第5話 洞窟探索&初戦闘
アーティファクトと魔法を習得してからは、森での生活がさらに快適になった。
まず、『上質な石』、『何の変哲もない枝』を使用し、『石鍋』、『石包丁』、『石皿』、『木箸』、『木スプーン』などの日用雑貨を製作した。アーティファクトさんマジ便利。
そして、火魔法のおかげで、お肉を煮込むことができるようになったのだ。歯がないため、肉を細かく細かく刻み、舌ですりつぶせる程度の柔らかさになるまで、ミルクで煮込む。残念ながら、調味料はないため、味のパンチにかける。そのうち手に入れたいものだ。
肝心の肉の確保も、火や雷の魔法で、ウリボー程度なら難なく狩れるようになっていた。猪も今の俺ならば狩るかとは可能だろう。そして、狩りをこなしていくうちに身体能力も向上しているようだ。それに伴い、身長も伸びているような気がする。正確にいうと5・6歳程度の大きさになっているのではないだろうか。正直この急成長は気味が悪いが、動きやすくなったので良しとしよう。
また、器官が発達したのか言葉も普通にしゃべれるようになった。ずっと赤ちゃん言葉なのではないかと危惧していたが、杞憂に終わって本当に良かった。
【名前】ソウサク(0歳)
【職業】発明家
【HP】100/100
【MP】500/500
【スキル】
「異世界言語」、「異世界文字」、「Creative card【ver.2】」
【魔法】
初級魔法
・火:『チャッカ』、『ファイヤーボール』
・水:『ウォーター』、『ウォーターボール』
・風:『ウインドカッター』
・土:『アースシールド』
・雷:『ライトニングナム』
最初の頃よりもHPは10倍に増えた。今ならばウサギの体当たり49回までなら耐えられる。MPに至っては25倍だ。今後様々な魔法を覚えるためにも沢山のMPを保持しておいて損はないだろう。
今日も、肉のミルク煮込みを食べつつ、最近の日課となっている、読書に没頭する。本棚には、魔法の本以外に、この世界について書いてある本があった。
この世界の住民は、強大な魔物たちに追われ、世界の端へと逃げ延びたらしい。幸いなことに、そこには『魔除月』と呼ばれる大樹があり、その木から一定の範囲(三日月状の範囲らしい)、魔物が近寄ることができない。人々はその木を中心として国家を作り上げたそうだ。国家は全部で4つあり、アワリティア王国、スペルビア王国、イラ王国、インウィディア王国という名前らしい。それぞれの国家は、魔物という敵がいるため、互いに不干渉を貫いており、国家間での戦争は、今のところないそうだ。
「それにしても、魔除月か……」
実は、この森で過ごしてきて不思議に感じることがあったのだ。この小屋を中心として、周囲に魔物がいないことだ。そのため、安心して散策できたし、夜も安心して眠る事ができた。流石に国家を作るほどの範囲はないが、半径200mほどの範囲で魔物を見かけていないように思う。もしかしたらこの小屋は、大樹の枝で作られたのかもしれない。何故このような場所に、これがあるのかは謎だが。
謎といえば、もう一つ不思議に思っていることがある。この世界では夜になっても月を見かけたことがないのだ。最初は雲のせいで見えないのかと思っていたけれども、星々は見えるにもかかわらず月だけは一向に見える気配がない。もともと、この世界に月というものは存在しないのだろうか?
読書も一通り済んだところで、今日は洞窟デビューだ。火魔法という灯りも確保できたため、暗闇でもへっちゃらだ。安全地帯からは少し離れた場所にあるのだが、身体能力も上がり、コウモリやスライム位になら負ける気もしない。
洞窟に行く道中、人魂の形をした植物など、珍しいものを発見するたびカード化することも忘れない。洞窟に到着すると、ファイヤーボールを生み出し灯りの代わりにする。
「ごくっ……」
完全に未知の領域だ。いざ、洞窟の前まで来ると、暗闇の中から何かがこちらを狙っているのではないか、という不安が生まれ、汗が頬をつたう。勇気を振り絞り、ついに未知の領域に足を踏み入れる。
洞窟を歩くこと数分、中は静かであり、生物が住んでいるようには感じない。てっきる蝙蝠でもいるのかと思ったんだが。まぁ、なにも住んでないのなら、少し肩透かしをくらった感じはあるが、危険は少なくなるから気にしないことにしよう。
洞窟の中は、色々な鉱石が発見できた。『鉄鉱石』『金鉱石』『銀鉱石』『石灰石』など、日本でよくある鉱石が何故か一堂に会している。また、『伸鉱石』という始めて名前をきく鉱石もある。魔力を込めることで伸びるという特性を持つようだが、石でできた餅みたいなものだろうか? うむ、ここはファンタジー洞窟と名づけよう。
「む? 奥のほうが赤く……光っている?」
鉱石採取を楽しんでいると、奥のほうに赤く輝いている場所を見つけた。近づいてみると、黒い岩場の中央に、マグマのように燃え滾る赤色の鉱石があった。そして、さらにその中央に、太陽のような、赤・オレンジ・白が混ざり合った鉱石が発光していた。一言で表すと、神々しいという言葉が適切であろう。慣れた手つきでそれらの鉱石に触れ、お決まりの言葉を唱える。
「チェンジ」
【名称】 イグニス・ストーン
【クラス】鉱物
【詳細】 真っ赤に燃える鉱石。希少品。魔力の込められた火に反応する。
【名称】 ソル・ヌーメン
【クラス】鉱物?
【詳細】 世界に同じものは2つとない物質。
おぉ、なんだかカッコいい。輝きだけでなく、名称もすごく神々しい。しかし、『ソル・ヌーメン』は鉱物ではないのだろうか? 何故、鉱物の後ろにクエッションマークがついているのだろうか。しかも、詳細も具体的なことは書かれていない。
不思議に思いながら、カードを服のポケットにしまい、探索を再開する。火の玉で照らされた周囲を観察すると、どうやらここら一帯で行き止まりのようだ。先ほどの鉱物に気を取られて、気がつかなかった。
行き止まりの他に気がつかなかったことがもう一つあった。洞窟の最奥に、この世界で始めて出会った天使様、いや、緑色のスライムが鎮座していた。鎮座と表現したが、座っているのか立っているのか良く分からない。とにかく奴はそこにいた。
ここには他に生き物がおらず、あのスライム一体しかいない。魔物との発戦闘としては、最適な条件に違いない。サイズが2メートルと少し大きいが、あのノロノロした動きなら、最悪安全ゾーンまで逃げ切れるだろう。
使い慣れた刃物(狩り丸と命名)を握り締め、ゆっくりスライムに忍び寄る。こちらに気がついていないのか、逃げる様子はない。間合いの一歩外まで近づき、狩り丸を握りなおす。心臓が激しく拍動しているのが自分でも良く分かる。柄にもなく緊張しているのだろう。
腰を低くして、突進の構えをとる。足に力を込め、スライムとの距離を一気に縮め、勢いを乗せたまま、狩り丸を下から上へ、そして上から下へと振り抜く。スライムの肌は、刃の軌跡をなぞるようにパックリと割れ――――直ぐに閉じた。
「チッ」
傷口は直ぐに閉じたが、傷がつくということは、ダメージは与えているはずだ。幸いなことに、攻撃をされてもスライムはまだ動く気配はない。もしかしたら感覚がなく、気がついていないのだろうか?
狩り丸を握りなおす前に、念のため、ファイヤーボールを投げつけて時間を稼ぐ。ファイヤーボールが当たった肌は少しススがついた程度で、効果はあまりなさそうだ。狩り丸を握りなおせたら、ファイヤーボールを生み出して灯りを確保する。そうして、再びスライムに切りかかろうとしたところで、狩り丸の刃が粉砕した。
刃が粉砕したと同時に、スライムが動くような気配があった。
最下級と思われるスライムなら倒せる自身があり、身体能力もそこそこ上がっていた。魔物といっても、所詮スライムであり、初日に蛇っぽい魔物に捕食された場面を見ていたこともあって、弱い魔物と確信していた。だから、こうして一対一の状況では、勝てなかったとしても負ける事はないと思い、戦いを挑んだ。それが間違いだと知らずに……。
スライムが振り返った。どうやら先ほどは後姿だったようだ。振り返ると同時に、ズッズッと、何かを引きずるような音がする。スライムが正面を向くと、口のようなものがあり、牙らしきものがついていた。その牙には何かを捕食したような跡があり、スライムの傍らには、3mを超えたであろう獅子のような魔物の死骸が、無残な状態で転がっていた。先ほどは、暗くてよく見えなかったが、スライムの後ろをよく観察すると、様々な魔物が積み重なっていた。
何故この洞窟内が静かだったのか、他の生き物が一匹たりともいなかったのか、瞬時に理解し、戦慄した。
洞窟の外へ、安全なあの小屋へ逃れようと、自分の足を無理やり動かすと同時に―――――俺は意識を手放した。
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