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第23章 社交界で見たもの

 シャンドレーの騎士団~知と血の断罪~をお読みの皆様、こんにちは。本作品はこのたび4000アクセスを突破いたしました。たくさんのアクセスありがとうございます。また、誠に申し訳ございませんが、近々こちらの作品は最終話を迎える予定です。その際には、後書きに最終話との予告をさせていただきます。

 「なんだって? 確かか?」


 「はい。 間違いありません。 ジェルマン・フロンベールは社交界によく来るそうです。」


 まさか戻ってきたとは意外だったが、これはチャンスだ。


 今まで苦しめられた借りを奴に返してやるのだと彼は考えた。


 「どうか、ご慎重に。 あなたは二人の子の父です。」


 「ああ、分かってる。 死ぬようなことはしないさ。」


 その通り彼には二人の娘がいて、復讐のためとはいえ、身を危険にさらすことには変わりはない。


 以前のように、彼の命は一人のものではないのだ。


 だからと言って復讐を諦めることはできない。


 「忘れるなよ。 俺たちは騎士だ。 自分だけ平和になって、あとはほおっておくなんでできないってことさ。 止めても無駄だぞ?」


 「ええ、止める気などありません。 私はそんなあなたに惹かれてここまでついてきたのですから。」


 ヴィクトルはそう言って一礼すると部屋から出て行った。


 「ジェルマン…」


 彼が出て行った後、、アンドリューは憎しみを精一杯増殖させるようにこぶしに力を入れた。


 「いつか、必ず…」






 その翌日の夜、彼らはリディルとシャルロットを連れて社交界に来ていた。


 危険ではないのかと思いもしたが、その日は偶然にも、仮面をつけての出席となっていただけに、彼は思い切って娘二人を連れてきたのだ。


 「お父様。 ここは一体何をするところなの?」


 リディルはきらびやかに着飾った人々を見て半ば興奮気味だった。


 「ここは大人の世界だよリディル。 だから走ってはいけないよ。 大人たちが楽しいお話をして、お友達になれる人をさがすのさ。 リディルにも新しいお友達ができるといいな。」


 「私にはシャルがいるわ。 ねえシャル?」


 「え、ええ。」


 どこかぎこちない口調のシャルロット。


 周りの大人たちの視線が自分に注がれているのを見て、もじもじとしている。


 どうやら大きい声で話すリディルと一緒にいることが恥ずかしいようだ。


 「シャルロットは意外に世話を焼くのが好きなんだな? いいことだ。 それとリディル。 ここにいるときは少し小さな声で話をしないと。 できるかい?」


 「はい。 お父様。」


 リディルはそんなんじゃないもんと照れ隠しをするシャルロットを尻目に笑顔で言った。


 しかし彼は立ちあがって前を向いたとき、見知った顔がすぐそばを横切っていったのをちょうど目にした。


 その人物は彼に見向きもせずに別の貴族の女性のところに行き、あいさつする。


 ジェルマンだ。


 彼は仮面をしていたから、ジェルマンはその存在に気付かなかった。


 「今ならやれる。」


 心の中の彼が突然に語りかけてきた。


 「どうしたんだアンドリュー。 今なら仮面をかぶっているし、誰にもお前が犯人だとは分からないんだぞ?」


 彼はいつ襲われてもいいように、護身用の小さなナイフを貴族になってから常に忍ばせていた。


 「これで奴を後ろから?」


 「そうだ。 そのあと子供を連れて何事もなかったかのように立ち去る。」


 「いいや、だめだ。 たしかにジェルマンに復讐をしようと俺はここまでやってきた。 でも子供の前だ。」


 連れてこなければよかったものを、どうして彼は子供といるのだろう?


 その答えは彼にも分からなかったが、その時…


 「うっ、うおおおおおーっ!」


 なんとジェルマンがタキシードから血を流し、倒れた。


 「あああああーっ!」


 女性たちの悲鳴とともに会場は大パニックに陥る。


 ダレダ?


 殺したのは誰だ?


 だが混乱して逃げまどう人々でいっぱいの会場の中を、一人の人間を特定して見つけ出すことなどできはしない。


 犯人はどこにもいない、いや、どこに溶け込んでいるのか分からない。


 彼に直接刺したのであれば、目撃者がいてもおかしくないのだが、誰ひとりとして、あいつが、こいつが、とは言わない。


 「犯人は誰なんだ? どこかにいるぞ?」


 社交界にたまたま来ていたフランソワがかろうじて混乱を治めようとするが、諸悪の根源が見つからない限り、人々はあちこちに動きまわる。


 「落ちついて、皆さん落ちついて、私は警察長官です。」


 警察という言葉を使ったのは、彼にとって三文の徳であった。


 その単語を聞くだけで、人々は救世主でも現れたときのように安心し、落ちついていく。


 また、私が警官だという人々が味方のような言い回しをすれば、大衆は身分の枠に関係なく、ああ、こいつはとりあえず味方だから安心だ、だから犯人ではないと思わせることができる。


 疑う者も出てくるかもしれない。


 しかし自分が次に殺されるかもしれないという状況の中では、落ち着きを取り戻してはいても、心まで完全に冷静になりきれていない人々をあざむくことなどたやすいことだ。


 フランソワがそんなことをするとは思えない。


 悪を何よりも嫌う人物という肩書きがあるからだ。


 人を落ちつかせるために、勝手に犯人を仕立て上げるタイプであるかどうかは分からないが…


 「この中に犯人がいます。 お手数ですが、皆さん所持品のほうを…」


 だがフランソワが一人の青年貴族を調べた時、彼の腕が止まった。


 「なんだこれは?」


 「違うんだ。 これは…」


 青年のポケットからは小さなナイフが出てきた。


 それに血のついたハンカチ。


 「これは転んだ時彼女から貸してもらったんだ。 ナイフは護身用だよ。」


 「そんな話を誰が信じると言ったんだ? 犯人はお前だ。」とフランソワ。


 「そうだ! この人殺し!」


 「やめて! こないで!」


 逃げて遠ざかる人々に、彼は必死に弁明する。


 「僕じゃない! 本当の事だ! 僕はやってないし、この人がどんな人かも知らない。」


 「嘘をつくな! 凶器はナイフだ。 それをハンカチでふいたんだろう?」


 人々の黒い魂が見える。


 一刻も早く、彼にいなくなってほしい。


 消えてほしい。


 でないと安心できない。


 「ぼくじゃ、僕じゃないのに…」


 ついに少年の額にフランソワの銃が突き付けられる。


 「皆さん、もう安心です。 これが犯人です。 ですから、どうぞ引き続き、楽しんで。」


 人々は、ああよかったと口々に話し、青年を白い目で見る。


 そして口々に、あの鼻たれ坊主とか、鬼だとか、神に呪われろとひそひそと彼に向けて言い放つ。


 「お父様、怖い…」


 シャルロットが震えている。


 いけない、早くここから立ち去らなくては、この子たちに悪い刺激となってしまう。


 「さあ、もう行くよ。」


 「まだ遊びたい。」


 「何言ってるんだリディル。 行くよ。」


 アンドリューは一礼する入口の両端にいた兵士に見送られ、早々と馬車に乗った。






 「人殺し! おい、人殺し! 早く出てけ! でないとパパに言いつけるぞ!」


 青年の周りを、どこかの貴族の男子がぐるぐると走りまわっている。


 それに気づいた父親がやってきて、子供を大事そうに抱えた。


 「これ、ジャン! そいつに近づくな! お前が殺されてしまう。」


 そして父親は青年にたっぷりと憎しみをこめた声で言う。


 「大変だな君は。 この若さで刑務所入りなんて。 だが、出所しても我々は忘れないぞ。 神はお前ではなく、我々の味方をなさるのだ。」


 子供の前でなかったら、この父親はもっとひどいことを言ったろう。


 眉にしわを寄せて、彼のほうを二度も三度も振り返りながら去って行った。


 「よし、歩くんだ。」


 彼はフランソワに言われて、一歩一歩足を踏みしめる。


 その間も人々は彼が通り過ぎるのを待っているかのように、視線を痛々しいほど注いでくる。


 それに笑い声もしばしば聞こえる。


 こいつらは、ただ犯人がほしかっただけだ。


 身勝手な連中め!


 彼の怒りはわきあがり、やがて爆発した。


 思い知れ!


 「うっ!」


 パンというフランソワの銃声が響く。


 撃ったのは青年だ。


 彼の銃を取り上げ、自分の脳みそをぶち抜いた。


 その音を、馬車の中でアンドリューは聞いていた。


 そして震えるこぶしを抑え、御者に出してくれと悲しみに満ちた声で言った。


 「ジェルマンは死んだ。 なのにどうしてこんなに悲しい気分なんだろう…」




 



 

 次回の更新は11月11日の予定です。

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