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第二話 ➀ やっぱり基本は冒険者! 10



なんか話はギルドって所でする事になったから、先にミトラちゃんを家に送って帰り、お父さんに肩車して貰いながら通りを進む。

多くの瓦礫が積もった中をぬけて行くと、木造二階建ての建物が見えてくる。あれが冒険者ギルドというものらしい。なんかクサイ。

汗とお酒の入り混じった独特の臭いが遠くまで漂ってくるおんぼろの建物だ。とにかくクサイ。


来る途中にお父さんが教えてくれたんだけど、なんか冒険者って言うのは薬草を採りにいって、スライムを仲間にできたら、貴族の馬車を襲う盗賊をぶっ殺しにいくという、変わった人達の事らしい。

どおりで、クサイわけだ。とアキラの髪を掴んで一人うんうん偉そうに頷くユーネの姿は自然に周りを和ませていく。


扉の前に来るとおじいちゃんが、今の騒ぎで皆で払ってるから遠慮なく入ってくれ。と扉の鍵を開けながら中に促すので、急いでお父さんの頭からピョンと飛び降りる。

だって一番早くに入りたいもん!


中に入り薄暗い室内を見渡して見ると、なんかレストランみたいな感じで不思議に思っていると、お父さんが一階は酒場を一緒にやっていて、二階で冒険者たちの仕事をしてるって教えてくれる。


疑問が解消されてしまうと、閉め切った室内の籠った臭いがユーネの鼻に滑り込んできて、遠慮なしに深々と眉間に皺を寄せる。


そんなユーネの様子を気にもしないおじいちゃんは、二階の奥の部屋へと入ると、ボフンと盛大に埃を舞い上げながら自らの椅子に飛び乗り、対面のソファに座るように勧めてくる。


この頭部をキラリと光らせる男ギャランは、今は齢六十歳を越え皺が目立つようになったが、現役の冒険者だったころは数々の伝説を携え、人の限界とされるAランクに席を置き、引退後も「神の繭」とまで言われるSSSランクのアキラを育てた人物として世界にその名を馳せた傑物だ。

そんな男がちょこんと座る子供に一度を目をやってから、アキラへ視線を移す。 


「街の惨状は…どうせお前が関わっているだろうから後でいいとして、その子はあの時の赤ん坊か?」

そうだ。とだけ答えるアキラから再び子供に鋭い視線を戻し、薄くなった頭を撫でる。


あの時──九年前世界の三分の一が消えた直後、それまで行方不明だったアキラが守るように抱いて帰ってきた赤ん坊。

結局、この街で偶然再開してからも今日まで詳しく聞く事はなかった。

何かあるのであれば話してくるだろうという信頼があるからだ。


だが、今は少し状況が違う。

近年、怪人が起こす事件は言わずもがな、多く異常気象や災害が目立ち、それら被害に対処するべき冒険者という力をもったものが少しでも多く必要とされてきているのだ。


「それで、まぁ…やっぱり、お前の子って事は強いのか?」

怪しい光を放ちながら、ギャランがアキラに問いかける。



いや、かなり強いのは分かっている。先ほど椅子に座ったあたりから放っているオレの殺気に対して何も反応しない。


普通の奴は力量次第で怯える、反発するなど何かしらの行動を起こすものだ。

あのアキラでさえ目つきを悪くするぐらいの圧が放たれているに関わらずだ。


それなのにだ、何事もないようにただそこに座っている。それだけでこの嬢ちゃんの力量はある程度測れる。

しかしオレが知りたいのは、現役だったころのアキラと比べてって所だ。


「今は、まだ半分って所だが…」

当然の様にコチラの質問の意味を汲み取って答えるアキラが口を開く。

「だが…?」

「可愛らしさはSSSSS級はいくぞ!つぶらな瞳にピンクの頬っぺた。これはもう絶対に王族から婚姻の話が来るだろ!いや、待てよ?これは今から国と戦争する準備をしておいた方がいいんじゃないか!?クッソぉ!オレのユーネは誰にも渡さぁぁぁん!」


「…あーうん…わかった。わかったから、いい大人がテーブルに乗って騒いでくれるな…」

相変わらず意味のわからん事を口走っているが、ごく当たり前の事も知らなかった世間知らずのガキが、今や親馬鹿かよ。オレの頭も寂しくなるわけだな。

ギャランはもう一度頭に手をやると、昔から世話してきた息子のような存在の成長に、哀愁の混ざった不思議な、しかし悪くない気持ちが湧き上がってくる。


だが、いつまでも個人的な感情に浸っているわけにはいかない。

今はギルドマスターとしての仕事の最中だ。

息子(の様な男)を疑うわけではないが、目の前のこの小さな子が、老いたとはいえ俺より強いと言うのは流石に…な。


現役を退いたといえ、俺は人類の到達点と言われるAランクまで行った男だぞ。こんな小さな子供になんか負けられるか。

放っていた殺気を本気でぶつける。それこそ古い龍と一戦交えるかのように全霊で。

すまないが、嬢ちゃん。少しばかり測らせてもらうぞ!


そこで、やっとユーネが反応する。今まで退屈だと言わんばかりにキョロキョロしていた目を止め、静かにゆっくりとギャランと目を合わせる。


「クッ!」

ギャランの意思とは関係なく息が漏れる。

これは現実ではない。幻だ。頭じゃわかっているが、理解が追いつかない。

目が合った瞬間、周りの景色が暴風雨が吹き荒れる嵐に変わり、肌に突き刺さる雫の鋭さが幻である事を否定する。


嵐は徐々にその姿を変え、黒い獣に変わると大きく顎を開け食らいつこうと迫る。

抵抗しようとして、椅子から転げ落ちた所で現実へと戻る事ができた。

はぁはぁはぁ。呼吸が乱れ、油汗が額に滲む。

「大丈夫?おじいちゃん」

何ごとも無かったかのように、キョトンとした目をこちらに向ける幼子に膝が笑う。


「はは、ここまでとはな…まいった。おじちゃんの負けだ。という事で嬢ちゃん、冒険者にならねえか?」

「絶対イヤ!だって、臭いし、なんかカッコ悪いもん!」

新進気鋭の青年であればそんな適当な口説き文句でも行けたであろうが、おませに目覚めてきた年頃の女の子が「うん、なる!」なんて言う訳がない。

100パーない。


しかも、今ユーネにそんな時間ありはしないのだ。

ただ座っているように見えるが、今ユーネの頭の中では壮大な計画が積み上がろうとしている。

最初ギャランの殺気に反応しなかった理由もここにある。


それは何かと言うと、ここの近くにはいきつけの駄菓子屋さんがあるのだ。

そのため彼女は、残り少ないお小遣いでの最適解を一刻も早く導き出さなければならない。

そんな重要案件を抱えた中で、臭くてダサい冒険者の話など煩わしい以外なにものでもないだろう。


(だいたいね、ユーネは思うんだけどさ!)

(なんであんなグチョグチョでベチョベチョのスライムなんかを、連れて歩かないといけないの?プレイなの?全く理解できないわ!)

(あれ?ちょっとまって…もしかして冒険者って、新しい扉を開く冒険をする人ってことぉ?)


「ぐぬぅっ…」即答され、取り付く島もない態度に奥歯を噛みしめる。

しかしアキラが引退している今、ギルマスの立場としてこんな金の卵をみすみす逃すわけにはいかない。


コイツが勝手に引退したせいで、運営会議でどれだけ攻められたことか…しかも、こんな田舎まで飛ばされて…オレのせいじゃないのに。イヤイヤ、今はそんな事どうでもいい。

イヤな記憶に蓋をするように、即座に次の案を提示する。


「臭いはウチの冒険者全員でまず掃除して、いや、嬢ちゃんの為に新しく立て直すよ!それに依頼をこなして報酬が入ればお菓子とか買い放題だぞ?」


「ぬはッ!?買い…放題だ…と…」

思考に突如割って入ってきた単語に動揺を隠せないユーネは、驚愕の表情を浮かべると、恐る恐るアキラ達に目を向ける。


「お父さんは、ユーネの強さを知っているから反対はしないけど、お菓子は一日1つまでだからな」

「食べた後、ちゃんと歯磨きするって約束するならいいわよ」


二人からのお許しも出て、冒険者への印象は手の平ドリルだ。

それに、よくよく考えるとお父さんと同じ冒険者ってのになれると思うと何だかんだで嬉しくなってニコニコしちゃう。

でも、ちょっと恥ずかしいからバレないようにしなきゃ!


あ…ちょっと待って。

いま思ったけど、もしかしてこのおじいちゃんはカミさまって奴なのかもしれない!

だって、いつも教会に居るツルツルのオッサンもカミの話をしてたもん。

うん、きっとそうだ!だから、お菓子食べ放題なんだ!やるじゃんカミ!


しかしだ。相手がカミさまだろうと何だろうと即座に首を縦に振るのは、なんか負けた気がして嫌だ。大人の女はカケヒキが大事って夜しか居ないお姉さんが言ってた気がする。


でも、カケヒキってなんだろう?…引き?引く?…あ!わかった!多分アレだ!

夜の路地裏にいるオレンジの髪のお姉さんを思い出して、クネクネしはじめる。

この腰を引く動きが大事って言ってるのを聞いた事があるんだもんね!


「よ~し!決まりだ!それじゃ、さっそく稟議書をあげて、大工と打ち合わせをして──あ~悪いが今日は帰ってくれ、今から人を集めて計画を立てなきゃならん!あ?さっきの怪人の話?そんなの今度でいい!」

怪しい動きをとる目の前の幼女をまるっと無視して話を進めるギャランを思い出したようにアキラが止める。


「あ~違う違う、確かにアイツらに関する事だが、ちょっと違う事なんだよ」

「なんだよ?今言っておかなきゃいけない問題でもあるのか?」

…イヤな予感がしてきた。コイツがこんな薄ら笑いを浮かべるときは碌な事にならないからだ。


「あぁ。ユーネにはちょっとした秘密があってな。今後の事を考えると一応おやっさんと共有してた方がいいだろうと思ってよ」

「秘密ぅ?あー聞きたくない!オレは聞きたくないぞ!どうせ、またトラブルだろ?」

当然何かある事は予想出来ていたし、聞きたくないのも本当だが、完全に拒否するようなモノの言い方はできない。

何故なら本能が、「ちゃんと聞いておけ後から困るのはお前だぞ!」と言っているからだ。


「そこを何とか!カワイイ息子の頼みだと思って聞いてくれよ。な?」

「…息子ねぇ。都合の良い時にかぎってそんな事言いだしやがって」

確かに捨てられた子犬みたいだったコイツを拾って育てて…そうだな。確かにどら息子だな。

ため息を吐きながら上着の内ポケットから取り出した煙草に火をつけると、肺を煙で満たす快感で余計な思考を放棄する。


「あーわかったよ。創世の女神アイルート様に誓ってその秘密守ってやるから、聞かせろ!」

勢いよく煙を吐き出すと両手を上げ、ギャランが折れたアクションを示す。


「すまんな。じゃあ二人とも戦闘の後でシンドイだろうが、おやっさんに少し見せて上げてくれるか?」

「いいよ~!そんじゃぁ行くよ!ルウ」

(いいわよ~)

変身の掛け声と共にみるみる内にその姿が変わっていく。


「そ、その姿は!街で話題になっている黒騎士じゃないか!嬢ちゃん達だったのか!?」

余りの驚きに、煙草の灰が落ちているのも忘れて驚嘆の声をあげる。

「ああ、最近やっと力を制御できるようになってな」

「そうなんだよ!おじいちゃんにも少しだけ、世界の終わりを見せてあげるね!」


振り上げるユーエルの拳を中心に、紫の光が渦を巻いて集まっていく。




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