リフレーンのお披露目会
記事を読み終わったリフレーンは、隣に座っている記者に声をかけた。
「ちゃんと店の宣伝になるような記事を書いててエラいわね。」
「そりゃ、あのオムレツをいろんな人に知ってもらえたら、オレも嬉しいからね。バゲット無くなっちゃったのは寂しいけどさ。」
「そんなこと言ってんのはアンタだけよ。言っとくけど、店長さん説得すんのメッチャ大変だったんだからね!先代の頃から通ってるおばあちゃんと協力して、何時間も奥さんとの思い出話しに付き合ってあげて。それでようやくメニュー変える覚悟を決めさせたんだから!アタシの幸せランチのために、店長さんの前では、バゲットまた食べたいなんて絶対に言わないでよね!」
「…わかったよ。」
「わかれば良し!説得に奔走したアタシを労うってことで、今夜のステーキはアンタの奢りね!」
「なんか納得できないけど、しょうがない、今日だけね。」
「やったー!!!」
リフレーンはこの店最高額のステーキを、ジンセンフはハンバーグを頼んだ。
「美味しかったー!このステーキ屋さん、節約のために毎晩ハンバーグで我慢してたんだけど、やっぱ肉といえばステーキよね♪」
「まぁどっちの店も美味いのはわかるけど、昼も夜もずっと同じ店通うってアンタのこだわりも相当だな。そういえばさ、この店に呼んだ本題の話ってなに?」
「あっ、ステーキ美味しくて忘れてた! キミはずっと1人で旅してるんだってね。」
「まあね、今回みたいに美味しいお店を見つけて記事にするのが目的の1つかな。」
「それにあのお店で使った技、キミ、《風》の使い手なんでしょ?」
「まあね。よくわかったね?」
「アタシもそれなりに経験してるからね。それでねジンセンフくん、アタシと一緒に旅しない?」
「急だな!そりゃ誰かと旅した方が楽しいとは思うけどさ。でも、ただの女の子を連れて行けるほど、オレも安全な旅をしてるわけじゃないんだぜ?魔物と戦うことだってあるしさ。」
「じゃあ、『ただの女の子じゃない』ことを見せればいいのよね?」
「まぁ、そりゃ冒険で役に立つならオレとしても助かるけど。え、戦えんの?」
「それを証明するために、アタシが泊まってる宿まで来てくれない?」
「なに、なんか見せてくれんの?」
「それは着いてからのお楽しみってことで。」
宿に到着して部屋に入ると、リフレーンは持っていた大きなケースからバイオリンを取り出した。
「おっ、食後に優雅な演奏聴かせてくれんの?」
「違うわよ、しばらく黙って見てて。」
ジンセンフの呑気な会話をあしらいつつ、リフレーンは真剣な表情を崩さない。バイオリンのネック部分を持ち、本体を上にした状態で静止した。
《メタモルフォーシス》
リフレーンがそう呟くと、バイオリンが一瞬で細長い物になってしまった。
ジンセンフは驚いてリアクションしかけたが、さっきの注意を守って、黙って見守っている。
よく見ると、杖のようだった。長さはリフレーンの足先から肩の辺りまであった。先端はバイオリン本体の形を模したような、2重の螺旋階段型のデザインになっている。その螺旋状の中心には鈍く光っている黄色のオブジェも付いていた。
ジンセンフが驚き終わった様子を見て、リフレーンは杖を部屋の開けた空間に向けた。
《仔犬のワルツ》
今度はそう呟くと、目の前に大きさの違う3種類の犬が、現れた。
華麗なステップで飛び跳ねたり、一番小さな仔犬はその場でクルクルと回ったりしている。
流石に我慢しきれず、ジンセンフが口を割る。
「え、この犬達、魔法で出したの?」
「そうよ。今見てたでしょ?」
「しかも普通の犬よりかなり速く動いてるよね?スゲー‼︎」
「見た目は可愛いけど、魔法で作り出した召喚獣ってとこかしらね。」
リフレーンは少し自慢げにしながらも、冷静にそう返した。仔犬たちに「もういいわよ」と声をかけて、3匹ともおとなしくさせた。
「ほんとスゲエ! 召喚獣なんて初めて見たよ!天才だな!」
「まぁね」
「どんな時に使う魔法なの?」
「そうねー、例えば魔物に襲われた時、この仔達が鳴き声や動きで注意を惹きつけてくれるわ」
「なるほどね、そうやってスキ作ってさぁ、それで後ろからガブっと咬んだりひっ掻いたりする感じ?」
「できなくはないけど、この仔達の力は普通のワンちゃんと同じくらいしかないから、魔物相手じゃ効果は薄いわね。」
「じゃあ、どうやって攻撃すんの?その間に炎魔法とかぶつける戦法とか?」
「皆がイメージするような、そういう派手な属性魔法はアタシは持ってないわ。まぁそれはアレよ、まぁイイカンジで!」
「『イイカンジ』ってなんだよ?攻撃魔法も教えてくれよ!」
「別に何でもいいでしょ。なんでアンタに教えなきゃいけないの!?」
「これから一緒に旅をするからには連携とか必要じゃん。
ああ、他人に説明できないとかそういう制約がある魔法なの?」
「そんな制約は、アタシの持ってる魔法にはないわよ。」
「じゃあ別にいいじゃん、もったいつけずにさ!
あっ、わかった‼︎ 秘密にしといて、いざって時に披露してカッコつけようって企んでいるんだろ?」
「違うわよ!アンタみたいな単細胞と一緒にしないで!」
「だってそう言うんだったら、なんで教えてくれないの?余計に意味わかんないんだけど。」
「...できないのよ」
「え?どういうこと?」
「あー!もうわかった!私は攻撃できないの!10年以上も修行してたくさんの魔法を覚えたけど、全部戦闘のサポート能力しか身に付かなかったの!これでも、この仔達が1番戦闘向きな魔法なのよ!アタシにはどうしても世界中を旅をしてやらなきゃいけないことがあるの!でも、アタシ1人じゃ魔物と会っても逃げることしかできないし!それで仕方なく、街でたまたま見つけた、戦闘だけはできそうなアンタと組もうって考えたの!空気読みなさいよ鈍感男!」
リフレーンは一気にまくし立てると、少し疲れたのかベッドに座り込んでしまった。ジンセンフは突然キレられたことに驚きつつ、今言われたことを頭の中で少しずつ理解していった。
しばらく2人の間に沈黙が流れた。
と言っても実際には1分くらいだったが、2人の体感では相当長かった。
さっきまで尻尾を振っていた犬たちも、今はオスワリの状態で微動だにしなかった。
ようやくジンセンフが口を開いた。
「調子に乗ってグイグイ聞きすぎてゴメン。」
「アタシも痛いとこ突かれて、急に怒っちゃってごめんなさい。」
「よし!お互い謝ったしチャラってことでいいかな?こんなデリカシーないとこもあるオレで良ければ、一緒に冒険しない?」
「え?いいの?結局攻撃魔法は使えないんだけど。」
「でも、さっきのワンコ達の撹乱は色々使えそうだしな。オレと違って、リフレーンは頭も回るみたいだから戦術とか色々考えてくれそうだし。それに事情はよく分かんないけど、どうしても旅に出なきゃいけないのは伝わったし、そういう人となら上手くやってけそうかなって思って。」
「そんなあっさり決めていいの?」
「ごちゃごちゃ悩むのキライなんだよね。大事なことほど、オレはオレの直感を信じるようにしてるんだ。」
「そっか、ありがとう。これからよろしくね。」
「こちらこそよろしくな!」
「あーなんか安心したらお腹すいちゃった!」
「確かに、今日の夕食の時間、ちょっと早かったしな。」
「そうだ、気になってたラーメン屋があるんだけど、2人のパーティ結成記念として今から行かない?今度はアタシの奢りで」
「ごちになりまーす!」