看板を背負った戦い
あれ、ここドコだ?
少し気を失っていたようだ。
ジンセンフはまだボーッとする頭で、周りの状況を見渡した。
瓦礫に囲まれていたが、幸い、瓦礫が折り重なったためにできたスキマにいた。しかし、痛みと疲れで体が動く気がしなかった。頭の中だけがぐるぐると回り、色々な考えが巡っていた。
『なんなんだよ、あの強さ!反則だろ!
周りの兵士と協力してみるか?
いや、あの一撃の破壊力じゃ、連携する間も無く1人ずつ殺されてしまう。
正直勝てる気がしない。かと言って、今ココにオレより強そうな人もいない。
街は諦めて、逃げるしかないのか、、、』
考えるのも疲れて、ため息をついた。体の力もほとんど入らず、首を横に向けた。
その時、瓦礫の間から、見覚えのある年季の入った看板が目に入った。『コンシラ』と書かれている。
そうか、あのオムレツが上手いパン屋の看板か。自分がぶつかった衝撃で、店はもう半壊してしまっている。
『オレのバゲットを褒めてくれたのは、兄ちゃんが初めてだよ!』
書いた記事を見せた後に言われた、店主の言葉を思い出す。
まだ数日だけど、いい人が多いよな、この街は。
それがたった数十分で勝手に壊されて、世の中理不尽だ。
このままだと、人も建物も、魔物たちに全部破壊されてしまう。
この街を見捨てる?
そんなのはイヤだ。絶対にイヤだ!
考えろ!諦めずに勝つ方法を探せ!
集中しろ、感覚を研ぎ澄ませ。
右腕の気流に、意識を向ける。
体の表面から、自分の気流がわずかに漏れ出ているのを感じる。
《停滞台風》
皮膚の内側にスピリットの膜を作って、漏れ出ていた体内の気流を逃がさないようにして、体に留める。
今度は左腕、右足、左足、腹、胸、腰、背中、頭
全身に膜を張ったら、普段よりも流れを加速することで、体内に台風を生み出す感覚。
すると、さっきまでの不安感が消えてなんでもできる気がしてきた。全身に力も漲ってきた。
大丈夫、速さは負けてない。あの重い一撃に対抗できれば、勝機はあるはずだ。
ジンセンフは風圧を高めた剣撃で瓦礫を吹き飛ばし、立つと同時に、剣を構えた。
突然大きな音がした方向に、骸の騎士が振り向いた。
ジンセンフの姿を見つけると、一直線に向かってくる。
先ほどと変わらない、威圧感のある禍々しいオーラを纏っている。
それでもジンセンフは、さっきまでのように気流を全開にはしなかった。
骸の騎士は容赦なく迫り、斬り付けてくる!
《瞬煌》
相手の剣とぶつかる瞬間にだけ、剣先に気流を流し込む。
キンッ
今回は、押し負けることなく、拮抗していた。
イケる!
すかさず、左袈裟から二撃目を放つ。骸の騎士の体勢を崩れたのを感じた。
勢いそのままに一回転して、渾身の一撃を放つ
確かな手応えがあった。最後の一撃が当たった騎士の左脇には、深々と剣筋が残っていた。
痛みに怒ったのか、骸の騎士は狂ったように剣を振り回しながら突進してくる。ジンセンフは重い連撃にも《瞬煌》を駆使して捌いていく。骸の騎士の疲れが少し見え、剣戟に一瞬、間ができた。ジンセンフはその瞬間を見逃さず、剣戟に合わせて一歩前に出ながら体重を乗せた一撃を放つ。華麗なステップで回転を織り交ぜながら、衝撃の瞬間には《瞬煌》によって強烈な連撃を浴びせ、今度は一気に畳み掛ける。
高速で強烈な剣戟に骸の騎士は耐えられず、ついには大剣を弾かれて落としてしまった。
すかさずジンセンフは、ガラ空きになった胴体に一撃を放つ。
バシュッ
音に一瞬遅れて、骸の騎士の上半身が、下半身からずれた。そのまま、上半身は斜めになった切り口から滑り落ちた。
形をとどめる力を失った2つの塊は、崩れて地面に散らばった。すでに禍々しいオーラも消え、そこにはただの骨の残骸が広がっているだけだった。
ジンセンフはその光景を見届けると、自身も力が抜けてしまった。膝から崩れ落ちて突っ伏してしまい、そのまま意識を失った。