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第十三話 ④ 女神さまは見捨てないだ!



暖かい陽ざしが降り注ぐ中、まるで骸骨を思わせる痩せこけた頬と青白い肌の男が、不釣り合いなオシャレなカフェテラスでくつろいでいる。


淀んだ目に、丸まったその背中から発せられるオーラは昼間のオープンカフェにも関わらず、他人を寄せ付けない。


このあまりに場違いな男は、盗賊団「墓穴に溺れる」のリーダーのDDだ。

DDは五月蠅い外野がいなくなったことで、口に付けたコーヒーに文句を言いながら、陽の光を避けるように目を閉じる。


さて、この街に来てから今日で三日。

さすがは、裕福な街だ。たったの数日でこの稼ぎは破格だった。これだけあれば三ヶ月は遊んで暮らせるだろう。

だから明日にでも王都に引き上げようかと思う。

仲間たちは反対するだろうが、欲をかいて豚箱にぶち込まれちまったら、意味がないからな。


「それにしても、結局…あの黒マントの男の目的もわからなかった…」

周りに人がいない事でつい口が緩む。


中年を思わせる腹の膨らんだ体形で声は男。それに清涼感を持った独特の臭い。

ボロを装ってはいたが、あのローブの色艶。やはり金に困っている風ではなかった。


考えないようにしても、拭いきれない気持ち悪さから、つい頭の片隅に浮かんできてしまう。

しかし、どんなに考えてもなにか証拠があるわけでも無く、憶測の域をでない考えは堂々巡りを繰り返すだけだ。

行き詰まる思考から抜け出すように、ゆっくりとDDが目を開け不味いコーヒーを口にした瞬間、マンガのように盛大に噴き出されてしまった。


「アイツらぁ…調子に乗りやがったな!」

テラスから見える通りには、衛兵に連行される部下たちの姿が人々の興味を引いている。

すぐに、自分だけ逃げると言う選択肢が提示されるが、集団犯罪の場合仲間を売るやつが必ず出て来てしまう。

そうなると、自分も晴れてもお尋ね者だ。


「‥‥‥」

まずは何処かに収容されるはずだ。

そこにオレのスキル「墓穴に溺れる」を使って深夜にでも忍び込めば、なんとかなるか…


DDは即座に思考を巡らすと、仕方ない!と小さく気合を入れて席を立ち、アホ面を下げて歩く元部下の跡をつけていく。



     ◇



結局、その日ユーネたちはイカ焼きを食べることができず、明日に期待しながら早めの眠りにつく。

それから数刻後、夜の静けさが街に深く染み込んだころ、牢の扉が耳障りな音を立てながら開いていく。


盗賊達は衛兵がこんな時間になんの用だと訝し気に顔を上げるが、そこに立っていたのは兵士ではなく荘厳な恰好をした腹の出たふくよか男だった。

男の服に描かれたツバキの花をあしらった紋様はよく見知ったもので、すぐに男の素性はわかったのだが、流石に時間が時間だ。

こんな深夜に?と警戒する一行にその男は片手を上げ制する。


「安心して下さい。私は皆さんの怪我を癒すように頼まれてまいったのです。一度過ちを犯したからといって、女神様は決してあなた達を見放したりはしません」

盗賊の連中は、もっともらしいセリフについ緊張が緩む。


「分かって頂けたようですね。では早速、傷を見せて下さい。私は回復魔法の心得がありますので」

そういうと、何ごともないように牢の中に入って来る。

盗賊達に多少の警戒心は戻ってくるが、一度緩んだ警戒心は簡単に接近を許してしまう。

さらには一人があっという間に魔法で怪我を治されるのを見てしまうと、もう抗おうという気持ちはおこらない。


「どうですか皆さん、まだ痛みますか?」

「い、いや、大丈夫だ」

「そうですか。それはよかった。でも、一応念のためにお薬も飲んでおいて下さいね」

男達は進められるままに渡された白い錠剤を飲み込む。

すると、みるみるウチに気分が高揚してくる。

今なら何でもできそうな感じだ。


「気分も良くなったようですな。良かった良かった。では、私はまだ他の仕事もありますからこの辺で…」

腹の出たオッサンの言葉などもう誰も聞いてはいないが、彼はにっこりと笑うとツバキの文様をひるがえし闇の中へと消えていった。


暫くすると男たちの体がボコボコと膨れ上がり、とても楽しそうな笑いが起こる。

そのまま肌はひび割れ、腕は地を擦るほど長く伸び、幾つもの枝葉が生えそろっていく。更には背中には小さな羽のような突起まで見える。

その様相はまるで怪人樹木男と言ったところだ。


「うおおお!!最高の気分だああああ!!」

勢いのまま牢をぶち破り、留置場が衛兵たちの悲鳴と共に破裂すると、その万能感のまま外へと一斉に飛び出していく。


「な、なんなんだ!あいつらは!」

吹き飛んだ建物の陰で、DDが驚愕に口を閉じるの忘れる。

建物へと忍びこもうとした際、なぜか場違いな男が出てきたことで機を失い物陰に一旦隠れた瞬間のことだったのだ。


建物を破壊しながら、植物の魔物のような奴らが何匹も溢れ出て来る。

そいつらは腕を、というか枝を振り回し周囲を破壊し、足元では根を地面に突き刺し何かを吸っているように見える。


しかも、よく見ると幹の中心には元の仲間の顔が張り付いていやがる。

「こいつは…」

もちろん見知った顔があるからといって、こんな状況でしゃしゃり出たりはしない。

両手で頬を叩き驚き竦んだ気持ちを切り替えると、様子を伺う為に急いで近くの建物に入り気配を消すことにする。


    ◇



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