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四魂《Tetra Spirit》  作者: yuzoku
第1章 Intersection
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Bilateral Night (Ⅳ) 〜月光に映るヨルガオ〜

「骨は折れているけど、命に別状は無さそうね。」

「そうなんだ、よかった。」

「私は彼女を見てくるから、彼にこの薬を口に含ませてもらえる?」

「わかった。」

会話のなくなった広場では、移動するブーツの足音だけが響く。


意識の無い仲間の応急手当てを済ませ、少しでも温めるために近くにあった布をそれぞれの体に被せた時だった。


「すごい!全部魔物を倒しちゃったんだね!」


突然頭上から声がして、ジンセンフとクラリファが空を見上げる。


夜空は、満月が浮かんでいる以外は真っ暗だった。ただ、その黄色い円の中央だけは、周りの月明かりに照らされて女性のような人影が黒く浮かんでいた。


『彼女』は、つばの大きなとんがり帽子をかぶって、黒いローブを纏っていた。


細長い棒の片面から両足を出し、椅子のようにして座っている。


よく見ると棒の右端は楕円状に膨らんでいて、どうやら箒のようだ。




御伽話に出てくる、魔女そのものの格好だった。


そんなに大声に聞こえないのに、あんな高所からはっきりと声が聞こえたのは、なにかの魔法を使ったのだろう。



魔女はゆっくりと、箒と一緒に高度を下げてきた。


銀髪の長い髪は、夜風に揺られてふわふわとなびいている。

真紅の大きな瞳と整った鷲鼻で、遠目からでも美人だとわかる。口元には軽く笑みを浮かべている。


魔女が段々と近づいてきて、最初に声をかけたのはジンセンフだった。

「もしかして、花屋のダチュラ?」

「あら、覚えててくれて嬉しいわ。そう、花屋の看板娘、ダチュラ・イエローよ。」


ダチュラは足が着くぐらいの高さまで降りてきたが、そのまま箒に乗ったままだ。

「まだ魔物がいたかと思って焦ったよ。」

「ここにいた大きな狼男も、アナタ達2人が倒したの?」

「ううん、4人。仲間のリフレーンとクロハンは、戦闘中に気絶しちゃったからあっちで寝かせてる。」

「スゴいスゴい!きっとジンくんがトドメを刺したんだよね?」

「一応ね。でもみんなで協力できたおかげだよ。」

「ジンくんて強いのに謙虚なのね!」


この状況に似つかわしくないほど、花屋で働いていた時と同じ明るい声を出すダチュラ。

知り合いの女性だとわかり、ホッとして雑談を続けるジンセンフ。

手持ちのカバンに手を入れたまま、黙って2人の会話を聞いているクラリファ。


「すげぇ高く飛んでたね!ダチュラもスピリット使いだったんだ?」

「残念、あたしはスピリット使いじゃないの。」

「じゃあ、その箒を知り合いのマテリアリストが作ったとか?」

「ううん、そういうことじゃないの。あたしが使ってるのは《スピリット》じゃなくて、《イービル》。」

《セイント・メタル》!


突然、クラリファが詠唱し、金属の粒のようなものが嵐のようににダチュラに向かって飛んできた。しかし、彼女の前に緑色の半透明の壁が現れ、弾かれた。

「どうしたんだよクラリファ!今の《スピリット》って魔物用の攻撃じゃないのか?」

「そうよ、魔物によく刺さる、聖なる金属のトゲよ。」


「ヒドイじゃない。私は魔物じゃないわよ。」

「そうだよ、ダチュラの事情も聞かずにムチャクチャだぜ?箒のバリアが発動したからいいけどさ。」

「ジンセンフくん、私達人間は《スピリット》を使うけど、《イービル》は『魔物』が使うエネルギー源の事よ。」

「えっ?」

ここでようやくジンセンフも、今の危うい状況に気づく。戦闘態勢に構え、『彼女』と相対した。


クラリファは今にも始末したかったが、先ほど自身の最大攻撃を防がれたばかりだ。不本意だが、ひとまず考える時間を稼ぐために会話を続けることにした。


「自分から正体をバラすなんて、ずいぶん舐められたわね。」

「『ウソ』をつくのは苦手なの。」

「でも、昼間の『演技』は上手だったわね。」

「ありがと〜!」

「年頃の子にしては、働いて日も浅いのに商売熱心に愛想を振り向くとは思ってたわ。」

「男って結局、愛嬌のある美人が好きなのよね〜。オジサン達が花屋で色々話ししてくれて、この街のことをよく知れたわ。」

「リフレーンちゃんで目が慣れてるはずのジンセンフくんまで虜にしてたしね。男を誘惑する魔法でも使ったの?」

「残念ハズレー!アタシの手札は、この完璧な容姿と軽快なトーク術だけよ。」

「アラ、それは失礼。もしかして、『ダチュラ・イエロー』も、『花屋の店員に仮装してたから』つけた偽名かしら?」

「ご名答!気づいてくれて嬉しいわ。アナタのおかげで一生懸命考えたのが報われたわ。」

「それはどうも。」

「クラリファ、どういうことだ?」

1人会話についていけないジンセンフが、耐えきれずに口をはさんだ。


「ただの言葉遊びよ。『黄色いダチュラ』の花言葉は『偽りの魅力』。」

「アタシってば意外と『正直モノ』でしょ?」

「ずいぶん、人間をバカにしてくれる擬態モンスターじゃない。」

「違うよ!アタシの正体はそんなんじゃないわ。」

「じゃあゴースト系の魔物が、人間の女の子を乗っ取ってるのかしら?」

「あんな低級な連中と一緒にしないで。」

「じゃあ、あなたが人間に化けたトリックを教えてくれる?お嬢さん?」

「言っておくけど、この『見た目』は自前よ。体の構造は、アナタ達ニンゲンとはゼンゼン違うけどね。

 あとね、多分アタシの方が『お姉さん』よ。」

ダチュラの姿をした魔女は、不敵に笑った。



「私の正体は『魔物』じゃなくて、『魔神』。」

今度はジンセンフが大きく刀を振りかぶって、風の斬撃を繰り出した。だがクラリファの時と同じように、緑のバリアに弾かれる。

それを感じつつも、ジンセンフは斬撃を繰り出し続けた。




10発ほど打つと、息切れしてしまった。ジンセンフは刀を下ろして大きく肩を揺らしているのに対し、バリアを解いた後も魔女は涼しげだった。


「もう!ミンナ乱暴ね。でも、若いジンくんも、『魔神』て言葉は知ってるのね。」

「ああ。知り合いのムラを滅ぼされたからな。」

「なるほど、だったら残念だったわね。あなたたちが今夜ぐっすり眠っててくれれば、明日の朝には、思い出の村と同じ光景を見せてあげられたのに。」

「…まさか、今回の魔物は全部オマエが召喚したのか?」

「ご名答!」

魔女はうれしそうに大きく手を叩いて笑った。

それに反比例して、ジンセンフとクラリファの眉間の皺が深くなる。


「2人ともそんな怖い顔しないでよー。安心して、私はねサポート専門なの。だから攻撃魔法を持ってないから1人じゃ何もできないわ。今はね。どう、今夜のショーは楽しめた?」

「「...」」

「なによー、遊んだ感想くらい教えてくれてもいいじゃん!あのオオカミ君は、手に入れるのけっこう大変だったんだからね!

 まぁいいわ。夜も遅いし、そろそろおしゃべりもオシマイにしましょう。じゃあね、博識なマテリアリストさんとウブな気流士クン。」


魔女はそう言いながら、今度は高度を上げて、上空に飛び立っていく。ジンセンフとクラリファは緑のバリアに弾かれることは承知しつつも、先程と同じ攻撃をぶつけるしかなかった。

 

2人の攻撃が届かない高さまで到達すると、再び魔女が話し出した。登場した時と同じように、この距離でもはっきりと声が聞こえる。

「ここでお知らせです!

 今日はこの街のカーニバルに合わせてパーティーを開催してみたけど、実は私たちの地元でも10月31日に開催する予定なの。今度はもっとたくさんのお友達を呼ぶ予定だから、アナタ達もゼヒいらしてね〜。

 そこでアタシの本当の名前も教えてアゲル!」


魔女はニコニコしながら地上に向かって手を振った後、何か白い紙のようなものを取り出し、手を離した。


白い紙がヒラヒラと地上に降りてくる中、落とし主は水平に飛び去っていった。

Datura:《植物》ナス科チョウセンアサガオ属(Datura)の数種類の一年草または多年草の総称。ラッパ状の大きな花を咲かせる。

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