第十三話 ➀ 失くしたぁ?だ!
月に照らされ静かに眠るフジザクラタウンを上空から眺める男達がいる。
その数は十人程だろうか。全員が同じ作業着の様な恰好して、同じ魔道具を腰に付けて虚ろな目に街を映している。
そんな怪しい集団が、何かに驚きながら次々に口を開き出す。
「おかしくないか?この街はウォータードラゴンが壊滅させているって話だったのに、壊れているのは三分の一ほどだし、あそこの死体はデザートのドラゴンだ」
「だな。しかもここにはドラゴンを倒せる奴がいるってことだろ?本当に大丈夫なのか?」
「楽に仕事が出来るって話だったけど、オレ達騙されたんじゃ…」
「うるせぇ。ここまで来てビビってんじゃねえよ。どっちみち、手ぶらじゃ帰れねぇだろうが」
窪み濁った眼を細め、口を開いた男の名前はディス・D。通称DD。
このちんけな盗賊集団「墓穴に溺れる」のリーダーだ。
「まぁ…そうっすね」
「チッ」
部下の手前強がってみせたが、自身だって騙されたのではと思っているのだ。
正直、こんな怪しい話は借金で首が回らない状況でなければ、確実に断っていただろう。
もう一度小さく舌を鳴らすと、体を浮かせている腰の魔道具に手をやり、場末の酒場で声を掛けて黒マントの男のことを思い出す。
ずっと引っかかっている。
アイツはオレ達のような弱小犯罪グループにドラゴンの情報とこんな大層な魔道具を与えて下さって何がしたいんだ。
こんな街一つ買えるほどの高価な魔道具を人数分ポンと渡してくるところから、金じゃないのは確かだ。
じゃあ、オレ達が騒ぎを起こす事で何かから目を逸らしたいのか?
…そもそもだ。
空を飛ぶ魔道具なんて、べらぼうな物を所持している連中なんて限られてくる。
いや、ダメだ。考えるのはこのくらいにしておこう。これ以上は危険だ。何故なら人には分相応というものがある。
調子に乗ってそれを越えると、あっという間に死んじまうからな。
余計なことは考えずに、金目の物を頂いたらすぐに逃げられるように準備をしておけばいい。
今と明日を面白可笑しく暮らすために。
「そろそろ行くぞ」
DDは体を動かすことで余計な考えを投げ捨てる。
「ういっす!」
男達は欲望が満たされるであろう期待感を胸に、一斉に暗く細い路地へと降りていく。
◇
「あ゛あ゛ぁ!!マ~ジ~で~どこいっただんだよ~!」
リーヴルが自分部屋の端から端までひっくり返しながら雄たけびを上げる。
なんと、あろうことか母親の形見である栞を失くしてしまったのだ。
朝起きてから、青ざめながら本を開いたり閉じたりを繰り返しているリーヴルに、突然外から声が響いてくる。
「お~い!リーブル~!野球しようぜ~!」
そう聞こえたかと思うと、数秒後に一階の玄関がけたたましく開く音がした。
「野球しようぜって!」
外から聞こえていたさっきの声が一階から聞こえてくる。
屋内に入られた!
リーヴルは何かイヤな予感がして慌てて自室のドアの鍵をしめると、数歩下がって扉を凝視する。
二階上がる階段がドタドタ鳴り、唐突にドアノブがガチャリと回される。
勿論鍵をかけているので開きはしない。
それでも試すように数回ガチャガチャと回される。
「おい!野球しようぜって!!」
先程の声が今度はドアを挟んだすぐ向こうから聞こえる。
再度ドアノブが回されるが当然開くことはない。
リーブルの背中に一筋の汗が流れ落ちる。
「おいおいおいおいって!」
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!
ドア全体が軋み悲鳴を上げる。
「や、止めろ!ドアが壊れるだろうが!」
リーヴルが声を上げたと同時にバキッと大きな音ともにドアはクッキーのように真っ二つに割れて床に散らばる。
「なんだぁ!ちゃんといるじゃん!なんで返事しないの!レデーに失礼でしょ!」
声の主は、ドアを壊した事を悪びれるわけでもなく。
何事も無かったかのように部屋へ足を踏み入れてくる。
「し、失礼だぁ?ユーネ、お前そんなことの前に言う事あんだろ?」
ん?と不思議そうな顔をしたユーネがぐるりと木片の飛び散る部屋を見渡し口を開く。「散らかりすぎじゃない?女の子が来るときぐらいちゃんと掃除したら?」
「ちっがーーーう!それは!お前が!今!散らかしたの!だいたい今日は野球じゃなくて、明日街に新しい神父さんがくるから、その下見に行こうぜって話だっただろ!?」
「え~だってつまんなそうじゃん!どうせ胡散臭そうなオッサンがくるだけでしょー」「でも、屋台とかはもう出てるから、お祭りみたい楽しいだろうって話だっただろ」
「あ!そうだった。忘れてた!じゃあさ、お祭りだったらさ、イカ焼きのお店あるかな?」
バツの悪そうな顔をしたユーネが強引に話の向きを変える。
「まぁ、他の街からもいっぱい商人が来てるだろうから、あるんじゃないのか?オレもあって欲しいけど…」
突如話題に上がったイカ焼きだが、食べ盛りの子供からすればその言葉だけで贖いようもなく、あのお祭り特融の香りに口の中を支配されてしまい、ゴクリと喉を鳴らすことになってしまう。
結果リーブルはユーネにまんまと乗せられる形となってしまった。
「じゃあ仕方がないからリーヴルのワガママに付き合ってあげるわ!」
「はぁ?自分が忘れてたんだろ。それに…いや、もうそれでいい。話が進まない。でも、ちょっと待ってくれよ」
「なんでよ?早く行こうよ」
「そ、それがさ~母さんの栞がなくしちゃってさ。ちょっと探すの手伝ってくれないか?」
今度はリーブルがバツが悪そうな顔を浮かべ、ユーネが深いため息を吐く。
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