第十五話 ➀ どうだってよくなるだ!
薄い財布を開けて悩んでいると横からおかっぱ頭が覗き込んでくる。
「なんだ、チミ。スゲー貧乏人なんだな。アイスぐらいオレが恵んでやろうか?ん?」
さっきのボンボンだ。
名前もまだ聞いていないが…まぁ良いだろう。
「あ、そいつ連れてきたんだ」
「連れてきたというか、勝手についてきたんだよ」
誰?とミトラちゃんが小さく聞いてきたから、さっきあったばっかりの嫌な奴って教えてあげる。
そんなイヤな奴はリーヴルに任せて、ユーネは悠然と駄菓子屋さんに足を踏み入れる。
だって今日のユーネには、壮大な目的があるからだ。
それは最近お気に入りのトレーディングカードの新パック!
その名も「(let it up!)鳴かぬならtradeしようぜ、冒険者!」
略して、「NTR冒険者」だ!!
不穏な名前はともかく、実在の冒険者や魔物がデザインされたそれらは、世界中で人気をはくしており、発売から十年以上たった今も新シリーズが作られているほどだ。
その中でもユーネが欲っしているのは、同じ斧使いのAランク女性冒険者アクークのカードだ。
しかも、なんと今回のパックからアクークのSSRが実装されたと聞いて、今日は眠れなかったほどだ。
余談だけど、お父さんのカード(最高レアリティUR)もあるらしい。
何でも無許可で勝手に作られた上に、NTRの看板扱いされたことで、運営へのクレームが自分に殺到したことがあるらしくユーネがカードを集めるのに対し、珍しくいい顔をしていない。
だからといって、折角一枚貰ったやつを失くしてしまうなんて、なんと情けないのだ。
それがあれば今頃ユーネは街中にマウント取れていたはずだったのに!
困ったものだと身勝手な思いを胸にばあちゃんに3袋の分のお金を渡す。
そのまますぐに外に戻るとすぐに、気合を入れて一袋目の袋を破く。
「まずは…一枚、二枚……五枚…つ、次!」
すぐに二袋目を破く。
「…二枚……四枚……まだだ!」
焦る心に蓋をして、震える手で最後の袋を掴む。
一パック百五十ゼニーもするのだ。
これ以上は、流石に…もう…。
この件に関してはお父さんにこっそり追加のお小遣いを貰えないし、これが最後のチャンスなのだ。
希望を胸にゆっくりと袋を開ける。
覗くカードの背に乗せる親指が汗ばむ。
今回は一枚一枚は行かない。一気にいく。
呼吸さえ忘れて、祈るように五枚のカードひっくり返す。
「ぐががあああああ!!なんでだよぉぉぁぁ~~!!」
駄菓子屋さんのガラス窓を震わせる絶叫に、みんなが何だ何だと近づいてくる。
「どうしたの!?」
「SSRのアクークさんが当たらなかったぁぁあ!!」
カードに興味のない面々は、あ~それは~と何とも言いえない顔をするが、一人だけニヤけた顔で近づいてくる人物がいる。
おかっぱ頭の嫌な奴だ。
「なんだ。どんだけのレア物が欲しいのかと思ったら、そんなのが欲しいのかよ。オレなんかもう三枚も持ってるぞ」
「ウッせぇーんだよ!脂ぎった顔しやがってよぉ!さっさと消えろや、このおかっぱ頭が!」
「お?そんな舐めた態度取っていいのか?オレはこんな雑魚カード三枚も要らないんだけどなぁ~あ~どうしようかな~捨てちゃおうかな~」チラチラ
更に嫌な奴感を増しながらSSRアクークのカードをポケットから取り出すと、突き出すように見せつけてくる。
ユーネも馬鹿ではない。ここまで来ればおのずと正しい答えに辿り着く事が出来る。
眉間によった皺は瞬時に消え去り、後光がさす少年に一気に詰め寄っていく。
「お、お前…いえ、いと貴なる方、お名前をお聞かせ願えましぇんでしょうか?」
「ああ。まだ言って無かったな。オレは王都一の呉服問屋の息子セブレだ。言わなくてもわかると思うが、チミらと違って金持ちだ!…金持ちだ!!」
「おぉ!なんと神々しいお名前!溢れ出す高貴なオーラにピッタリですね!」
ユーネは即座にニチャりとした笑みを浮かべながら、腰を折り揉み手を始める。
「…お前、清々しいほど欲望に素直なのな…」
言わなきゃいいのに、つい口に出してしまうのはリーブルの立ち位置的なところもあるのでこれはしょうがない。
スルーしたらしたで、あとから文句言われるのだから、どのみちだ。
「ほら、リーブル!何をぼさっとしているの?さっさとセブレ様の肩をお揉みなさい!いや~すみませんね~気が利かなくて!フヒフヒ!」
(ほら。どのみちなのだ)
「いいぞ!気分がよくなってきた。このままオレの機嫌を取れれば一枚ぐらいくれてやるからな!」
「はい!何でも仰ってください!一生懸命に頑張りますんで、リーブルが!」
「またオレかよ!」
笑いながらセブレは細める目の奥に冷めたい感情を映す。
ほら、やっぱりこいつらも一緒だったわけだ。
今日は本物の怪人も見れたし、魔法を使える子供も変な黒い騎士とか珍しいものだらけで、いつもと違うことが起こるんじゃないかと少し期待していたのだけども…。
だが、こういった感情が湧き上がるたびに思い知らされる。
どこまで行っても、所詮オレ自身の存在なんか、何かのおまけなんだなと。
なんか、もう全てがどうにでもよくなってくる。
(そうか。なら、オレ様が代わりにこの体を有効活用してやるよ)
唐突に重く粘りつくような不思議な声がセブレの頭の中に響く。
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