零課外伝 零伝 ~弐~
このストーリーはフィクションです。登場する人物や団体と関係はありません。又、一部性的な描写がございますのでご注意ください。そして、この作品は日本の歴史や神話を基にした構成があり、一部の方々に怒られそうな内容が記載される場合がございますので、先に謝ります。申し訳ありません。
私と嬰児、半魚人の男は近くにある極道組織の本拠地に足を踏み入れた。嬰児が男を人質にして向かったため、難無く入れた。嬰児が。
私たちは一番豪華な部屋へ通された。というか半ば強引に入った。そこには一人の男が座っていた。黒いスーツに白い羽織を身に着けているだけなのに威厳が感じられた。
「君たちが私の可愛い子を痛めつけたという糞共は……」
男は丸眼鏡奥から、鋭い眼光で睨みつけた。しかし、嬰児の表情は変わらなかった。嬰児は男を投げ捨てると、近寄った。そして、男の前の机を両手で叩きつけた。
「“増電”の男の居場所へ連れていけ。それ以降は勝手にやる」
嬰児がそう言うと、男は立ち上がった。
「勝手なことほざいてんじゃねェ!こちとら大事な子が目の前で投げ捨てられてんだ!どう落とし前つけるんだ!あァ!?」
男が叫ぶと、辺りが揺れ始める。しかし、嬰児は微動だにしなかった。それどころか振動を収めた。
「こっちは大切な親友奪われてんだ。そっちがその気なら俺だって本気出すぞ。ここにいる連中全員潰せば良いのか?」
嬰児の“反対”により、男の脳が揺れ男は椅子に腰を下ろした。
「お前ら、何者だ……?」
「今は答えているほど暇じゃない。兎に角、“増電”の男の居場所、地下闘技場へ連れていけ」
「……地下、闘技場……?どういうことだ?」
男はとぼけているが、どうやら本気で分からないらしい。そのとき、扉の奥からもう一人の男が現れた。
「祭林さんは何も知らねェよ。ちょいと失礼」
男は祭林の横の椅子に座った。
「こん度はうちの若ェのが迷惑掛けたな。儂の名前は、東大地や。そしてこちらが祭林龍司さんだ。若ェあんちゃんたちは知らねェかも知れねェが、ここ東祭連合は最近できたばかりの組織でな、色々大変な時期なんだよ。どうか祭林さんを赦してやってくれや」
東という男は中々漢であった。いかにも任侠といった格好であるが、どこか優しさを感じた。
「それで寝ぐせのあんちゃん、“増電”の男って言ったか?そいつは俺の下の根賀って奴だな。そいつがどうか下か?」
「そいつが俺、いや俺たちの大切な親友を誘拐したんだ」
「なるほどなァ」
東は腕を組み考え込んだ。
「東さん!コイツらの言うことを聞くんですかい!?証拠も何もないんですよ?」
「まあ、こっちにも証拠ないからなァ。それにこっちの言い分の方が、筋が通らねェ気がするんだよなァ」
東がそう言うと、私は東の元へ歩み寄った。
「私たちは何も殺し合いに来たわけじゃないんです。根賀さんのいる地下闘技場へ安全に連れて行かせてもらえばいいんです」
私はこの場で一番冷静な東に話を続けた。
「……アイツは昔から汚ェシノギにばっか手を出してよ。分かった。うちの選りすぐりを寄こしてやる!祭林さんもそれで良いよな?」
祭林は頷いた。そのときだった。
「一番安全な経路は下水道だ」
倒れていた男が言った。
「小錦」
祭林がそう言うと、小錦は土下座をした。
「俺は根賀組長に俺のオンナ脅されて……!この後に、どんな罰でも受け入れる!だから俺を案内役として連れて行ってくれ!」
小錦がそう言うと、東が言った。
「お二人さん、どうかな?」
「私は賛成かな。場所は分かるけど、細かいことは分からん。詳しい人がいた方がいい」
私がそう言うと、嬰児も頷いた。
私たちは小錦の他に、大和宇太朗、唐澤曙という二人の直系組長と地下闘技場へ向かった。
迷路のような下水道を何度も曲がり進んで行くと、広い空間へ着いた。目の前には大きな両開きの扉があった。扉の前には黒服の男が二人立っていた。
「小錦、客人か?」
黒服は小錦を見た後に、大和、唐澤を見ると、頭を下げた。
「ここに用事がある。極悪人を連れて来た」
小錦がそう言うと、黒服の男たちは扉を開錠した。扉の奥には異様な光景が広がっていた。長い廊下の向こうで様々な歓声が聞こえる。私たちは歩みを再開すると、横に受付があった。小錦が受付と話をしていると、私たちの方に目を向けた。
「根賀組長は確かにここに来ている。ただ、案内はできない。そこでだ。会う方法は二通りある。一つ目は闘技場で優勝すること。根賀組長に近く出会えるのはこれが一番近い。二つ目は無理やり押し入るか、ただそれは危険すぎる。ここにいるのはほぼ全員根賀組長の息が掛かった人たちだ」
「俺は後者でも構わないぜ。ここにいる全員殺す気だからな」
嬰児がそう言うと、私は首を横に振った。
「赤黒たちを危険に晒したくない。私がここに出る。それで構いませんか?」
私が小錦にそう言うと、ぎこちなく頷いた。
「ただ良いのか?ここに出る者たちは大犯罪者たちだぞ?」
小錦がそう言うと、私は頷いた。
「ただ、仮面を着けても良いか?顔を知られているかもしれない」
私がそう言うと、懐から仮面を取り出した。
『さぁ皆さん!お待たせいたしました!負けたら刑務所行きのハラハラ大決闘!今回は大物ゲストの登場です!!さあ、普通の決闘では満足のできない富豪の皆様!是非お楽しみ下さい!』
司会の実況と共に湧き上がる歓声、私は狐の半面を着けると、上半身裸になると、ステージに向かった。
『さぁ今回は特別ルールでいきたいと思います!ルールは勝ち抜き戦!今回の挑戦者は謎に包まれた男!鬼丸!』
私がステージに上がると、向こう側から不気味な男が上がってくる。全身が傷だらけな上に褌を締めている。
『対する相手は本大会きっての殺戮マシーン!連続通り魔で今までに二十三人も殺した大犯罪者!今回も挑戦者を血祭りにあげるのでしょうか!!……辻!!』
辻は飛び上がると、一気にステージに降り立った。
『それでは……、試合スタートォォォォ!!!』
銅鑼が鳴ると、両者は一斉に飛び出した。
「なあ、白龍院と言ったか?彼はお前より強いのか?」
観客席で小錦がそう言った。
「全戦全敗、俺は一度も政に勝ったことがない。それに政の本気を俺は見たことがない」
嬰児がそう言うと、会場がどよめいていた。辻は既に気絶している。
『し、試合終了です!何ということでしょうか!今まで負けたことのなかった辻が一撃で……!』
司会者も言葉を失っていた。
「武術家の奴らが口を揃えて最強と評価する“大道寺影武術”、政はそれを齢六歳で免許皆伝した。俺は政より強い人間を見たことがない」
その後、私は陰茎が狂暴化する“狂茎”の闇医者も一撃で倒し、最後の闘いが始まろうとしていた。
私がステージに上がると、向こうから私よりも二倍近く巨大な男が歩いてきた。顔の掘りが深いので外国人だということが瞬時に分かった。手には赤黒い風船のような手袋をしている。
「拳闘士か……」
私がそう呟くと、男は私を見下ろしながら微笑んでいた。
「ほほう、ボクサーを知っているのか。分かる日本人だ」
私からは胸筋が喋っているように見える。筋肉が大き過ぎて顔が良く見えない。
『さあ今大会も大詰めです!ベン・マクス選手は全大会から登場した主催者が招待した大物ゲスト!彼の試合では途轍もない額が動きます!それでは、最終試合……、スタートォォォォ!!!』
今までに大きな銅鑼が鳴り響いた。
「俺様のパンチは大砲だ!」
ベンの放ったパンチを私は避ける。放たれた衝撃は、後ろのいた観客をも吹き飛ばした。
「どうだ!俺様のパンチは!」
ベンがそう言うと、再び振りかぶった。
「駄目だな。それだと拳の勢いが外に逃げている。私が教えてやる」
私はそう言うと、ベンの拳に触れた。その瞬間、ベンの腕の骨が粉々に砕ける音が会場に響いた。
「まあ、あれほどの勢いを中に留めたら、耐えられないわな」
私がそう言うと、ベンはうずくまりながら言い放った。
「俺様に何をした!?」
「簡単なことだ。貴様のパンチは力が分散されていた。それを一点に集中させた後に、俺がそれを押し返したまでのことよ。そもそも貴様のパンチはまだまだまだだ。私がお手本を見せてやる。……嬰児、そこちょっとどいてくれ」
嬰児は私の言う通りにどいてくれた。私が腰を軽く落とし、拳を軽く放つと、嬰児の真横の壁に林檎ほどの大きさの穴を空けた。
「これは円運動の応用だけど、これは私のオリジナルでな、“宙に浮く力”の応用なんだ。そもそも“宙に浮く力”っていうのは本来……」
「……参った」
ベンは呟いた。私は気づかず話し続けたが、司会の大音声によって漸く気づいた。私が立ち上がったそのときだった。私は瞬時にステージの外側に飛び避けた。次の瞬間、雷がベンの元に落ちた。
「ほほう。私の雷を避けるのか!」
そこには、根賀と拘束されている赤黒、叢雲がいた。根賀は飛び降りると、黒焦げになったベンの上に降り立った。
「良い金稼ぎだったぜ。だが、もう契約者との契約も満了した。つまり、用済みだった」
根賀はそう言うと、懐から拳銃を取り出すと、必要以上にベンを撃った。何発もの銃声が会場に響いた。先ほどの歓声も聞こえず、辺り一面が沈黙に包まれていた。銃弾が底を尽きると根賀は、拳銃を投げ捨てた。そのときだった。女性の喘ぎ声が会場に響いた。
「あー、電流止めるの忘れてたわ」
根賀が元居た場所の奥から、鎖でつながれた全裸の女性が這ってやってきた。
「美和子!」
突然小錦が叫んだ。
「あー、そう言えばお前のオンナだったな。もう飽きたから返すわ。肉便器にしてきたから緩くなったかも知れねェ。悪いな」
根賀は無邪気に笑った。小錦は半魚人になった。それを嬰児は制止した。
「待ってくれ!まだ人質がいる!下手に動けば今までの行動がおじゃんだ!今は耐えてくれ……、頼む!」
小錦は静かに人型へ戻った。
「あれ、さっきの坊主じゃん。それに他組長さん方もお揃いで」
そのとき、大和は懐からドスを取り出し、唐澤は懐から俎板を取り出した。唐澤は口を開いた。
「東会長からのお達しだ。まだ疑いの範疇を超えないからお前たちの目を頼る。もしもあの馬鹿が本当に馬鹿だったなら、ケジメ着けさせてこい。だそうだ」
大和は腕を十字に構えた。するとそこから熱光線が放たれた。根賀は軽々避ける。
「“熱光線”大和に“鰭”唐澤、お前ら弱すぎるんだよ!」
根賀は懐からスタンガンを取り出した。スタンガンから電気を発生させると、電気は竜のような姿になり、二人を襲った。二人に直撃すると、黒い煙を口から出し、倒れ込んだ。
「久し振りに血が騒いだわ!そこの狐小僧、俺の相手になれよ!」
根賀は私の前に立って言い放った。
「分かった。先ずはあの二人の解放が条件だ」
私がそう言うと、根賀は赤黒の方を見て頷いた。
「ああ、アイツらか。アイツら面白くないんだよな。最初は弱い電流で快楽攻めするんだけどさ、アイツら意思が固いんだわ」
私が赤黒の方を見ると、下半身を少し痙攣させている様子が目に入った。私は思わず目を背けた。
「じゃあ……、司会、俺専用の闘技場にしろ」
根賀がそう言うとステージが変化していった。根賀がステージに降り立つと、私もステージに降り立った。