第十四話 ➁ 時計塔逃げろだ!
腹を揺らしながら、何やら文句を垂れているがそんなのは無視して、取り敢えずさっさと逃げる。
とにかくどこかでコイツと別れて…いや、怪人が都合よくオレの方にくればいいが、コイツの方に向かわれたら終わりだ。
背中越しに大きな破壊音が響いてくる。
振り返りはしないがわかる。作った壁が壊されたのだ。
こんなに早く突破されるなんて自信無くなるな。と思いながらも、表には出さず少年の手を引き急かす。
破壊音が距離を詰めてくる。
狭い通りなのでアドバンテージが得られるかと思ったが、都合よくはいかないようだ。
建物の隙間から時計塔が見える。
たしかあそこの地下には部屋があったはずだ。そこなら身を隠せるか?
よし、と呟き街の状況など関係ないと言わんばかりに、美しく光を反射する小川に掛った橋を渡り目的地に向け足を速める。
幸いな事になんなく時計塔まで辿り着くことができた。どうやら完全に見失ってくれたようだ。
ここで、少し休憩したら怪人を迎え打とう。
中に入り地下への扉を開けると、ひんやりとした風が溢れ出してくる。
風は部屋を照らすろうそくの灯りを揺らし、不気味な雰囲気を醸し出す。
後のボンボンは身震いしながらまだ何か文句を言っているが無視して奥へと進む。
奥の壁にもたれ、座りこむと熱くなった肺に、冷たい空気を思いっ切り吸い込む。
よし、暫くここに隠れていよう。これだけ派手に動けば、ユーネたちも気が付くだろう。
「なぁなぁ、さっきのアレ、噂の怪人ってやつだろ!オレ初めて見た!最高にダセーな!」
ボンボン君はリーヴルの気持ちなど露知らず、お気に入りのおもちゃでも見つけたようにテンション高めだ。
「オレ、アレを飼いたいから、チミ捕まえてこいよ!」
「はぁ?突然何馬鹿なこと言ってんだ?逃げてるときの状況を見ただろ。簡単に建物を壊す力を持ってて、人をどうにかする能力まであんだぞ。それを飼いたいって…」
「うるさいなぁ。オレが飼いたいって言ったら、飼いたいんだよ!」
この傲慢な態度にリーヴルは腹が立つよりも、呆れ果てはぁと大きなため息が出てしまう。
あくまで想像でボンボンだと思っていたが、本当にワガママし放題のボンボンのようだ。
こいつだけ放り出してみるか?など、ちょっと意地の悪い考えが浮かぶが、正面の扉がゆっくりと開きすぐに霧散してしまう。
「パッパッパ!テメェら、そんな所に隠れても意味ないんだぜ!」
扉の先にはミラーボール男が余裕の笑いを上げながら立っていた。
「クッ!なんでここがわかった」
「お前は既にオレのグルーヴにノってるじゃないか!それを辿れば、世界の果てだろうと見つけることはたやすいのさ!ってのはまぁ嘘だけど、そんなことはどうでもいいじゃないか、早くオレ達でこの街を盛り上げようぜ~い!」
「ヤバいヤバいヤバいって!チミがこんな所にオレを連れて来たから!おい怪人!金ならいくらでも払うからオレだけ、助けろよ!な?」
「な~に言ってんだ?パーティーは人が多い程盛り上がるのに、逃がすわけないだろ!さぁ覚悟を決めな!」
放たれた七色の光が壁に反射しながら二人を襲いくる。
ボンボンを抱えて横に飛ぼうとするが、何かが足に絡まり光が左手に直撃してしまう。
苛立ちながら、足元に目をやるとスライムが足に纏わりつこうとしていた。
すぐに踏みつぶし、次に来る攻撃を避けていく。
それから何とか直撃を避けていくが、ついには部屋の奥の隅に追い詰められてしまった。
もう背中に隠れているボンボンは完璧なロボットダンスを踊ってしまう寸前だ。
かくゆう自身の片足、片腕も絶賛踊りくるっている。
リーヴルは悔しさを表すようにギュッと目を閉じる。
「ったく…毎日ユーネに修行付き合って貰ってんのに、情けねぇな…」
「パッパッパ!悔しがることはないぞ。人間のクセによく頑張ったじゃないか。これからはその頑張りをハッピーな世の中の為に使ってくれよ」
「お前…何か勘違いしてないか?」
「勘違い…?」
怪人は勿論、ダンス中のボンボンも不思議な表情を浮かべる。
「そうだ。オレはお前ごときに、完勝出来なかったことが情けないって言ったんだ」
「パパパ!どうやら恐怖でおかしくなってしまったみたいだな!だが、オレ達は手加減なんてしてやらないぞ!」
ミラーボール男は一気に体を回転させ魔力を集めていく。
それに引き寄せられるように壁の隙間からスライムたちが滲み出てくる。
「うおおお!!お前らはダンサーを通り越して一気にミラーボールにしてやる!オレ様の隣で一生回り続けられる栄誉に感謝しなぁ!」
怪人が勝ち誇ったその時、突然部屋の中に暴風が吹き荒れる。
風は燭台の火を次々に消していき、そのまま開け放たれたドアを勢いよく閉じる。
残ったのは、扉からわずかに漏れる薄い明かりだけだ。
「な、なんだ!?いきなり真っ暗になりやがった!だがもう準備は終わっている!くらえ!渾身のパーティーライトだ!!!」
大声を張り上げ、精一杯広げた両腕で何かを解き放つような仕草を行うが、何も起りはしない。
あるのは何とも言えない空気と静けさだけだった。
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