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零課外伝 零伝 ~肆~

 このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。

 赤黒の腹部からは血が溢れている。嬰児は頭を抱えながら、赤黒の元へ駆け寄っている。私も赤黒の元へ行きたいが足が言うことを聞いてくれない。

 「政……!」

 赤黒が私を見ながら手を差し伸べている。

 「あー、新調した拳銃、標準小さすぎて的が外れたわぁ」

 赤黒たちが拘束されていた奥の暗闇から一人の男が歩いてきた。二十代に思える容姿に、背丈は高く、ぼさぼさの髪に黒いペストマスクを身に着けた全身黒の格好の男だった。片手には静穏装置(サプレッサー)の付いた拳銃を持っている。

 声のした瞬間に嬰児は、その男に襲い掛かっていた。

 「まあ、落ち着け」

 男が片手をかざすと、凄まじい風が嬰児を襲った。嬰児は軽く吹き飛んだ。

 「別にそこの女だけを殺しに来たわけじゃないから。今日ここにいた連中には消えて貰うのさ。そこの電気野郎は少々知り過ぎたらしい。ってなわけで……」

 男は拳銃を私に向けた。そのときだった。叢雲が木刀を振り上げていた。

 「だ・か・ら!順番待てって!」

 しかし、男は吹き飛ばされた。

 私は意識が朦朧としながらも、赤黒の元へ駆け寄っていた。私が赤黒を抱きかかえるときには、既に息が微かであった。私は必死に止血を試みた。しかし、当て布をしても血が止まらない。場所は急所ではないはずなのに彼女は弱っていく。どうやら根賀の電気により、そもそも憔悴しているようだった。嬰児をやってきたようだ。声が聞こえる。

 「嬰児、お前の“異災”でどうにかならないのか……?」

 嬰児は首を横に振った。

 「俺の“反対”は俺以外の生物には効かない……。ねずみで実験済みだ……。済まねえ……」

 嬰児は涙を堪えながら言った。

 「政、俺はお前の気持ちを知っている。俺はさっきの糞野郎をぶん殴らないと気が済まない。お前は夏芽の最期を一緒にいてやってくれ……」

 嬰児はそう言うと、立ち去って行った。私は冷えていく彼女の体を抱きかかえるしかできなかった。

 「政……」

 彼女の声が微かに聞こえる。

 「政って、基礎代謝が高いから……、温かいねえ……」

 こんなときでも彼女は冗談を言っている。

 「こんなときに何を……」

 私は嗚咽で言葉が紡げなかった。

 「違うね……。これは優しさの……、温かさだね……」

 私は涙が止まらなかった。

 「私さ、二人とも、好きだったんだよね……。でも嬰ちゃんは、友だちとして……。政は……」

 そのときだった。彼女は後頭部に手を添えると、私の顔に近づいた。そして、私の唇に彼女の唇が触れた。私の涙が彼女の頬を伝い、それが小さな川のように流れた。私は両腕で強く彼女を抱きしめた。この時間が永劫続けば良かった。しかしそれは不可能だった。私は彼女との接吻を終えると、静かに目を開けた。

 「これが私の気持ち……。政は鈍感だから、分からないかもね……」

 彼女はそれ以降、言葉を発することはなかった。私は彼女の伝う涙を優しく拭うと、体が完治していることに気づいた。

 「夏芽……。手ぶらで君の元へは逝けないな」

 私はそう呟くと、ゆっくりと床に寝かせた。


 「なんだこの男!滅茶苦茶強いじゃねえか!」

 嬰児がそう言うと、叢雲は口を拭った。

 「こうなったら……!」

 嬰児がそう言うと、叢雲が止めた。

 「まさかあの奥義を使う気なのかい!?やめてくれ!あの姿だと私は近づけないよ!」

 「じゃあ手出すなよ!」

 「仲間割れは良くないぞ」

 二人の元へ辿り着いた私の目を見た二人は、驚いた表情だった。

 「政……、どうしてここに?それに体も治ってるし、その目……」

 嬰児がそう言うと、私は男を見たまま言い放った。

 「夏芽は死んだ。俺は冥途の土産にアイツの首を持っていく……!」

 私は構えた。今までとは異なった構え方である。この構え方は嬰児の“(オメガ)”の戦闘スタイルに合わせた型である。

 「いくぞ嬰児、三分で沈めるぞ」

 私がそう言うと、嬰児は少し嬉しそうな様子で答えた。

 「……十秒だろ?」

 嬰児にそう言われ、私たちは微笑んだ。

 嬰児が雄叫びを上げると、辺り一面が更地になった。あまりの衝撃に天井が崩れた。私は覚醒したことにより、嬰児と視覚を共有することができた。嬰児が大きな打撃を加えた瞬間に私が連撃を繰り出す。この一連の攻撃を絶え間なく繰り出していく。僅か数十秒で男を追い詰めた私たちは男を吹き飛ばした。吹き飛んだ男を二人の男が受け止めた。

 「あー、あとがとう。でも別に助けなくても大丈夫だけどね!」

 男のやせ我慢にドレットヘアで巨漢の一人の男が言った。

 「貴様を助けに来たわけではない。もう逃げ出した観客を始末し終わったから来たまでだ」

 もう一人の黒い装束を着た細身の男が言った。

 「たかが未成年の子ども二人に手こずるとは……、情けない」

 黒服の男たちは、私たちを見た。

 「三対二ってだいの大人がみっともないぞ!」

 嬰児がそう言うと、黒い装束の男が地面に手を触れながら言った。

 「子どもだろうが情けはかけない。殺しに容赦はしない」

 男がそう言った瞬間、地面が粉々に砕け始めた。

 「おい政、アイツ見たか?根賀と同じで“異災”が二つあるぞ……。それも他の二人もだぞ?」

 「ああ。“霊媒(れいばい)”に“崩壊(ほうかい)”、禰宜(ねぎ)猛也(たけや)は、あまり近接戦闘は裂けたいな……」

 私がそう言うと、嬰児は私に問い掛けた。

 「お前、アイツの名前知ってるのか……?」

「いや、アイツの頭上に見えるんだよな……」

私はそう言った。どうやら覚醒の一つらしい。何なら相手の血管や骨、内臓までも見えている。しかし、私たちは分が悪く、追い詰められているときだった。

 「轟音が聞こえて駆けつけてみればなんじゃこれは!?」

 駆けつけたのは、祭林と東だった。

 「会長さん」

 私がそう言うと、東は何も言わずに日本刀を抜いた。

 「言わずも分かる。向こうが敵じゃァ!」

 東がそう言うと、体が人一倍大きくなった。

 東の異災は“奮起(ふんき)”である。身体を震わせることで身体機能を向上させることができる。

 「駄目だ!東さん!」

 東は地面に刀を叩きつけると、地面が割れた。

 「見れば分かる!アイツらはホンモノだ!真っ向勝負で敵わないことぐらい分かるわ!」

東は私と嬰児を抱きかかえると、敵に背を向けたのだった。そのときだった。目の前に見知らぬ男が立っていた。先ほどの男たちのように黒いペストマスクをしていて、全身黒スーツの二十代ぐらいの男は何もしてきてはいないはずだが、東は一歩も動けなかった。それは祭林も同様だった。そのときだった。

 「隙あり」

 禰宜がそう言うと、禰宜は地面に触れた。すると地面が音を立てて崩壊していく。

 「駄目だよ」

先ほどの男が片手を伸ばすと、一瞬で崩れる地面が止まった。そして、禰宜の左頬に一筋の傷が生じた。その衝撃でペストマスクが落ちた。禰宜は逆上するかと思われたが、俯いたままだった。男は片手を降ろすと、私たちを見た。

 「さっきは我の同士が悪かったね。……真面目なんだ、彼らは」

 男はそう言うと、ペストマスクを外した。

 「我は……、そうだな“(ゼッド)”とでも名乗っておこうか」

 男はそう言って右手のグローブの甲を見せつけた。そこには大きな文字でZと書かれている。ダサかった。

 「我々はある共通の目的をもって協力している関係なんだ。今回はちょっと例外的なんだけど、目的が達成されたから本当は良かったんだけどね。我々の勘違いだったみたいだ。我を狙ったのかと思ったよ」

 Zは訳も分からずそう言うと、祭林の肩に手を置いた。祭林の額には大粒の汗が零れ落ちていた。Zは軽く微笑むと、闇に姿を消していった。他の男たちも闇へと消えていった。


 この一連の出来事は一部の人間でしか知られておらず、私がこの記録を書くまで記憶が曖昧になっていた。恐らく夏芽との記憶の最期を忘れたいが忘れたくないという記憶の狭間であったのだろう。


 今回の事件で死者は大会を観戦していた富豪百名弱に加え、ベン、夏芽だけだった。大和、唐澤、根賀は一命を取り留めた。

 私たちは夏芽の葬式に参加した。夏芽は友だちが少なく、というか我々しかおらず、ほぼ親族と私と嬰児での葬式となった。嬰児は「髪型を整えたらアイツが笑い死ぬから二回死ぬのは可哀想だから」という意味不明な理由で、寝癖がついたままだった。

 葬式後、嬰児は近くの河川敷で甘ったるい珈琲の飲みながら言った。

 「俺さ、学校の先生になるわ」

 突然の告白に私はお茶を噴き出した。

 「お前がか!?どういう風の吹き回しだ?」

 私がそう言うと、嬰児が答えた。

 「政は夏芽の言ったことを覚えてるか?」

 それは三人の以前の会話のことだった。


 「私さ、皆が幸せに暮らせるような世界を作りたいんだよね」

 夏芽の突然の発言に私と嬰児は驚いた。

 「どうしたん急に」

 嬰児がそう言うと、夏芽は話を続けた。

 「今の学校、というか社会ってさ、憲法零条もあるからだけど、異災を押し殺して皆平等に協調性を養いましょうっていう風潮じゃない?でもさ、それってとっても異災(私たち)には生き辛いじゃない?だからさ、皆が平等で過ごせる基盤を私は作りたい」


 私はその言葉を今でも鮮明に憶えている。夏芽の夢を語る横顔も。

 「俺さ、皆を平等にするなら教員が一番近道だと思うんだよな」

 嬰児はぎこちなくそう言うと、私は口を開いた。

 「私は……、私はこの力が何なのかを知りたい。私は学者になる」

 私の発言に嬰児は笑みをこぼした。

 「お前が学者に!?どうしてまた」

 「平等な世界、不平等な原因は異災があるからだ。どうして人間に異災があるのか私は調べる」

 私がそう言う終えると、嬰児は私に拳を差し出した。

 「お前らしいな、政」

 私は嬰児の拳に拳を交わした。

 「俺は教員に。政は学者に!道は違えど目的は同じ!最高到達点でまた会おう!」

 盟友とはここで別れとなった。しかし、割と直ぐに再会となる。

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