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冒険者

作者: 千葉 都

新作です。短編です。

 ここは冒険者ギルド。で、俺はこのギルドに籍を置く冒険者だ。冒険者ギルドって言うのはその名の通り、俺たち冒険者の組合だ。

 冒険者なんて言うのはその日暮らしの根無し草だ、底辺の連中は稼ぎも少なく、住む処もない。スラムの連中とあまり変わりのない生活をしている。奴らとの違いは心意気さ。冒険者は腕っぷしの強さを糧にのし上がっていい生活をしてやるんだという、そんな望みを持って日々を過ごしている。まぁ俺もその底辺の冒険者の1人なんだが。

 そんな冒険者連中に仕事を斡旋しているのが冒険者ギルドって訳さ。


 この世界には無数のダンジョンがある。ダンジョンは毎日のようにどこかで生まれ、冒険者たちによって攻略され、そして崩壊、消えていく。そのダンジョンにはお宝が眠っている。鉄や銅、金や銀が採れることもある。水晶やダイヤ、ルビーなどの宝石が採れることも。

 その一方でダンジョンには恐ろしい魔物が数多く棲みついている。恐ろしく危険な奴らが。奴らは外から入ってくるわけじゃない。ダンジョンの中で生まれてくるのだ。ダンジョンが攻略されるまで、無制限に。更に奴らの好物が人間の肉ときていやがる。全く持って迷惑な話だ。

 とは言うものの、魔物はダンジョンから出てこようとはしない。ダンジョンの外、つまり町で暮らす分には何の問題もないのだ。ダンジョンの恩恵を受けない生活に耐えられるのであればの話だが。

 ダンジョンは暗い洞穴だ。だけど広い。足元だって岩がゴロゴロしているわけじゃないし、しっかりした壁もある。いくつかの階層に分かれているものが多く、下の階層に行くほど魔物も強くなる。そして最下層にはダンジョンの主ともいえる魔物がいる。そしてその主はダンジョンの核となる宝石を守っていると言われる。その宝石を壊すことでダンジョンが攻略されるのだ。

 その宝石はダンジョンの魔物を生み出し続ける。壊すまでずっと。更にこの宝石をダンジョンから持ち出すこともできない。持ち出そうとした者がいたらしいが、ダンジョンから出る直前で宝石は消えてなくなったそうだ。そして主を失ったダンジョンではあったが、多くの魔物を生み出し続け、主まで復活していたそうだ。更なる力を得て。


 俺は冒険者ギルドに属しているが、他にも採掘者ギルド、鍛冶師ギルド、職人ギルド、商人ギルドなどいろいろなギルドがある。それぞれの専門家の集まりだな。冒険者ギルドの仕事の大部分が採掘者ギルドからの依頼だ。

 俺たちがダンジョンを攻略して、安全になったダンジョンで採掘を行う。そこで得られた鉱石を鍛冶師が加工して生活に必要なものを作り、店で売られる。だが鍛冶師が作るものには鉱石が必要となるのだが、その鉱石はダンジョンでしか採れない。つまり、ダンジョンの攻略をする俺たちがいなければ、今の生活は守れないということだ。

 だが、所詮俺たちの仕事は下請けだ。俺たちが鉱石を持ち帰ったって、採掘者ギルドは買い取っちゃくれないし、鍛冶師ギルドだって買っちゃくれない。そういう決まりだからな。だから俺たちはただ只管にダンジョンを攻略するだけさ。

 しかもこのダンジョン、攻略すると20日ぐらいで崩壊が始まり、その後10日もすれば完全に潰れちまう。だから無暗矢鱈と攻略する訳にはいかないんだ。鍛冶師ギルドから依頼のあったダンジョンを順番に潰していくだけの仕事なんだ。


 冒険者には3つのタイプがある。1つはチームを纏めるのに長けた奴。ダンジョンに棲みつく魔物はどれも恐ろしい。一人で戦おうもんなら、命がいくつあったって足りやしない。だからチームを組んで戦うんだが、俺たち冒険者はもともと一匹狼みたいなもんだ。我が強く、協調性など持っちゃいない。そんな奴らが纏まったって碌なことにならないことぐらい、誰が見たってわかる。だけどいるんだよな、そんな奴らを上手く纏める奴が。機嫌を損ねないように上手く乗せて、そして成果を出す。俺たちもそういった奴のおかげで命を落とさずに済むんだがな。だけどたまにいるんだよ、そういう役回りをしたがる奴が。そういう奴に限って我が儘で、自分の思い通りにならないと周りに当たり散らす。そういう奴が仕切るチームだと成果も上がらずに、怪我人や死ぬ奴だって出る。バカは出しゃばるなって事だ。

 2つ目のタイプはとにかく戦闘に特化した奴らだ。剣捌きや槍の扱いに長け、無駄のない動きで魔物を倒していく。弓を巧みに操り、遠くから魔物を倒していく。剣や槍では倒しにくい、空中から襲い掛かる魔物も次々と落としていく。鉄壁の盾で魔物を防ぎ、俺たち冒険者を守る。強敵と邂逅した時は彼らの活躍があるからこそ、ダンジョンの攻略が進む。

 3つ目のタイプは俺たちみたいなその他大勢だ。腕っぷしに自信があるって言ったって、所詮は井の中の蛙さ。俺はギルドに入って分かったよ。ここのトップで命張ってる奴らは化け物だってことがね。だから俺はその高みを目指すんだ。

 冒険者にランク?そんなのはねぇよ。自信が付けば前に出て気が付いたことがあれば指示を出す。自然と役割なんて決まるものさ。


 俺たちの暮らしはまさにその日暮らしだ。冒険から戻ってギルドから報酬を受け取る。報酬たって命を張ってやる割には安いものだ。いつ死ぬかわからない俺たちが将来のために金をためるなんてすると思うか?大概は飲んで食って、そんなもんさ。女の所に行く奴もいる。止める奴なんていないさ、悪いことする訳じゃねぇんだから。

 得物はギルドで貸してくれる。少し金はかかるがな。大したブツじゃないが、俺たちみたいな底辺の奴らにとっちゃ大助かりだ。俺もそのうち自分だけの得物を持ちたいと思ってはいるが、いいやつは目ん玉飛び出すぐらい高いからな。今の稼ぎじゃ無理だな。もう少し力を付けて魔物を倒せるようにならないとな。


 俺たちは怪我や死と常に背中合わせだ。気を抜いていなくたって魔物と戦えば小さな怪我が溜まっていくし、下手すりゃ大怪我、そして死だ。死んじまったら先はないが、大怪我の場合は大体冒険者引退だな。引退なんてかっこよく言ってるけど、底辺層の俺たちはスラム行きか盗賊落ちが決まるって事さ。ま、安い命だからな。

 だけどギルドとしてもそう簡単に冒険者にはなれられてもらっては困る。ダンジョンの攻略が滞ればそれだけ運営にも響くってもんだからな。だからギルドは俺たちに30日に一度ポーションをよこす。

 ポーションって言うのはよくできた傷薬で、飲めば大概の怪我は治る。骨折は無理だけどな。だがこのポーション、買うとなると偉く高い。しかも効き目があるのは作ってから60日。買い溜めもできないし、貰ったポーションを売るのもダメだ。

 安い傷薬もあるが、治るまでに時間がかかるんで冒険中に使えるもんじゃない。冒険から戻って、傷薬を塗って休んで治す。そんな感じだ。


 魔法?スキル?ステータス?レベル?何それ。そんなの無いよ。強くなるのは戦闘を繰り返して経験を積むから。得物を使いこなせるようになるのはとにかく慣れ。そんな超常現象やわけわかんないのに頼るぐらいなら、とにかく訓練だ。訓練によって体に覚え込ませたものは裏切らないからな。


 今日も俺は冒険に繰り出す。酒を飲むのにも金はかかるし、女を抱くにも金はかかる。ギルドで槍を借りて、今日の仕事場へ向かう。

 俺は慎重にダンジョンの中に入って行く。暗いダンジョンの中で松明の炎がユラユラと揺れている。奥の方に何かの気配を感じる。仲間なのか魔物なのか分からない。

 俺たちの目的はこのダンジョンの攻略だ。つまりは主の魔物を倒す事。雑魚にかまってる暇はないが、何か起きてからでは遅い。念のため確認に行った。


 マズい、とんでもないヤツがいる。アイツは俺たちの手には負えない。今日のチームには剣の使い手も槍の使い手もいない。

 俺たちの目的はボスを倒すことだが、俺にそんな力はない。せいぜい上の階層の露払いがいいとこだ。だが何故だ。ダンジョンに入ってすぐ、まだ第1階層だ。なぜこんなところに……。


 俺はヤツを見たことがある。大分前だったが、3層、4層で戦える奴と一緒だった時だ。ヤツは4層にいた。一匹だけだったにもかかわらず俺たちは苦戦を強いらえた。やっとの思いで倒すことが出来たが、俺たちはボロボロだった。もちろん俺も。その時はその場で撤退を決め、何とか死者だけは出さずに済んだが、何人かは引退に追い込まれた。

 しかし一体どういう事なんだ。目の前にヤツがいる。いや、ヤツ等がいる。そうなのだ。一匹でも苦労したヤツが三匹もいるのだ。絶対に敵わない。

 俺たちが今やらなければならないことは、この状況を伝えること。ギルドに状況が伝われば討伐チームが編成される。そのためにも生きて帰らなければ……。


 冒険者。俺のような田舎の貧しい農家の3男坊ともなれば家を追い出されるのも当たり前の世界。どこかの荒れ地を開墾してもいいし、ギルドに入って仕事をしてもいい。そう、家にさえ戻ってこなければ。

 俺は18の時に家を出て、それから5年、冒険者としてダンジョンに潜り続けた。今だ下っ端であることに違いはないが、最近じゃ下っ端のリーダー格にもなってきている。もう数年頑張れば俺はチームリーダーとして纏めていける。……はずだった。


 撤退を決めて戻ろうとしたその時、俺たちの背後にいたのもヤツ等だった。前に3匹、後ろに2匹。俺の人生が終わった瞬間だった。力のない俺たちは全滅さ。


 この仕事、夢が見られる仕事なんかじゃ決してない。安い命をダンジョンで散らす最底辺の仕事だ。そして俺もまた、この安い命をダンジョンで散らした。他の多くの冒険者と同じ様に。

 いつかいい暮らしをしたい。それは冒険者ギルドを辞めるという事だったんだ。


 冒険者になって仲間たちと魔物を倒して強くなる。いろんな仕事を通じて知り合った人と仲良くなって、幸せになる。そんな安っぽい話を読んだ気もした。でもその安っぽい話に憧れた自分もいた。


 今日もまた、冒険者に憧れた若者がギルドの扉をたたく。



<<<終わり>>>



最後までお読みいただきありがとうございます。

是非評価の方もお願いいたします。



【毒使い】だっていいじゃない 毒は薬にもなるんだからさ~パーティーを追放された少女は王女だった!?次々と覚醒する能力で幸せを目指す~


https://ncode.syosetu.com/n0001gm/


の連載もしています。よかったら読んでみてください。

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