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ゴブリン退治

 丑三つ時、時は来た。いよいよ作戦決行の時がやって参りました。


 ゴブリン退治の作戦には、街の多くの男たちが我こそはと名乗りを上げてくださいました。その総勢、約百人ほどであります。全面戦争になったとしても、この人数ならば十分にゴブリンたちと戦えるとディアたんは申しておりました。


 そして街の男たちを率いて先頭に立っているのは、当然に某の親愛なるディアたんにございます。某は酷い人見知りなので、街の人たちと打ち解ける自信がありません。


 なので某が考えた作戦内容を一通りお伝えしてから、全てをディアたんにお任せした次第なのでございます。


 そうこうしている内に、ゴブリンたちが巣穴にしている丘の上の洞窟に到着いたしました。すると某を含め、ゴブリン退治に参加している一動は皆、信じられない光景を目の当たりにしてしまったのです。


 何と巣穴の洞窟周辺の森林は全て枯れ果ててしまい、以前そこで生息していた鹿や兎などの動物たちが全て姿を消してしまっていたのであります。


 今回ゴブリンたちが街を襲った理由が分かりました。ゴブリンたちは深刻な食糧不足に陥っていたのであります。


 しかしそれはさて置き、作戦に取り掛からねばなりません。丑三つ時ということもあり、さすがにこの時間帯はゴブリンたちも眠りに落ちているようです。


 一つ気を付けておくことと言えば、洞窟の入口にいる居眠りをしている見張り役のゴブリン一匹のみでございます。


 そのゴブリンも、ディアたんが背後から回り込み、剣で心臓を後ろから一突きしただけで難無く片付けることができました。


 そしていよいよ作戦開始でございます。


 まずは大きな麻袋の中に街中から集めた大量の火薬を目一杯詰め込んだ物を、街の男たち五人で洞窟の中心部へと運んでもらいます。その間、絶対に物音や声を一切出してはいけません。ゴブリンたちに気づかれてしまいますから。


 そしてその後を一人づつ後ろに並んで列を作り、洞窟の中へとゆっくり入って行って頂きます。火薬入り麻袋がゴブリンたちの巣穴の中心部に到達したら、その行列の進行は止まる手筈になっております。そして進行が止まりました。


 作戦に当たり、予め街の男たち二十人ほどに菜種油の入った樽を、一つずつ担いで運んで来て頂きました。そしてさらに二十人ほどの街の男たちに、桶を五個ずつ重ねて運んで来て頂きました。


 樽から菜種油を桶に注いでいきます。そして菜種油で満杯になった桶を列に並んでいる男たちに次々と渡していき、洞窟の中にいる列に並んでいる男たちに受け渡していきます。そう、これはバケツリレー作戦です。


 巣穴の中心に大量の火薬の詰まった麻袋を置き、ゴブリンたちには絶対に気づかれないようにしつつ、洞窟内に有りったけの菜種油を桶で少しずつ撒いていきます。


 誰一人として絶対に音をたててはいけないので、洞窟内に全ての菜種油を撒き終わるのに、二時間ほど時間を要してしまいました。


 それから全ての街の男たちを洞窟内から退避させ、洞窟の入口から少し離れた場所に避難して頂きました。某も手に汗握りながら、遠くから洞窟の入口を見守っている次第であります。


 そしてディアたんだけがただ一人、洞窟の入り口の前に立ち松明に火をつけました。そして某は手を上げ彼女に合図を送りました。するとディアたんは、ゴブリンたちの巣穴である洞窟の中に火のついた松明を投げ込みました。


 次の瞬間、洞窟内が一気に燃え上がり轟音と共に大爆発が起こりました。そして洞窟は崩落。辺り一体火の海と化してしまいました。


 作戦成功。見事にゴブリンたちを全滅させることができました。これでようやく街に平和が訪れます。街の大勢の男たちは皆、感極まって興奮のあまり、大きな歓声を轟かせております。


 そんな中、某ただ一人だけは一目散にディアたんの元へと走りました。彼女は爆発から逃れるために少し離れた場所に一人佇んでおりました。


 「ディアたん!」


 某は両手を広げながら、ディアたんの元へと一生懸命に走りました。彼女もまた両手を広げながら、某を迎えてくれている姿が見えました。そして二人は熱い抱擁。


 いつも毅然とした態度でいるディアたんではありますが、この時ばかりは緊張の糸が切れてしまったのか、完全に普通の女の子に戻っていました。


 「勇者様……」

 

 まるで子猫のような猫撫で声で彼女は某に甘えてきました。


 ディアたんの豊満かつ清らかで柔らかな乳房が、某の薄い胸板に密着しております。


 某はディアたんの女の子特有のマシュマロのような肌の質感とぬくもり、そして彼女から発せられるキンモクセイにも似たほのかな甘い香りを、全身全霊をかけて堪能いたしました。


 そして某はディアたんと抱擁を交わしている中、ずっと彼女の髪の毛の香りを貪るようにして嗜んでおりました。


 すると突然、野太い雄叫びが周囲に轟きました。身を寄せ合っていた某とディアたんは、思わず声の方を振り返りました。


 何と洞窟があった火の海の中から、一体の巨大なゴブリンが立ち上がっているのが見えました。そのゴブリンは怒りに打ち震えているようです。恐らくあの大きさからして、巨大ゴブリンは群れの親玉だと推測されます。戦慄、身の毛もよだつ恐怖。


 「勇者様、あなたは絶対に私がお守りいたします」とディアたんは剣を鞘から抜いて巨大なゴブリンの元へと走って行きました。

 

 すると巨大ゴブリンは右肩に何かを担いでいるように見えます。某が今まで見てきたアニメや漫画の展開からして、それは恐らく爆弾か何かなのではと思いました。嫌な予感がします。これは危機的状況です。


 「ディアたん、気をつけて! ゴブリンは爆弾か何か危険な物を肩に担いでいます!」と某はディアたんに向かってそう叫びました。


 しかし彼女は構わず巨大ゴブリンへと向かって行ったのであります。


 そしてディアたんは両手で剣を振りかぶり、天へと向かって飛翔しました。その彼女の姿はとても気高くて勇ましく光輝いて見えました。そして月明かりに照らされ宙を舞う彼女の姿は、まるで天女のようでした。


 一生懸命な姿の女の子というのは、どんな世の中においても、何よりも美しく尊いと某は思います。


 ディアたんは巨大ゴブリンのその巨体を見事に一刀両断いたしました。そして次の瞬間には、巨大ゴブリンが担いでいた爆弾らしき物を剣で一突きしました。


 某は巨大ゴブリンの亡骸のすぐそばで佇むディアたんの元へと駆け寄りました。そして某は再び彼女と熱い抱擁を交わしました。


 その最中、某はふと心配になり、巨大ゴブリンがその右肩に担いでいた物を確認してみました。しかし某の心配はただの思い過ごしだったようです。


 巨大ゴブリンがその肩に担いでいた物は、何とただの小さなゴブリンだったのであります。しかもその小さなゴブリンも、ディアたんが見事に命を絶ったので死んでおりました。


 これでもう完全に、街には平和が再び訪れたのであります。


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