Bilateral Night (Ⅱ) 〜月並みな相手〜
リフレーンは引っ張られる力に身を任せて細い路地を駆け抜けながら、夕食後のクラリファとの会話を思い出していた。
「なんで急に魔物が現れるの?こんな大きい街だから当然、《クリスタル》はあるだろうし。」
「少し前までこの街にもあったのよ。四つの塔に、それぞれ魔除けの《クリスタル》がね。」
「『少し前』まで?」
「そう。それを悪意のある誰かが破壊した。しかもそれを悟られないよう、仮の《クリスタル》にすり替えてあってね。私も修復くらいならできるけど、さすがにイチから作るのは専門外よ。」
「《クリスタル》は、その道何十年の修行を積んだマテリアリストの職人しか作れないって言うもんね。」
「しかも街のいたるところに召喚の紋章が刻まれていた。でも上書きはできないから、対策として通路に白壁を出現できるように、結晶の核を街中に張り巡らしていたの。」
「なるほど、謎の行動をする美人のウワサはそういうこと。」
引っ張られている右手の力がなくなったことで、記憶の華やかな内装のレストランから、現実の暗い路地に意識が戻る。
遠くに見える、曲がり角の前で蠢く無数の影。
そこからワレ先に飛び出てきたのは、黒いフードをかぶった魔物。
さっきのカボチャよりも大きな鎌を持ち、フードの下からは、白い頭蓋骨が見えていた。
大鎌で先導されるように、その後ろからは包帯をぐるぐる巻きにしたゾンビ軍団がノソノソと歩いてくる。
「サイアク!またコワイ見た目の魔物だし!こんな夜中にやめて欲しいんだけど!」
「どっかのイタズラな誰かさんは、ホント空気読んだ魔物を召喚してくれるよな!」
「さっさと倒してね!」
「おうよ!」
《仔犬のワルツ》
リフレーンが出した3匹の犬が、魔物に向かっていたジンセンフを追い越し、細い路地の壁を使って飛び回ることで魔物の注意を引く。スキを見せた魔物を、ジンセンフが確実に切り裂いていく。
息のあった連携プレーは段々と磨きがかかる。3度目に魔物と遭遇する頃には、ほとんど立ち止まることすらなく魔物を狩って、通路を制覇していく。
だが一向に、街から魔物の気配が消え去ることはない。
何度目かの角を曲がったところで、人影に出会った。
「人よ!止まって!」
どうやら魔物では無く人間の気配に感じたので、慌ててリフレーンが叫ぶ。ジンセンフも同感だったので風を抑えて止まった。
男は灰色のセーターに黒いズボンを履いている。髪は灰色だが、ジンセンフの銀髪のような光沢は全くない。背が高くて、体つきも良いのだが、なんだか歩き方がフラフラしている。
「大丈夫ですか?」
「いいえ、お気になさらず。今は暗いから少し力が出ないだけです。」
「そうですか。今は魔物が出ているので早く家に帰ってください。」
「わかってるよ。」
彼を1人にする不安もあったが、自分達が通ってきた道なら既に魔物を全部倒したはずだ。体調面でも本人が大丈夫だと言うので割り切り、先を急ぎたいのもあってそのまますれ違うことにした。
すぐに2人は気持ちを切り替えて、悲鳴や魔物の唸り声がするほうへ駆け出す。