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第十二話 いつもの日常


波乱の幕開けとなったユーネのお留守番だが、今日もいつも通り元気に朝ごはんを食べて、ポッケにはきな粉棒とお気に入りの遊び道具を入れて、毎朝の日課をこなす為に勝手口から庭へと出る。


広い庭は碧い芝生をベースに、外縁を様々な種類の花や木々が生い茂っている。

自然界では、まず見る事の出来ない組み合わなのだが、アキラが薬を作る為に世界中から集め栽培しているのだ。


そんな庭の傍らで、ホース片手に植物たちに水を撒くのが留守番を請け負ったユーネの朝の日課だ。

特に夏が近くなってきたので忘れちゃうと、芝生なんかはすぐに枯れてしまうので念を押されている。


…なのだが、すぐに水撒きに飽きてしまうユーネさんは「キャハハハ!スゴイ!スゴイ!世界の終りまで流れていくのだぁ~♪」とご機嫌な声をあげ、地面に幾つも空いている小さな穴に水を流し込む事にご熱心だ。

穴がいつ出来たかなんてそんな事は気にしないし、なんの穴かも勿論知らない。


大人が見れば特に何かが楽しい訳じゃないのだが、勢いよく渦を巻き流れていく爽快感に何度も繰り返していく。

一つの穴から水が溢れだしたので、次の穴へと水を注ごうとした時、何処からか泣き声が耳に滑り込んでくる。


「…だれ?」

警戒しながらぐるりと庭を見渡すが、当然庭にいるのは自分一人だ。

出しっぱなしのホースほっぽりだし腰を屈めながら声のした方に行くと、木の陰に人が入れそうなほど大きな穴が開いているのを見つける。


いつの間にこんな大きな穴が出来たんだろうか。

別に意識して見ていたわけじゃないけど、こんなのが空いていれば気が付くと思う。

なおも聞こえる微かな声に無意識に足を踏みだす。


「あっ…わああああ!」

せり出した木の根が踏み出したつま先を引っ掛け、ユーネの体を穴の中へと放り込む。

悲鳴と共にコロコロと勢いの増していく体は、ボールのように転がり止まる事なく地下深くへと落ちていった。


出窓で朝日を浴びながら寝そべるルウの小さな耳が前後にぴょこぴょこと動く。

庭から何かが聞こえた気がして窓の外を覗くが、誰の姿も見当たらない。

「あの娘ったら、ホースも片付けずにどこに遊びに行ったのかしら…」

グッと背伸びをして、大きなあくびを一つしてから、細まった金色の瞳にあらためて庭を映すと自然と愚痴がこぼれてしまう。


「…もう。毎日毎日騒がしいことね」



     ◇



時間にすればほんの数秒のことだが、体感的にはやっとのことという感じで穴から弾きだされたユーネは、痛むお尻をさすりながら転げ落ちた先を見渡す。


「あいたたた…何ココ?洞窟?」

洞窟と言ってはみたけども、土をアイスクリームディッシャーでくり抜いたかのような綺麗な表面と、遠くまで見通せるほどの不思議な明るさがあり、どう考えても普通の洞窟ではない。

広さだって人が歩けるどころか戦闘だってこなせる程の大きさがずっと続いている。


取り敢えず戻れないかと、上を見上げて落ちて来た穴を探すが、何故か何処にも見当たらない。

少しだけ不安な気持ちが顔を出すが、そんなことよりもむしろ強く思うのは「始まったんじゃね?」の方だ。

思いがけない冒険の始まりに胸をときめかせ、もう一度辺りを見回し立ち上がると、声が聞こえてくる穴の奥へと躊躇なく歩き出す。


「歩こう♪歩こう♪ユーネは迷子~♪意外と楽しい~飽きたらぶっ壊そう♪」

拾った小枝を振り回しながら、先程からする声の方へとずんずんと大股で進んでいくユーネ。

すると少し先にうずくまっている何かが目に入る。

好奇心のままに近づいていくと、向こうもこちらに気が付いたのか顔を上げる。


「あれ?モグラ…さん?」

そこにはスカートをはいたモグラがちょこんと座っているのだ。

モグラと言っても、大きさはユーネと比べて一回りほど小さいぐらいで、本当にモグラなのか疑わしい。


「え?に、人間?」

いきなり現れた人間は、とても小さく自分よりちょっと大きいぐらいで、本当に人間か疑わしい。とハッキリ目に表れている。


スカートを履き、言葉を話す不思議なモグラ。

ノリノリであまり上手じゃない歌をうたう小さな不思議な人間。

互いに驚きを浮かべた目を合わせる。



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