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第十二話 ⑤ 父さんモグラだ!



「あ!そっか。ごめんごめん、土の中ではいらないもんね。船ってのはね。水の上をすい~って行くやつ!」


こんな感じでと両腕を使って体の前でクネクネ動かしてみる。

そこはかとない恐怖を彷彿とさせるそれは、リーブルがいたら下手かよ!と即座に突っ込まれた所だろうが、ここでは大人な態度で受け流され、なんとか意図をくみ取って貰える。


「すい~って…水の上を滑るって事か?」

「そそ!さっ、わかったら早くユーネの真似をする!余計なことを考えている時間はないからね!」


所々で水に浮いてどうするんだと、当然の疑問が上がってくるが、口調を強めて考えさせないようにする。

「ほら、ここを曲げて次はこっちを切るんだからね!急いでやんなきゃ来るよ!」

勢いに押されてはい!とみんなが元気よく返事を返し急いで船を折っていく。


「な、なんだ!葉っぱがなんか皿のようになったぞ?」

「そうだよ!これで、水の上に浮かぶから心の準備をしておいてね!ってほら来たよ!」

先程から継続的に鳴り響いている聞き知った音と揺れが、最高潮に達する。


「よし!じゃあ、それに乗って流れに任せておけば大丈夫と思うから、ユーネは行ってくるね!」

走り去った人間の子供と合わせたように、天井に開いた穴から世界全体を揺らすような重低音と共に滝の様に大量の水が流れ落ちてくる。


それは、集落に有った物を瞬時に押し流しモグラたちをも飲み込もうと迫ってくる。

慌てて皆が船に乗ったところで、濁流と一緒に集落の外へと押し流されていってしまうが、今から起こるドラゴンとの戦闘に巻き込まれるよりも遥かに安全だろう。


ユーネはというと水面を蹴り、壁を走りながらながら、囚われの友達の元へと向かっていく。

「フィーピーちゃん、ごめん!ちょっと我慢してね!」

流れ落ちる膨大な量の水に対し、呆気にとられているドラゴンの顔面に再び拳を叩きこむ。

またしても完全に無防備だった体は、柱のように太く落ちる水の中へと叩きこまれ、流れに巻き込まれて地面に落とされる。


「どうだ!?」

ユーネの見つめる中、予想通りなんのダメージも無さそうなデザートドラゴンがゆっくりと水の中から起き上がってくる。

「…やはり人間という愚かな種には、いくら言葉で言って聞かせたところで無駄のようだな」

「なんか偉そうに言ってるけど、昨日その人間ににボコされたばっかじゃないの?」

煽りながらまっすぐ対峙するユーネの目に迷いはない。

足に絡みつく水を力強く踏みつけ、水を押しのけ道を作ると一気にそこを駆けだす。


「来るのか?お前が攻撃をするという事は、この土竜の子供に攻撃するという事なのだぞ?」

「だから、わかってるって!」

跳び上がって空中から水の滴る鼻先を掴むと、そのまま引きちぎる。

「無駄だ!今の我の体は仮の物。砂で出来た部分だけを狙ったのだろうが、すぐに再生できるわ!」

鼻先を失いながらも、構わずに尻尾を真上から振り降ろす。


「本当に?だったら見せてよ。簡単に再生できるっと所をさ」

頭上から襲い来る幹のような太い尾を余裕で躱し間合いを取ると、千切りとった鼻先を流れ中に投げ捨てる。

「確かに人間にしては強いようだが…余裕のつもりなのか?」

「さぁねぇ~」

「良いだろう。特別だ。見逃すんじゃないぞ」

周囲からの魔力を鼻先に集めていく。


「どうだ!?この圧倒的な再生力に言葉も出ぬであろう!」

「いやいや、全然回復出来てないじゃん」

瞬時に返えされた言葉の意味が分からず、確認するように鼻先に視線を映すと人間の言う通り千切られた跡があるだけで、少しの砂も集まっていない。


「ほらね、馬鹿はお前だったじゃん。ホントの体だったら濡れても関係ないだろうけど、今は水を吸っちゃった砂なんだよ?す・な?わかる?りぴーとあふたみーしてごらん?ん?」

「グヌヌッ貴様!我を水に突き落としたのはこのためか!」

ユーネは返事の代りにニヤリと笑うと、一気に走り出す。


狙いは一点!顔だけ出ていることでフィーピーちゃんがいる場所はわかっている。

さっき鼻先をもいだ時と同じように腕全体に魔力を纏わせると、スプーンでアイスをすくうにドラゴンの首元へと腕を突っ込み、周囲の砂諸共フィーピーちゃんを抉り取る。

水を吸って鈍くなって体では、反応は出来ていてもコチラについていけていない。


楽勝!と心の中でつぶやき、このまま余裕で後方へと抜けていけると思ったやさき、足首に何かが絡みつく。

「調子にのるなよ!こちらとて土竜を掴ませたのはワザとよ!」

ドラゴンの声が後方から響いてくる。


次の瞬間には、尾に掴まれた体は背中から水に叩き付けられる。下手に地面にぶつけられるより遥かに強烈な衝撃が突き抜けていく。

一瞬緩みかけた腕に力を入れ直し、とにかく足に絡みついている尻尾をどうにかしようと足をばたつかせるが、抵抗もむなしく何度も繰り返し叩き付けられてしまう。

なんとかフィーピーちゃんを包むように抱きしめ守ってはいるが、これもいつまでもつか分からない。

せめて彼女だけでもと焦っていると、急に浮遊感と共に宙に投げ出される。


「今の内だ!人間の子供よ!娘を連れて逃げてくれ!!」

顔を向けると、そこには船に乗って流れていったはずの父さんモグラいた。

いつもは土を掘るのに使っている長い爪で尻尾を断ち切ってくれたのだ。


「なんで!?船に乗らなかったの?」

「さっきも言ったろ?オレはフィーピーのお父さんだからな!娘を人質にとられて、逃げてなんていられないよ!さぁ分かったら早く行ってくれ!ここはオレが!」


爪を伸ばし、やる気を見せる父さんモグラに胸に穴の開いたデザートドラゴンが静かに振り返る。

「…貴様らは、どうしてこう次から次へと我の不愉快になることを行うのだ?何故、上位者を敬おうとしない。まったく最近の若い奴は礼儀を知らな過ぎるのではないか?」


目を閉じ、不気味なほど穏やかな声を掛けてくる。

しかし、威圧感はそれに反して徐々に高まっていく。

次の瞬間なんの前触れも無しに、辺りの水を押しのけながら強烈なブレスが放たれた。




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