第十五話 ➁ 生きていたのかだ!
「誰だ!」
辺りを見回してもキョトンとした子供たち以外誰もいない。
誰だっていいだろ?だって、全てがどうでもいいと言ったじゃないか!なぁっ!
突然セブレの体から爆発したように一気に魔力が溢れ出すとそれは次々に金貨へと姿を変え地面を彩っていく。
「なんだ?いきなり真っ暗になったぞ…暗い…暗い!誰か灯りを付けろ!金ならいくらでもくれてやるから早くしろ!いいのか?オレの機嫌を損なうと、親父にいい顔できなくなるぞ!?」
セブレの意味不明な発言をよそに、溢れる金貨は更にその勢いを増す。
溢れる金貨が石畳に落ちることで奏でられるその澄んだ音色は、街中に響きわたりぞろぞろと人々を引き寄せ始める。
まるでその音にもなにか人を惑わすような力があるように。
「う…」
近づいてくる人達の姿にミトラの口から恐怖の嗚咽が漏れる。
焦点の合わない目をしてフラフラと歩いてくる様は、言い得て妙だがまさにゾンビそのものなのだ。
「ああ、お金。お金があれば…贅沢できる…」
「あのバックが欲しい…」
「これで祖母の…薬が…買える」
ゾンビ達は各々の願望を口にしながら怪しい金貨を拾うと、拾った腕から全身が金色に染まり、新たな金貨となって音色を重ねる。
そして、新たな街の人々を呼び寄せていく。
「ハハハ!やっぱりそうだよな!金だよな。金!これがオレの力だ!さぁ早くオレを満足させろ!ハハハ!」
流れ落ちる金貨の勢いは、激しさを増しこのままでは駄菓子屋さんも呑み込まれてしまいそうだ。
「みんな金貨から離れて!」
ユーネの言葉に合わせたかのように、全員後へと飛びのく。
「どうなってんだ!こいつ普通の人間だろ?実は怪人だったっていうのか?」
「そんなの私に聞かれてもわかんないよ」
金貨はどんどん積み重なっていき、セブレを頂点にスライムのような形を成していく。
「おいセブレ!お前なにやってんだ、早くその変なのをやめろ!みんなが迷惑してるだろって!」
「みんなが迷惑してる?…どへっへっへ。だったら、なおさら止めるわけにはいかないなぁ~」
どこかで聞いたことのある声がセブレの口から聞こえてくる。
それはセブレのような子供の声とは明らかに違う重く粘り付く声だ。
「お前…だれだ?」
「おいおいツレないこというなよ?オレだよ。オレ。怪人ヘドロ男様だよ。いや、オヤカタといった方がわかりやすいか?」
「あ…」
あの日、クリアネと冒険した下水道の件が思い出される。
その記憶をなぞるかのようにセブレの耳から小さな塊が顔をだす。
「生きてたのかよ…」
「いや~もうほとんど死んだようなもんだったぜ。黒騎士に吹っ飛ばされた先にたまたまいたミラーボール男がいたから、仕方なく寄生することにしたのさ。もちろん怪人が怪人に寄生するなんて出来るか分からなかったけどよ。こっちも必死でそんなこと考えている余裕はなかったわけよ。
まぁそんなことはどうでもよくてだな、ちょっと聞いてくれよ!死にかけたおかげか、怪人の中に入ったおかげかは知らないが、人の記憶を覗いて操るだけだったオレの力に、新しい力が加わったんだ!こんな感じでよ!」
滝のように流れ出す金貨はセブレの体を飲み込み膨れ上がり、スライムのようだった体はだんだんゴーレムのような人の形をなしていく。
それはサイクロプスのような一つ目をぎょろつかせ、威嚇でもするかのように三本しかない太い指を擦り耳障りな音を発する。
更に異様なのはその見た目だけではなく、膨れ上がる大きさに比例した魔力の強さだ。
その強さは間違いなく強敵であったあの双子を越えるのではないかと思われる。
毛を逆立ていつでも変身できるように警戒しているルウの態度からも、間違ってはいないだろう。
「な?凄いだろ!どへっへっへ。さて、先ずはお前らガキどもを始末したら、この体の使い心地も兼ねて黒騎士にお礼をしなきゃなぁ!」
どへっへっへ。この深く行きついた力ならば、この街はおろか黒騎士も組織すらも、敵じゃあない。
そう。オレはもう怪人なんて紛い物なんかじゃないんだからな!
ゴーレムが油断しきって不気味な笑い声を発する中、ユーネが皆に指示をだす。
「みんな、すぐに近づく人を遠ざけて、他の街の人達を避難させて!ユーネはコイツを待ちの外まで誘導するから!」
「わかったわ!」
「オレは嫌だ!」
ミトラちゃんたちが頷くと同時にリーブルの反対意見が響く。
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