水を吸って結構重いし…』
ソロリズの腰を押さえる動作を見てハッとした表情を浮かべたユーエルが、セブレの色の悪い手を掴む。
掴んだ反対の手で指先を包むように握り込み大量の魔力が流し込んでいく。
「あ!お前、そんな事したら怪人が喜ぶだろうが!」
リーブルのツッコミにふふん!とユーエルが得意げに笑う。
「この間、家の周りの掃除をやったときにお父さんがさ。ホースの口を潰して水をびゃッー!ってドロに掛けて押し流してたんだよね!」
『なるほどな。泥と同じように魔力の圧で押し流すってことか。やるじゃないか。あ、いや、待て!それ体の方は大丈夫か?コイツ普通の人間だぞ?』
「わかってるって。ちゃんと加減はしてるし。それに今怪人は魔力を溜める為に集めようとしてるわけでしょ?」
「あ~!勢いよく入ってきた魔力を全部自分の所に集めちゃうわけね」
「そう。だから変な所に行かないし、それに寄生した体を壊したら自分の攻撃手段も人質の価値も無くなるから、嫌でも顔を出すことになるってわけ」
ユーエルの言葉に信じられないものを見る様な目をする三人に、ちょっとムッとして頬を膨らましながら更に魔力を流し込んでいく。
「gggGGGyぎゃあああ!」
数秒すると思惑通り、セブレの口から勢いよく黒い塊が飛び出してきた。
そのまま待ってたかのように、ミトラが風の魔法でヘドロ男を空高く舞い上げる。
「ユーエルちゃん!」
「わかってる!今度こそ逃がしはしない!いっけぇ!ワールドエンド!オーバーァァァ・ショッ!!」
予めこうなることがわかっていたかのように、既に腰を落とし脇に抱えていたオブセフトラバーを空へと解き放つ。
「な、なんでだ!オレは……!それでも勝てないのかぁぁぁ!!」
小さなヘドロには大きすぎる光に飲み込まれ、小さな爆発を起こし消えていく。
「当たり前だ。お前の相手はこの黒のシュバルツナイツ、ユーエル様なんだからな!」
マントをひるがえし、キメポーズを取るといつもの様にルウと分かれていく。
「やったね!」
ミトラちゃんとハイタッチを交わすよこでセブレが目を覚ます。
「お!目が覚めたか。怪我もなさそうでよかったな」
「…お前ら何でオレなんかを…お前らも父さんに恩を売りたいのか?」
「はぁ?こっちはあんたのお父さんが誰かとか知らないし、お礼なんか考えてる暇なんかなかったつーの!」
「だったら、なんでオレみたいな嫌な奴を助けたんだよ!」
「確かに嫌な奴っていう所は否定できないね!」
「いや、否定しとけよ!」
リーブルのツッコミが即座に叩き付けられる。
「もうウルサイな!とにかく、友達が困ったことになった。だから、助けた!それ以外に何があるのさ?」
父親への恩もお金も否定され、それでも何かと聞かれると、答えようがない。
だって自分が持っているものは、結局父親に依存したものしかないのだから。
いくら、気に食わなくて反抗したところで、結局は威を借る狐なのだ。
そんな中で自分は何者だなんて思ったところで、答えなんて見つかるわけもなく。
さっき言われたように、環境を利用して自分で踏み出さなきゃいけなかったんだ。
「ほら、無いでしょ?」
俯き答えないセブレにユーネが続ける。
「きっと、あんたも逆の立場ならそんなの関係なしに助けようとしてたよ」
「…できないよ。そんなこと」
自分の事すら出来なかったのにと俯くセブレの肩が強く叩かれる。
「なに言ってんだよ。ミラーボール男の時もビビらず最後までちゃんと付いて来れたじゃないか。お前の中にもちゃんと勇気があるって証拠だろ!」
さわやかに笑い掛けられて、つられてひきつった笑顔が浮かんでしまう。
「じゃ、じゃあチミたちの言う通り少し頑張ってみようかな」
「よし!後の事は衛兵さん達に任せて街に帰るとしますか!」
「あ、ちょっと待てよ。ほら、これ助けてくれたお礼」
セブレが渡してきたのは、例のアクークのカードだった。
「おお!マジ!?やっぱりいいことはするもんだね~…あ。後から返せなんて言ったら、暴力に訴えるからな!わかってんな!」
「当然のように暴力をちらつかせるな!」
すっかり場の雰囲気もよくなった所で、街へと戻る。
街では建物が壊れたりはしているが、みんなに被害は無さそうでよかった。
怪人やドラゴンの騒ぎで、良くも悪くも慣れてきているおかげだろう。
このままユーネが世界征服をするころには、フジザクラタウンも立派な街になっていることだろう。
「あ。そう言えばお前何で、王都からわざわざこんな所まで来たの?」
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