第十三話 ⑦ 栞ゲットだ!
そうと分かればこちらのものと、ユーネが何も無い空間にブンブンと拳を振る。
時間的に遠くへはいけないのだから、見えないだけでその辺にいると思ったからだ!
ただ、そう簡単に当たるわけも無く。はたから見れば、深夜に変な踊りを踊っている気味の悪い子供がいるように見えるだろう。
しかし、魔法や剣に鋭い爪を使ってくるやたら強い子供たちよりマシに見えるのも確かだ。
元々戦闘向きではない樹の化け物たちは、ユーネに向かって逃げ始める。
が、樹の化け物たちは少女の近くまでいったところである事に気が付く。
彼らはすぐに足を止め一斉に地面に根を突き刺し始める。
「「「リーダー!」」」
何故だかわからないが、全員が揃って同じ所を掘り進めていく。
数十センチほどほじくり返すと、地中から先程の棺桶が出てくる。
歓喜に沸き立つ彼らとは逆に、苛立ちを表すように棺桶の蓋が弾け飛ぶと、中から先程の骸骨のような男が這い出てくる。
「本当にお前らはどんだけ足でまといなんだよ…」
リーダーの男は、笑顔まま剣を振り次々に近くの仲間を切り裂いく。
「な、なにするんだ!?なんでオレ達を!」
歓喜は一瞬で驚愕へと変わる。
腰が抜けて…腰があるかどうかはしらないが、離れた所の樹は動けずにただ切り裂かれる仲間を見つめるばかりだ。
突然の出来事に呆気に取られていたはリーヴルたちも同じだが、いつまでも黙って見過ごすようなことはしない。
沸き立つ怒りのままに地面を蹴る。
「やめろおぉ!!」
背後から降りぬかれ、決まったと思われた彼の剣は何事もなかったかのように空を切る。
またもや突然出現した棺桶に逃げ込まれ、リーヴルの体ごとすり抜けてしまったのだ。
続けて放たれたソロリズの攻撃やミトラちゃんの魔法も幻を攻撃でもしてるかのように手ごたえが無い。
「攻撃が当たらない!?」
「なんで!?そこにちゃんと見えてるのに!」
仲間たちがあっけにとられている内に、棺桶は落ちるように地面の中に消えていってしまう。
だが、数秒もすると慌てるリーヴルの後から音もなく現れ、少しだけ開いた蓋からギラりと光る凶器を振り下ろしてくる。
「後ッ!」
ミトラの声が響くと振り向きもせずに、即座に前方に跳ぶ。
何が後とかそう言うのは関係ない。
ただ信頼している声がそう言ったので信じただけだ。
それでも、完全には間に合わず。服が破け背中に赤い筋が浮き上がる。
『大丈夫か?』
即座に飛び蹴りを放ったソロリズが、石畳を穿ちながら庇うように立つ。
「ああ。かすり傷だ。それよりまた消えやがったな」
ミトラも二人と合流して死角を失くすように背中を合わせると、静まり返る通りに緊張が走る。
どこから攻撃が来るのか分からないうえに、こっちの攻撃は透けてしまって意味をなさないのでは、焦りの一つも出てくるというものだ。
(ククク。馬鹿が。無駄だ無駄!お前らもただのガキじゃ無さそうだが、このスキルは棺桶を使って世界の隙間に入り込めるんだよ。発動しながらの移動は数メートルしか出来ないが、代りに気配もないし攻撃も当たらない。おまけにお宝だって隠しておける最強の隠匿スキぃぃいるぅううおおおわわわ!!!なんだあぁぁぁ!???)
突然、地面の中で横たわる棺桶の蓋が砕け穴が開くと、そこから強引にねじ込まれた手が勝ち誇るDDの胸ぐらを掴む。
抵抗虚しく地面から上半身を引きずり出されると、一番ヤバそうな赤い髪のガキの顔が目の前にあった。
「遊びたい気持ちはわかるけどさぁ。こっちは明日も忙しいから、いつまでもかくれんぼなんかしてられないんだよ」
ユーネはそのまま全身を引き摺りしながら、そのまま空へと高く放る。
「なんで、オレの場所がわかったんだよ!?」
今だに状況が把握できずにバタバタと手足を動かす男に向けユーネが腰を落とし拳を握る。
「お前みたいなクズ野郎でも、仲間からは頼られていたってことだよ!!」
DDは先ほどの事を思い出してハッと息を呑むと同時に、視界を埋めつくす巨大な影が迫ってくる。
「ヒィィッ!」
自身で現実以上の大きさを自身で捏造してしまったユーネの拳に、きつく目を閉じ喉を鳴らしながらも、なんとか避けようと体をくねらせがるすぐに無駄なことだと悟ってしまう。
「牢屋の中でしっかり反省してきやがれぇぇぇ!」
ボディーへと打ち込まれた一撃に、DDは口から臓物が溢れる幻覚を見ることとなり、そこで記憶が途切れることとなった。
意識が途切れたせいなのか、横たわる主人の横で棺桶が崩壊すると、中に入っていたお金や宝石など様々な物が地面にぶちまけられる。
すぐにユーネは、その中から宝石などとはまた違う美しさを放つものを拾うと、微妙な顔をしながら駆け寄ってきたリーヴルにそれを突き出す。
「はい!今度はなくすなよ!」
「え?これって…マジか!ホントのホントに感謝する!ありがとう!もう何でもする!」
栞を受けとるとピョンピョンと跳ねながら不用意な事を口にだすが、まったく気が付いたようすはない。
「ミトラちゃん、聞いたよね?何でもするって言った!フヒッ~楽しみだな~!」
「流石に手加減してあげてね…」
いつもの雰囲気に戻ったところで、リーヴルのお父さんが多くの部下の人達を連れて走ってくるのが見えた。
「ユーネ。また一から話をするのは面倒だから、悪いけど逃げましょ。残った他の樹の化け物たちはなんとかしてくれるでしょ。流石にちょっと眠いわ」
大きなあくびをしながら、ルウがこの場を離れることを提案してくる。
事の経緯もきっとテンション高めのリーヴルが、説明してくれることだろう。
「だね。寝不足は食欲の敵だもんね!」
明日も朝からイカ焼き食べに行かなきゃいけないから、なるべき多く寝ておきたいのだ。
そのままミトラちゃんたちと明日こそちゃんと合流する約束をして、それぞれ帰路についた。
翌朝ユーネ達には知らされなかったが、リーダーの男や樹の化け物たちが捕らえられた牢の中には灰の山が積もっているだけで、誰一人いなくなっていたらしい。
脱走されたのではないかと調査が始まったが、朝になるころには樹の化け物は時間経過で灰になって死んでしまうという情報が突然領主からもたらされて、捜査は打ち切りとなった。
要はこれ以上、捜査するなということだった。
逆に裏に何かあると言っているようなものだが、一介の兵士たちに出来る事は何も無く。なんとも歯切れの悪い幕引きとなったのだ。
「さて、リーヴルには上手く誤魔化さないとアイツまた怒り出すな…」
最近は仕事でもプライベートでも、頭が痛くて大変だ。
衛兵たちの隊長は小さくため息を吐き、気持ちを切り替えるように目の前の積まれた書類の山に没頭する事にした。
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