第12話 スペルビア王
クレチマスと別れてから1週間、様々な町に寄ったところ、作物不足なのは一緒であったが奴隷解放している領地は一つもなかった。町民や野菜を購入しにきた貴族の話を聞く限り、領主達はそもそも奴隷を人と思っていないらしい。他の貴族は言わずともかな。
魔物の脅威から自分たちを守るために奴隷に戦わせているが、その見返りとして与えているのは奴隷たちが倒した魔物の肉の一部だけだ。奴隷たちばかりに戦わせているため、奴隷と兵士の差は開く一方でステータスが2倍ほど違う。暴動が起こるのも時間の問題だろう。
「おにいちゃん、お腹すいたー!」
「仕方がないな、はい、どのカードにする?」
「むむむ、これー!」
相変わらずマリの食欲は衰え知らずだ。いつもは適当にマリが好きそうなのを渡していたが、最近では遊び心を加えて、無作為にカードを1枚選んでもらい引いたカードのものを渡すというようにしている。
「うわぁ、ふわふわで雲みたい!んー、あまーい!!」
どうやら今回は綿あめをゲットしたようだ。
そんな感じで車内でマリと過ごしつつ、現在俺たちはフリーダムの街へ向かっていた。元奴隷の人たちが、元気に生活できているのか、何か困っていることが無いのかずっと気になっていた。俺がしたことは間違っていなかったとは思うが、全く心配が無いわけではない。
「あ、おにいちゃん見えてきたよ!」
「おお、本当だ。懐かしい――さて、先に王都に寄ろうか」
いや、やっぱりあの街は問題なさそうだ。何か城門の横になんか見覚えのあるような置物があったように思えたが、きっと気のせいだろう。そうに違いない。きっと疲れが溜まって幻覚を見てしまったのだろう。早く王都に行って休まねば。
「え、おにいちゃん、何で寄っていかないの? あのカッコいい像をもっと間近で見たいな」
カッコいい……だと? いやいや、騙されるな。あそこには何もない、何もないはずなんだ。マリの言葉に惑わされてはだめだ。少なくとも心を落ち着かせる時間くらい欲しい。
「先に王都に用事があるからな。それが終わってからこよう」
「はーい」
あわよくばこのままマリが忘れてくれますように。最悪、闇夜に紛れて破壊することも視野に入れねばなるまい。
「それじゃあマリ、俺はちょっと王都まで用事を済ませに行くからここでちょっと待っていてくれないか?」
奴隷のいなくなった王都が現在どんな状況なのか想像できないし、前回色々やってしまったから絡まれる危険性が十分にある。そんな場所に流石にマリを連れて行くわけにはいかない。
「――!? まって、おにいちゃん。私も一緒に行く」
「だめだ。危険なことがあるかもしれないから今回ばかりはマリはお留守番だ」
「なんで? 私、そこら辺の魔物にも負けないくらい強くなったんだよ? おにいちゃんの足をひっぱらないよ!?」
今のマリならば、確かに中級レベルの魔物に勝つことはできるだろうし、そこら辺の兵士に負けることはまずない。足を引っ張っているなんてとんでもない。それに、マリの笑顔のおかげで俺がどれだけ頑張れていると思っているんだ。だから、命の危険という点ではさほど心配していない。でも……。
「マリはまだ子どもだからな」
「そんな……」
王都では、今まで以上の罵詈雑言が飛び交う可能性がある。そのような場所はマリの教育上に良くないし、傷つけたくもない。クレチマスの城で俺に対する罵倒を我慢できなかったマリだ。もう少し大人になるまでこの手のことに関わらせたくはない。
「こ、子どもじゃないもん! マリは身長も伸びて大きくなってるもん!」
どうしたんだろう? いつもなら二つ返事で聞いてくれそうなことだが、今回はやけに食い下がるな。
マリがここまで主張するのは珍しいし出来るならその希望を叶えてやりたいけど、今回ばかりは連れて行きたくない。
「身長の問題じゃないんだよ。マリ、今回だけはここで待っていてくれないか?」
「……1日。1日以内におにいちゃんが戻ってこなかったらマリも王都に行く!」
「分かったよ」
1日も時間があれば情報収集は容易いだろう。なんでマリがここまで心配しているかは分からないが、それで安心できるなら約束の1つや2つ守ってやろう。
「おい、坊主。金、女なんでもくれてやろう。お前のその力、我らの為に行使しろ」
俺を見下ろす王冠を被った肥満体系の50代男性、その横で笑みを浮かべて立っているいけ好かない顔した高齢の男性、俺を囲うように向けられた無数の槍や剣。
あれ、なんでこうなっているんだろう?
いつも通りガメツに金貨を渡した後、野菜を売り歩いていたら、いつの間にか兵士に囲まれて王城まで強制連行。あれよあれよとことは進み、今に至ったが……何故ばれた?
身長は前回よりも少し伸びたし、眼帯をして、口元はスカーフで覆うことで顔ばれしないようにしていたはずだ。こんなに直ぐにバレるなんておかしい。
「アレを成した者は子どもということは大勢の兵士が見ていたから知っている。そして、今の時期に1人で他国から野菜を売りに来れるようなやつは普通は考えられんし、なにより、その服装がその時の子どもと一緒なのが証拠だ。兵士からの報告で直ぐにピンと来たよ。確かソウサクであったか?」
白衣でバレただと? それは盲点だった。
「ミッシェル、報告大儀であった」
「ははー、ありがたき幸せ。今後も王国のために身を粉にして、誠心誠意勤めさせていただきます」
褒美を王から賜った兵士――ミッシェルが俺のほうを向き口元をわずかに吊り上げるのがみえた。ガメツ、お前が犯人か!! お前の本名がミッシェルといことを初めて知ったよ!
「で、坊主よ。余の頼み、勿論断るようなことはないよな?」
頼みごとだったのか。この状況を見る限り、てっきり命令なのかと思ったよ。今までのやり取りで分かったことは1つ。王都はやっぱりもう駄目だ。これ以上ここにいても、もう意味はない。マリも心配していることだしさっさとファンタ1号に戻ろう。
「ええ、分かりました」
「おお、では早速あの離れに住む反逆者たちに罰を――」
「これ以上あなたたちと話をしていても無駄だとはっきり分かりました」
「なっ……お前たち、この餓鬼は自分の立場が分かっていないようだ。死ななければ問題ないだろう。少々現実を見せてやれ」
久々の笑顔攻撃は、効果がなかったようだ。残念。王の命により兵士たちが一斉に襲い掛かるが、その動きはスライムよりも遅い。
ダークパンサー・ブーツを装着すると同時に王城の外へと一直線に突っ走る。後ろのほうで「どこに消えた!?」と、王の焦った声が聞こえた。
「ただいまー」
「おかえり、おにいちゃん」
帰ると同時にマリに力いっぱい抱きしめられた。兄の帰りを待ちきれなかったんだな。可愛いやつめ。
「それで、王都はどうだったの?」
「あー、他の領地と変わらない感じだったね」
詳細を話せばマリが怒る可能性があるため伏せておこう。
さて、時間も無いことだしアワリティア王国にさっさと向かおうかな。
「あれ? 次はフリーダムでしょ? 早く早く!」
……残念ながら忘れていなかったようだ。
お読みいただきありがとうございます。
スペルビア王、初めての出演にして最後の出演になります。さようなら、名も分からなき王……。
そしてミッシェルの出番はまだあるのか!?
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