第12話 帰宅
用を足した後、再び俺はダンジョンまで戻ってきた。
「確か、得点の中にアレがあったはずだ」
ダンジョンの壁に触れ、念じると頭の中に追加特典の一覧が流れ込んできた。
「トイレトイレトイレトイレトイレ……あ、あった!」
『公共公衆トイレ』
魔物が絶対侵入できないトイレ。安心して使用することが可能。
うん、いいじゃないか。サイズは大体……50坪⁉ あ、でも大人数で使用するってことを考えたらこれ位の広さは必要になるか。幸い、使用する正のエネルギーもそこまで多くない。仮に多かったとしても、トイレがないことによる絶望で負のエネルギーが生み出されるのに比べたらマシなはずだ。
後は設置場所だけども、場所は各フロアの最初の入口に設置してっと。これで少しはダンジョン攻略が進みやすくなるだろう。
「さて、さっそくダンジョン攻略の続きだ!」
「GYAOOOOO‼」
ドラゴンの断絶魔が100階層に木霊する。何日かかっただろうか、ようやく100階層までを攻略することが出来た。90階層からはドラゴンパラダイスだった。
グリーンドラゴンの身は、何もしていないのにハーブの味がしみ込んでおり調味料いらずだった。ブルードラゴンの身はプリプリとした食感をしており、生のままで刺身のように食べることが出来た。ファイアドラゴンの身はスパイスが効いており、辛党であれば一瞬にして虜になるだろう。
まさかドラゴンの種類によってこうもお肉の味が違うとは思いもしなかった。これはこの世界において大きな発見ではないだろうか?
100階層のドラゴン、それはブラックドラゴンという黒いドラゴンで、あの洞窟での戦闘を彷彿とさせた。流石にヤバいかと思ったが、流石にあの異様なほどまでの強さはなくなんとか討伐することが出来た。
因みに、地球でよくあるように100階層を攻略したからといって特別な報酬は何もなかった。そこにあるのは黒く染まったクリスタルだけだ。心なしか、以前よりも黒さはマシになっているような気がする。
「さてと、後は帰るだけだけど……」
今、目の前には地上に帰るための魔法陣が存在していた。このままこれに乗れば地上へ戻れるんだけど、やっぱりあれを自分の身でも体験しておかないとだめだよな……。
「頼むぞ相棒」
上半身裸になった俺は、愛剣を取り出し胸の中央に狙いをつける。心臓のバクバクという激しい鼓動が鳴り響く。これからしようとしていることは、流石の俺でも怖い。
「ふっ」
迷いを払うかのように、手に力を込めた。それは寸分たがわず狙い通りの場所、左胸を突き刺した。
「ぐぁっ」
覚悟はしていたが、尋常じゃない痛さだ。剣を引き抜くと、ぽっかり空いた胸からは滞ることなく鮮血があふれ出している。息がまともにできず、体に力も入らない。だんだん意識が遠のいて――――
気が付くと、俺はダンジョンの外へと帰還していた。正確には例の魔法陣の中だ。どうやら得点通り、無事に生き返ることが出来たようだ。
「体の傷跡も完全に消えているな」
体をペタペタ障るが、何処にも穴は開いていなかった。そして、身に着けていたものは全て一緒だ。仕組みは良く分からないが、これで本当に一安心といたところだ。
「さ~て、久々にマルナさんの手料理でも食べないとな」
様々な種類の魔物肉という新たな食材を入手した俺は、スキップしそうな足取りで城へと帰還した。
「マルナさん、只今戻りまし――――マリ?」
「おかえりなさい、おにいちゃん」
マルナさんを求めて調理場へ直行すると、マリがいた。
「なんでマリがここにいるんだ?」
食堂ならわかる。なんていったってマリは食べるのが大好きだからだ。しかし調理場にいるのは何故なのか。
「丁度おにいちゃんが帰ってくるのがお城の中から見えたから、最初にここに来るだろうと思って」
なんでだろう、寒気がする。マリの背中に見えない何かが見えるようだ。なにより、マリの目にハイライトがない。
「ドウシタノ、オニイチャン?」
「い、いや、その」
「ソレニシテモ、カエッテクルノガオソカッタネ」
「いや、ダンジョンをのぞいてくるって言ってただろう?」
勝手に行けばマリに怒られるのはなんとなく想像がついていた。だから攻略する前にマリに声をかけていたんだ。
「ウン、ソウダネ。デモ、ノゾクッテイウノガ、イッシュウカンモカカルナンテオモワナイヨネ」
「それは……」
そう言われると返す言葉もない。
「ねぇ、おにいちゃん……」
マリの目に次第に色が戻り、その目じりには涙の粒がみてとれた。
「おにいちゃんがいなくなったら私生きていけないよ?」
マリは日ごろから溜まっていることを吐き出すかのように言葉を続けた。
「何処に行ったっていい、何したっていい。心配かけるのも仕方ないと思うの。でもそれなら、せめて何時迄に戻るかはっきり言って欲しいの。それが分からない場合は私も一緒に連れて行って。おにいちゃんの傍にずっといさせて!」
「マリ……」
「仮に、その期間が過ぎたら今度から私はおにいちゃんを探し行くから。そして、おにいちゃんが死んだら私も死ぬから」
「いいやそれは――――」
「なら! ……それなら絶対に死なないで? 私の目の届くところにいて?」
マリが懇願するかのように俺を見た。
ここまで妹に心配をかけるなんて俺は兄失格だ。
「ごめんマリ。次からは気を付けるよ」
「おにいちゃん……」
俺が謝罪すると、マリが勢いよく抱き着いてその顔を俺の胸へと押し付けた。そして、そのまま背伸びして、顔を近づけて――耳元でささやいた。
「ツギハユルサナイカラ」
なあ妹よ。おにいちゃんその台詞はなんだか違うと思うんだ。
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新作の「キスから始まる冒険譚」の投稿を始めましたので、宜しければお読みくださいませ!




