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<こぼれ話> 秘密の部屋の一幕よ。



いつものように、眉間に皺よせて唸りながら一匹の黒猫が部屋に入ってくる。

そんなルウに対して普段なら揶揄うような態度をとるアキラだが、今日は何も言わずにテーブルに突っ伏したまま視線だけ送る。


「なんとか勝てたけど、確実にバレたわね。どうするの?」

テーブルの上まで来たルウが不機嫌そうに問いかける。

幹部と名乗る奴を倒したのだ。間違いなくあの人に報告がいくだろう。

そうなれば、当然のようにに入れようと行動を起こすだろう。

自身の復讐を果たす為に。


「どうするのって言われてもなぁ」

アキラがやっと顔を上げてルウと視線を合わせる。

その目はのんびりとした口調とは異なり、ある種の覚悟を浮かべている。

懸命に感情を押さえているのだろう。


「存在の確認をされたってことは、これからどこに行っても追いかけられるってことだぞ。そうなれば、捕まるか滅ぼすかどっちかしかないだろうよ」


彼の答えは正しい。それは私自身もわかっている。

別の土地に引っ越しても、一時しのぎにしかならないだろう。

ユーネの性格からして目の前で襲われている人を見て、知らない顔なんて到底できないのだから。


滅ぼす選択をとる場合も今のユーネでは、無理だろう。

下手をすると再び大災害が起こるかもしれないし、なによりあんな場所に連れていきたくはない。

そうなれば私とアキラで行動するしかないわけだが…。

アキラもわかっているから、答えが出ていても不機嫌なのを隠そうとしないのだ。


「あ~ソーマが完成さえすればなぁ」

「そうだけど今はユーネに頼るしかないでしょうね」

「そこ!そこが一番ムカつくんだよな。確かに今のオレなんかじゃあの双子の幹部にも全く歯が立たなかっただろうし、一番効率的にいいのもわかるよ。だけどさ、娘を最前線に立たせて親は後で見守ってますって状況にどこの馬鹿が納得できるのかって話だよ」


「フフ。まぁアナタはそう言うと思っていたわ。だから私も考えたんだけど、ユーネだけじゃ無くて、他にも囮を作ってしまえば、ユーネの負担も私たちの気持ちも少しは軽くなると思うんだけど。どう?」


私はアキラがどう思うかなんてわかっていて聞いている。

囮になるというのはどういう事なのかわかっていながら、他人の覚悟を勝手に決めさせている。


しかも以前の無敵の冒険者アキラではなく、もうあちこちガタが来ている薬屋アキラにだ。

…全く酷い話だ。だけども、きっと笑って許してくれると私は知っている。


昔から常識なんかにはひどく疎いくせに、誰かが困っているとつい手をだして損をするところに惹かれたのだから。

私とは全然違うタイプで、最初は頭がおかしい可哀想なゴミって認識しかなかったのに人生って面白いものね。


「…それで構わない。で、具体的には?」

っと、そんな昔を懐かしむ時間じゃなかったわね。

アキラの声に我に返って説明する。


「そもそも、あの人がユーエルを欲しているというのも私達の想像でしかないのだけども、それを前提に話をするわね。本当はもうなんとも思っていないで欲しいんだけども。そんなわけにはいかないであろう理由があるわ。


それは怪人の姿形を見る限り、技術の進捗が私達がいた時とそう変わっているようには見えないのよ。あのくらいであれば、昔でも作ろうと思えば作れたはずよ。

次に情けないけど、Uelsの完成はまったくの偶然だった。そのあとのことの発見もこの体もアナタが偶然見つけたからに過ぎないじゃない。

ならば、ユーエルだけを手に入れても再現性に欠けると思わない?同じ結果を得たいのであればなるべくあの時と同じ環境を整えようとするのは自然でしょ」


「なるほど、そう言う事か。向こうはユーエルの存在は確認しているが、神の繭とまで言われた最強の冒険者の存在は確認していない。当然どこにいるか分からないし、弱体化しているなんて知らないわけだ」

「そう。アナタが一緒にいればユーエルがわざわざ目立って戦う必要なんてないのだから。

きっと別々の場所にいると思っているでしょうね」

「あ!待ってくれ。あの大災害の爆心地にいたんだぞ。普通に死んだと思っているんじゃないか?」


「は?ないない。『死んだ?馬鹿を言うな!あの常識を足蹴にして唾を吐きかけるアキラだぞ。大災害ごときではカスリ傷一つ負うことなどない!』って思っているわよ」

妙に芝居がかった身振り手振りで、言い放つその姿は懐かしい気持ちさせると同時に悲しい気持ちも連れてくる。

それは見ている者より演じている本人の方がより深いものだろう。

そんなルウの気を逸らすように、アキラもリアクションを大きめにおどけて見せる。


「はぁ?なんだよ人を化け物みたいにいいやがって!あ、ほら!今傷ついた!オレの心が傷つきました~!!あ~あ~!」

「うるさい!話を続けるわよ!そんな伝説の冒険者がいろんな街で見つかったなんて情報が流れれば、そっちにも人員をまわさなきゃならないでしょうね。真贋の確認から、本物だった場合の交渉や捕縛。様々なことにね」


「よし!じゃあ早速準備をして明日朝一で行ってくるよ。長く開けるがユーネを頼んだぞ!」

立ち上がろうとするアキラを引き急いで留める。

まったく今は弱っちい癖に行動力だけは衰えていないんだから、困ったものだ。


「待って、アナタが直接全部の街にいく必要なないわ。そういう噂を流せばいいのだから、それこそギャランさんに依頼してSランクの冒険者に覆面でもして怪人を倒して貰えばいいわ。それで、本人のアナタはそれなりの主要都市で目立つだけでいいわ。あくまで噂を作ればいいのだから」


「主要都市か…なら冒険者ギルドや権力者の連中からも身を隠していた方がいいか。余計な事件に巻き込まれそうだしな。わかった、それでいこう!じゃあ早速準備しなきゃな!」


そう言って止める間もなくドタバタと部屋をいくアキラにルウの眉間の皺は取れることはなかったのである。




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