第8章 リディルの日記
この章は会話を重点に置いているため、「 」の部分であっても一文ごとに分けてあります。
「こんにちは、私はリディルです。」
「今年の冬で七歳になる女の子です。」
「日記なんて書くのは久しぶりだけど、とにかく頑張って書いてます。」
「私には両親がいません。」
「お父さんもお母さんも、お家から出て行ってしまったの。」
「私は一人ぼっちで、すごくさみしくなりました。」
「でもあるとき一人の男の人が、私を家まで連れていってくれたの。」
「名前はアンドリュー。」
「初めて会ったときはおじさんって呼んでいたけど、今はお父さんって呼んでいます。」
「私の新しいお父さんよ。」
「私とおじさんは親子になったの。」
「なんだかとても不思議な気分です。」
「でも、今度はお父さんじゃなくて、お父様と呼ぶことになるの。」
「なぜかって?」
「私にも分からないの。」
「お父さんが、新しいお家ができたらそう呼びなさいって言ってたの。」
「この呼び方、言いづらくて舌を噛んでしまいそう…」
「でも我慢するわ。」
「お父さんは私を愛してくれるもの。」
「私もお父さんが大好き!」
「そうそう、私が変な男の人にさらわれたとき、お父さんに助けてほしいってずっと願ってたの。」
「そうしたら、本当にお父さんが来てくれたの。」
「すごいでしょう?」
「私のお父さんは離れていても、私の考えていることが分かっちゃうの。」
「どうしてだろう?」
「いけない、ほかにもお父さんのお友達がいるのを忘れていたわ。」
「一人はオスカーおじさん。」
「お父さんの昔からのお友達で、私にも優しくしてくれるわ。」
「体はすごく大きくて、軍人さんだったの。」
「あと怖い顔をしたお友達が二人いるの。」
「まずヴィクトルおじさん。」
「男の人なのに、女の子みたいに髪が長いの。」
「変な人だけど、オスカーさんが私たちの仲間だって言っていたわ。」
「あとの一人はエミールさん。」
「ヴィクトルさんといつも一緒にいて、まるで兄弟みたい。」
「それでね、お父さんが助けに来てくれた次の日に、乗っていた馬を隠したの。」
「街の外れにある丘の洞穴の中よ。」
「あんな場所があるなんて驚いたわ。」
「それから私が閉じ込められていた部屋にあった宝石やお金は、みんなで持ち帰って馬と一緒に隠したの。」
「でもヴィクトルさんとエミールさんがお金を持ち出そうとしたら、お父さんと喧嘩になってしまったわ。」
「今は仲直りして、ヴィクトルさんとエミールさんが、お父さんにツカエているのよ。」
「どういう意味かしら?」
「あともう一つ、お父さんがね、私に服を買ってくれたの。」
「白いかわいい服に、青いリボンと靴、それに黒くて変な服よ。」
「お父さんが必要になるからって言うの。」
「でもうれしい!」
「ありがとうお父さん、大切にするわ。」
「なんだか手が疲れてきちゃった。」
「明日は早起きしなくちゃ。」
「お父さんが私を教会に連れていってくれるの。」
「私、教会って初めてでドキドキするわ。」
「それじゃあ、おやすみなさい…」
リディルは日記を書き終えると、大きく伸びをしてベッドへと入っていった。