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第十一話 その三


目を合わせる両者はニヤリと口の端を上げ、一気にギアを上げる。


「「うおおおおおお!!!」」

幾つもの残像を残した拳のぶつかり合いが、空気を押しのけていく。

音が消えていく空間で、荒れ狂う殺意の中の一つづつが互いの顔へと同時に突き刺さる。

一瞬互角と思われた攻撃だったが、ユーエルだけが吹き飛ばされてしまった。

ウェイトの差と技の性質の差で撃ち負けてしまったのだ。


『これでさっきと同じだぞ!また風がお前の背中を押し返してくるんだからなぁ!』

レスラーがリングロープを利用したときのように、風に押され綺麗に戻ってくるユーエルにタイミングを合わせ拳が振り切られる。


「こっちも言ったよね?ハンデだってさ!」

首を傾け頬をかするパンチを横目に、体を回転させ相手の腕を掴みながら懐に入ると、一本背負いの要領でそのまま風の壁に向かって投げ飛ばす。


「そこの風はお前も押し返してくれるんだろ?」

最初から押される事を想定して動いていたユーエルと、何が起こったかさえわかっていない怪人とではその後の対応がダンチだ。


あわわわと情けない声を上げて戻ってくる台風男に向け、腰を落とし思いっきり力を溜める。

「さっきのお返しだぁ!!!」

下から突き上げるように硬く握り込んだ拳を下顎へと叩きこむ。

何かが砕ける音を響かせると、間髪入れずに逆の手で鳩尾へと掌底を入れ、垂直に打ち上げる。

様々な体液をまき散らしながら舞い上がっていく台風男を見ながら、上手くいったとユーエルが満足気鼻を鳴らす。


「ほら、油断しないの!まだ、倒してないのよ」

「もう、わかってるって!今からやるところだったの!」

遥か上空から、怒りに震える雄たけびが聞こえてくる。

もう立て直したようだ。だが特に以外でもない。

まぁ見た目通りに体力もあるのだろうって感じ。


一応目を向けると、なんか両手に魔力で風の球を作り始めている。

多分必殺技とかそんなんだろう。敵ながら感心してしまうほどに凄い量の魔力が凝縮されている。

しだいに、その風の球を中心に大気が震えだす。

それはあいつが今まで出会った敵の中で間違いなく一番の強さだというようにルウが焦った声を上げる。


「ほらぁ。何かしようとしているじゃない。あんなのが地上に落ちたらフジザクラタウンまで一緒に吹き飛ぶわよ」

「大丈夫だって!こっちだって、距離と時間を稼ぐためにわざわざ打ち上げたんだから、問題なし!」


さぁいくよ!と気合を入れ直したユーエルが、両手を揃えて真正面へ突き出す。

世界が何かを感じとったかのように、一瞬で辺りの気温が数度下がる。

静かにゆっくりと白い息を吐きだしながら、詠唱が始まる。


「滴る神の血をすくいて、彼の者の唇を彩らん」

重なった手の下には、地獄から響くかの様な軋んだ音を響かせ黒い魔力が渦を作り始める。


「女よ。暗き井戸の底へとその愛を囁け」

女の甲高い悲鳴が空気を切り裂き、渦の中から黒く四角い柱の様なモノがせり上がってくる。


「さぁ高らかに嗤い出でよ!銀盤上の預言者(オブセストラバー)!!」


一瞬大きな光に包まれ視界が白く染まった後には、ユーエルの身長ほどある長くゴツゴツとした黒く四角い筒が脇に抱えられていた。

その形状は銃のような遠距離武器を連想させるが、大きさがまったくあっていない。


高まる魔力に呼応するかのように、黒い蝶がユーエルの背後に集まりランタンを輝かせる。

輝きは光の導線となり、銀盤上の予言者(オブセストラバー)の側面へと接続され、そこから供給される力が、巨大な銃に明滅する青いラインを刻んでいく。


ラインは枝分かれしながら先端まで辿り着くと、機械音を伴いながら、二つに割れ中から青黒い棒が突き出し、まるで三叉の槍のような本来の形へと姿を変える。


一方で台風男の両手に挟まれた風の球が、臨界点に達しユーエルに向け吐き出される。

それは手の平サイズの小さな形状ではあるが、半径数キロは塵で出来るほど広域殺戮兵器だ。

台風男は放たれた自身の力に満足すると、愉悦の浮かぶ目を細める。


「さて準備できたし、こっちからも行くぞぉ!」

脇を閉め、下からしっかりと支え、銀盤上の予言者(オブセストラバー)を固定する。

ヘルムごしの視界には、十字の印が浮かび嵐男の姿を固定する。

「これで決める!!!」

もう直前まで迫っている、風の塊を気にもせずに向けトリガーを絞る。


「世界の終わりまで貫けえぇぇ!ワールドエンドッ・オーバーショット!!」

蒼い稲妻を纏う七つの黒い光が、轟音と共に三叉の先端から放たれる。

黒い光は一本に纏まり回転しながら風の球と相対するが、何ごともなかったかのように瞬時にそれを貫き、空へと駆け上っていく。


バリバリと異様な音を放つ黒い光は、進路上の大気を灼き焦がしながらそのまま風の球の軌跡をたどり台風男ダーフェイへと迫る。

台風男は即座に回避行動に移るが、光はどれだけ逃げても衰えることなく、追尾してくる。

回避は無理だと悟ると、覚悟を決め歯を食いしばり、腕を十字に組み受ける姿勢を取る。


『腕の一本ぐらいはくれてやる!!』

直撃した事を示すように真っ白な光が広がり音や空間を吞み込んでいく。

それはある程度まで広がると、一気に収縮して星が爆発したかのような音と衝撃をまき散らし、地形を変える。

数秒の後に衝撃が収まるのと比例して、吹き荒れていた雨風は緩やかに流れはじめ、音もなく爆煙をほどいていく。


『ク…クク。この化物め。お前本当に人間かよ?いや、まぁなんでもいいか。どうせ兄ちゃんには勝てないんだからな…さぁ行け!オレ達の力!ライ兄ちゃん、オレ達の命を吸ってコイツを…』

そこには、両腕をなくし胸に大穴あけたダーフェイが苦笑いを浮かべていた。

徐々に目の光が失われていくのと合わせてダーフェイの体が赤い光になりながら、はらはらと解けていく。

そのまま吹いてきた強風に乗って真っすぐ北へと流れて消えていった。


「勝った…ね」

同意でもするかのように、銀盤上の預言者(オブセストラバー)の一部がパージすると、勝ち鬨のように白い排熱を勢いよく上げる。

「ええ、本当によくがんばったわ」

街へと視線を映すと、丁度砂嵐が収まり始めており、一部は大きく壊れているけど多分ミトラちゃん達が上手くやってくれただろう。


「じゃ、早く帰ろ。皆も心配だし、お腹もぺこぺこさんだよ~」

「同意見だけど、焼きそば屋さんは…流石に開いてないでしょうね」


  ◇


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