第十三話 ⑧ エピローグだ!
【女神教ユスティス】
それは女神アイルートを崇め奉る世界最大の宗教である。
独特の文化と不思議な建築様式で構築される「聖教都市ツバキ」を総本山に勢力的に布教活動を行っており、ユーネ達の住むフジザクラタウンも多分に漏れない。
今回、現任の神父と入れ替わりで赴任した新しい男もツバキから来た人物だ。
にこやかに笑みを浮かべる新しい神父「パスター」が、教会の一室で式典用で装飾の付いた服に袖を通す。
傍の机の上では、いかにも聖職者が付けそうな清涼感のあるお香が焚かれている。
先ほどまでいたお付きの人間が火を付けていったのだろう。
服に臭いが移るからあまり好きではないのだが、こういうしきたりなのだから仕方がないと諦めつつも、窓を開けるために歩きだすと装飾の金属がこすれるような音をたてる。
教会に詳しい人間であれば、発展してるとはいえあのツバキから遠く離れたこんな田舎街に、このような服を着る事ができる人物が赴任するなどありえないと言うだろう。
確かにパスター本来の地位でいえば、前任者よりも遥かに高い。
何かやらかして左遷されてきたと噂がたっても仕方がないほどに。
しかし、本人は教会の発展を自身に任されているのだと、絶対的な自信を周囲に振り巻きそんな低俗な噂がたつ隙など与えはしない。
「やはり、早々にうまくはいきませんか…」
窓を開け賑わう街を見下ろすと、昨夜の実験を思い出す。
化け物になったまでは、いつも通り。
しかし、弱い上に灰になって消えてしまうところまで、いつも通りになってしまった。
あれでは、ダメだ。任されたのは天使の獲得なのだ。
教会のトップである教皇から直接もたらされた「白の種子」。
これは人の魂と結びつき変異させる力を持つ。
稀に羽の生やした強力で安定した個体が生まれる事から、早急に「羽付き」の数の確保が求められている。
武力など宗教団体には関係ない話に聞こえるだろうが、女神様の使徒たる我らがこの世界を管理、運営していくために必要だからだ。
そう我々が、愚民どもを導かねばならないのだ!
唐突な部屋に響くノックに、パスターは我に返る。
「いや…少し急ぎすぎですね」
猊下から寄せられた信頼にこたえたい思いは勿論、女神教ユスティスの未来が私の肩にかかっているという責任感が、焦りを生んでいたのかもしれない。
一つ深く呼吸をして、どうぞとドアに向け声を掛ける。
ドアが開き、綺麗に畳まれたローブを恭しく持った従者が入って来る。
「そろそろお時間です」
「分かりました」
パスターは、背中から大きくツバキの文様が入ったローブを掛けられると、誇らしげに就任式典の会場へと向かっていく。
◇
一方フジザクラタウンから、歩いて半日の場所。
山の中にある小川の畔には、ボロ布を水に浸し大きなあざがある腹部にに当てているDDの姿があった。
「チッ…」
彼は痛みを堪えながら、昨日のことを思い返していた。
怪我までしてお宝は全部パー。おまけに仲間まで失って疑問だけしか残らないクソな仕事だった。
が、問題ない。オレは生きている。
ここが重要だ。お宝なんかはスキルでまた集めればいい。
しかし、この重要な点が脅かされることが起こっていることも確かだ。
仲間の化け物への変化。これは確実に何かに大きな企み巻き込まれた。
いや、分かっている。あの黒ローブの男だ。あいつが何かしやがったんだ。
そして、子供の頃からある意味無敵だと思っていたスキルの虚弱性。
なぜ化け物どもはオレの位置がわかった?
それにあの赤い髪のガキ。触れるだけに留まらず、スキルを破壊するなんて頭おかしいのか。
「…暫く身を隠したほうがよさそうだな。幸いオレも灰になって死んだことになっているようだし、この間に色々と調べるてみるか…まずは、あの黒マントと樹の化け物だ」
DDはそう呟くと、痛みを無視して空を見上げる。
うっすらと輝き始める星の位置を確認し王都の方角へと消えていった。
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