第十二話 ⑧ 帰り道だ!
「おかえりなさい!」
「おかえり。いい時に帰ってきたわね。丁度ユーネが晩御飯を作ってくれたところよ」
「なにぃ!ユーネちゃんの手作りだと!今日は何だ!?世界が終わるのか!?」
「そんな訳ないでしょ。早くシャワー浴びて着替えてきなさい。大変だったみたいだけど、流石にその恰好は不審者すぎよ」
「そうか?ユーネはどう思う?お父さんと早く一緒に居たいから気にしないよな?」
責任を転嫁するようにユーネに顔を向けると、鼻を摘まんでしかめっ面をしている。
「ほら、見なさい。わかったら、早くいきなさい」
「もう、こんな問答している時間にちゃっちゃと入ってくれば、すぐに終わるのに。まったくウチには子供が二人もいるわ」
「ユーネは違うからね!!」
それから、さっぱりしたアキラが戻って来た事で三人で夕食を始める。
「思ったより遅かったわね。そんなに手強わかったの?」
「いや~それがさ。なんかアンデット化してるくせに意識はあるみたいで、人の住んでいない所まで誘導するのが大変だったんだよ。ほら、アイツらって変にプライド高いだろ?最強生物とかなんとか言って。だから下手に恨みを残して倒したりなんかしたら、辺りの水が呪われて汚染されかねないからさ」
「あ~そうね。それで、無事に倒せたのよね?」
「なんとかな。もう途中で自分の弱さが情けなくて泣けてきたけど、この街に被害を出さなくてすんでホッとしたよ」
それを聞いていたユーネが、あっ!と何か思いだしたように急に立ち上がり二階へと駆けていく。
ルウがコラー!と怒るが全然聞いてはいない。
アキラがまぁまぁ宥めている内に、またドタドタと階段を鳴らしながらユーネが戻ってくる。
「お父さん、ルウ。あのね」
両手を後に隠して何かモジモジしているユーネを二人が不思議そうに見つめる。
◇
<時は戻り、タケザオ山の帰り道へ>
「あ!ごめんルウ、先に帰ってて!ユーネ忘れ物しちゃった!」
「ちょっと!何忘れ物って!」
戸惑うルウを置いて、職人通りの方へ一人走っていく。
「もう、あの子ったら。暗くなる前に帰ってくるのよぉ!」
「は~~い!」
今日はハタザオ山まで行って、怪人まで倒してきたというのに子供は本当に元気だなと思いながら、娘の背中を微笑ましく見つめる。
ユーネは先程のハンマーの看板がかかったドアを勢いよく開け、飛び込んで行く。
勢いよく開いた扉に店の主であるビゼンが髭を遠心力に任せて驚き振り返ると、さっきの女の子が目に入る。
「じょ、嬢ちゃん、どうした?忘れもんか?」
「うん!アレを忘れたんだ!」
少女の指さす先は、カウンターの上の神棚であった。
先ほどユーネの目が見逃さなかった文字がそこにある。
ビゼンの額に一筋の脂汗が伝う。
普通に考えれば子供が神棚に用などあろうはずがない。
彼女が指しているのは、きっとそこに飾られている煌びやかな箱の事だろう。
しかし、この子はアレが何か分かっていると言うのか…。
「ユーネ、あそこのキラキラした箱のアレが欲しい!」
(クッ!わかっている!この子はわかっているぞ!)
「いやいや、アレは子供には必要ないものだぞ」
「大丈夫、ユーネが使うわけじゃないから!だから、アレを頂戴!」
そう言って、少女がガマグチをこちらに突き出してくる。
「ウッ…」
神棚に置いてあるアレの情報が外に漏れると、オレにもと言い出す奴が確実に現れるから、出来ればはぐらかして終わらせたかったのだ。
しかし、一人の大人として子供から向けられる真剣な眼差しに対し、適当な言い訳を返すわけにもいかず、覚悟を決めさせられてしまう。
「…すまねぇな、嬢ちゃん。アレは売り物じゃないんだ。オレの私物なんだよ。苦労して手に入れた貴重なものだからよ。まず先に神様にお供えしてからと思って、そこに置いておいたんだ」
「え~!でもチョコって書いてあるよ?おじさんの顔でチョコ好きとかって、解釈不一致なんだけどぉ」
「顔はどうでもいいだろ!アレはな、チョコはチョコでも中に強いお酒が入っているチョコなんだよ。しかも、予約すら受け付けていない「ゴディ婆」というチョコ作り名人の婆さんが作ったもので、酒好きの間では、伝説のツマミとして犯罪を犯すやつもいるほどの超レアものなんだ」
「ふ~ん。超レアものなんだ。わかった!じゃあさ、これと交換しようよ!」
早口で鼻息を荒くするビゼンの鼻先に、首から掛けているガマグチから取り出したきな粉棒を突きつける。
「き、きな粉棒?」
目の前にあるのは、その辺に売ってあるごく普通のきな粉棒だ。
そんなものと交換と言われても、意味が分からずにポカンと口を開けてしまう。
「そう!ほらココ見てみて!」
言われるがままに、ビゼンの視線が包装紙の端へ移るが、特に何かあるわけではなく。自然に「ん?」と疑問が口から漏れる。
「も~!よく見て!ここの絵が二重に被ってるでしょ!これって印刷用魔道具が誤作動を起したってことなんだよ!つ~ま~り~ホントは不良品として取り除かれて、工場から出ないはずの超超超レア商品ってことなの!わかった?だから、これと交換してあげるって言ってるの!ね、最高でしょ?幸せでしょ?」
今度はユーネが早口でまくし立てる。
だって世界百万人のきな粉棒ファン(ユーネ調べ)の間で戦争が起こっても仕方ない程のレア品だとなのだから。
「お、おう。それがレア物だってのはわかったけど…こ、交換は無理だろ」
「はぁ~~~?これだけユーネの方が損してあげているのに、なんでそんな事言うの?ひどくない?こっちは子供なんだよ!おじちゃんには、恥って感情がないの?ねぇ?」
ビゼンはなおも攻勢に出てくる子供にオレが悪いのか?と混乱する頭を一生懸命に落ち着かせようと、こめかみを強く押さえ目をギュッと閉じる。
「そ、それでもだ。嬢ちゃんのきな粉棒と同じ様に、これはオレも相当な時間と執念を燃やして手に入れたものだ。そう簡単に渡すわけにはいかない。そもそもだ、お嬢ちゃんはお酒なんて飲まないだろう。一体何でこんなものが欲しいんだ?」
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