第二話 ② 規則だ!ルールを守れ!
「そんじゃぁいくよぉ!せえぇぇのッ!!」
「ちょっ、ちょっと!まっ、何をす…や、やめろおぉぉ!!」
ギャランの叫びもむなしく光る拳が床に向かって振り下ろされる。
ドゴ――――――ン!!!!
街の端まで届く爆音と共に、ギルドだったモノが数多の木片へと変わり、街へと降り注いでいく。
「ふぃ~これで後は建てるだけだね!ユーネはね、ピンクのカワイイお城にして欲しいなぁ」
「そうね。それで内装は女性が利用しやすいようなファビュラスでエレガントな感じでね」
空き地になった事を確認すると、まるでボランティアでも行ったかの様な清々しい気持ちのまま変身が解かれていく。
本部に…言い訳…減給…カミがとか何やらブツブツ言いながら、うなだれているギャランは気にせず、本来の目的である駄菓子屋さんに向かおうとするとギャーギャー何やら喚き声が近づいてくる。
「大きな音がしたと思ったら…ギャランさん!!この惨状は一体何が起きたんですかっ!?」
筋肉質なギャランとは違いふっくらと腹の出た男だ。実年齢はまだ若いのだが、その脂ぎった顔と体形がアキラよりも年上に見せている。
因みに、カミはまだそこにおわす。
「いや、これは…その、なんだ…」
ふっくらとした男は、ギャランが目を泳がせた先にアキラの姿を確認すると、即座に納得する。
「はぁ~またと言うか、やっぱりあなたですか。全てに合点がいきました、アキラさん」
ギャランはまだ何も言っていないと言うのに、決めつけの境地である。
が、今まで現役時代からアキラが好き勝手やってきた事を知っている人間からするとこれが普通の反応なのかもしれない。
ため息と一緒に苦い思い出が吐き出され、腹の出た神経質そうな男の眉間に皺が寄る。
このアキラという男は現役の頃から自由奔放で歴史あるギルドの秩序を壊してまわり、急に居なくなりどこかで野垂れ死んだかと思えば、またこうして迷惑をかけてくる。
一体いつになったら私に安息の日は来るのだろうか。いや、そんな事を期待してはいけない。ルールを守れないゴミは、そのツケが自身に振りかかるまで気づく事はないのだから。
そうやって自身の妄想とアキラへの偏見をごちゃ混ぜにすると、悪びれるわけでもなくいびつな感情を表に露わにする。
「ねぇ、お父さん。この睨んで来る人はだれ?ぶっ飛ばしていいの?」
「ああ、ぜんぜん構わないよ。因みに──あ~どうでもいいだろうけど、こいつはギルドのヴァイスマスターのディーモだよ。こいつもお父さんの昔からの知り合いで、まぁ悪い奴じゃぁ…ないんだけど…」
アキラとしてもディーモが子供のころから知った仲だし、大雑把なギャランの補佐としてしっかり仕事をこなし、個人の感情抜きにギルドの利益を優先して動く事の出来る男という事はよくわかっている。
ただ、規則だ!ルールだ!決まり事だ!と少し細かすぎる所が現場で動く冒険者たちとの間に溝を作っているところが玉に瑕だ。
出会った頃はもう少し可愛げもあったんだけど、いつからこんなかわいげのないオッサンになってしまったのだろうか。
ここ暫く合っていなかったから、少しは丸くなっている事を期待するばかりだ。
なんてアキラが考えていると、ズボンの端が引っ張られ、視線を下に移す。
「でもでも、お父さん。このオッサンやっぱり悪い奴だよ。だってお菓子隠してるもん!ほら!ここ!」
ユーネはてくてくと近づきディーモの弛んだ腹をユーネが愛おしそうに優しくさする。
「か、菓子なんて入っているわけないでしょ!どれだけ馬鹿なんですか!」
菓子という発想そうだが、密かに気にしているお腹を無遠慮に触れる事は自分の怠惰な部分に触れられたようで、慌ててユーネの手払いのけ誤魔化すようにアキラに詰め寄っていく。
「だいだい、ここはあなた達の遊び場ではないのですよ。建物を壊すだけじゃ飽き足らず、そんな薄汚いガキを連れてきて一体何を考えているのですか!」
「あ゛?誰が素敵で知的で世界最高de可愛いガキだと?」
「そんな事一言も言ってなっ──「誰が薄汚いブスじゃ!おぉぉらぁ~!!」──ぶへぇぇっ!!」
振り払われたユーネの手は拳に変わり、くるりと一回転しながらお菓子の変わりに脂肪のつまった腹に突き刺さる。
「ブ、ブス…そんな事も…一言も…言っていない…」
うずくまりながら何かつぶやくが、ピースしながら勝ち誇るユーネは勿論、その娘の雄姿を褒め称えるアキラも聞いちゃあいない。
「な、何という事を…お前ら私に手を出すという事は、ギルドにケンカを売るという事だぞ!わかっているのか!?」
「何ぃ!?やはりユーネの可愛さをギルドの権力で手に入れようというのか!何て卑劣な奴だ!」
「人の発言を妄想や願望で捏造するなぁぁ!!親子揃ってとんでもない奴らだな!」
怒りを爆発させ青筋を浮かべるディーモの前にギャランがまぁまぁと言いながら割って入ってくる。
「子供のした事だ。そんなに感情的にならなくてもいいじゃないか」
「しかし、ギルマス!建物を壊され、職員にまで手をだして何のお咎めもなしとなったら、これからどうやって冒険者たちをまとめていくつもりですか!?」
確かにディーモも言う事も一理ある。
冒険者なんて、半分は荒くれ者に毛が生えた程度だ。
そんな奴らを暴走しない様に抑えているのが、ギルドという巨大な組織の力だ。
だからこそ、どのような些細な事でもギルドが舐められるような隙を与えてはいけない。
「う~ん、そうだな。では、ボランティア活動でもしてもらう。というのはどうだろうか?ほら、来週はアレがあるだろう」
「アレ?…あぁ。街の子供達をダンジョン研修に連れて行くやつですか?」
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