閑話 グレン
国境間自警団、これはスペルビア王国とアワリティア王国の中から出たはぐれ者の集まりだ。全員国の方針に我慢できなくなり、自国を捨てたものたちだ。俺もその一員で今ではリーダーと呼ばれている。
俺達は安全である自国を捨てるのだ、皆それ相応の覚悟をしている。そのためには厳しい鍛錬を繰り返し自分を鍛え上げた。
その成果もあって今では魔物を狩ってその日暮するのには困らない。
時々国境間を移動する商人達が魔物に襲われるのを助ける慈善活動も行っている。もちろん見返りも求めるが些細なものではあるし、命を助けたのだ。報酬は当然といっていいだろう。
国境間自警団を設立して5年が経過し人数は23人まで膨れ上がった。現在の拠点は国境間のはずれにある四方を岩で囲まれた岩場だ。この近辺では敵なしと言ってもいいほど俺たちは洗練されている。エリート冒険者にも引けを取らないだろう。
時折通りかかる商人の話を聞く限り、民の王国に対する不満が限界を迎えている。後数年もしたらこの自警団も更に人数が膨れ上がるに違いない。そうなれば、そのうち町を作ってもいいかもしれない。理不尽のない自分達だけの町、そんな理想を追い求めてもいいだろう。魔除月の効果がなくても俺たちは魔物なんかには負けない。だから新たに町を造るなんて決して夢物語ではないはずだ。
「リーダー、3人の人間が国境を渡るっぽいです」
ほう、久々の商人かな。それにしても、こいつ――サクは相変わらずすごいな。半径5キロ以内ならどこに人がいるか分かるらしい。最初は信じられなかったが、数年もの間実際にその能力で当て続けたのだ。信じるしかないだろう。なんでも、昔から人の気配を感じ取れるようにと、目を閉じて神経を研ぎ澄ます鍛錬を繰り返していたらいつの間にかできるようになっていたらしい。俺にもそんな能力が欲しいものだ。
さて、何はともあれ久々の人間だ。お酒でも扱っていたら嬉しいな。
「そうか。よし、いつも通りそいつらを魔物が襲おうとしたら颯爽と助けるぞ!」
「「おう!!」」
「リーダー、あれは馬車なんですかね?馬がいませんけど……」
「子供が先頭に座って、足を動かしてますね。どんな仕組みで動いてるんでしょうか」
「というか、あの子の足の動き尋常じゃないスピードよ」
「それなのに、楽しそうに談笑していて、とてもつらそうにも見えませんわ」
確かに、少年からは疲労感というものが感じられない。もしかして、実は楽に動かせるものなのか?
おっと、無駄話をしている暇もなさそうだ。魔物3匹が彼らに迫りつつある。報酬は期待はできそうにないが、見捨てるという選択肢はありえない。
「よし皆、行くぞ!」
「「おお」」
魔物と少年の間に颯爽と割り込む。
ちらりと少年に目をやると、意外といい服を着ていることに気がついた。生地がとても高そうだ。貴族の衣装とそう遜色はないだろう。
ふむ、これは思っていたよりもいいものが手に入るかもしれない。
「そこの商人、助けてやろうか?」
一応声をかけるが、返ってくる答えは「お願いします」しかないだろう。少年にあの魔物達を倒せるとは思えない。
しかし、予想外の答えが返ってきた。「危険だから相手にするのは止めておいたほうがいい」だと?
この少年は馬鹿にしているのだろうか? 俺達がたかが魔狼3匹に後れをとるわけがない。一匹他の個体と比べて一回りでかいやつがいるが、俺、トリゾウ、チョコ、ミントの4人なら難なく倒せるだろう。
少年は俺達から威圧を感じたのか、言葉を詰まらせながら助力を頼んできた。初めから素直にそうしておけばいいものを。幼いが故に力量を見極めることができないのだろう。
何が起こった。視界が一瞬黄金に染まったと思ったら、強烈な衝撃を感じ体がまったく動かなくなった。
首だけ動かして辺りを見回すと、他の団員も動けないでいる。このままでは全滅必須だ。こんなところで俺達は死んでしまうというのか。
奴は今まさに俺達を殺そうと雷の矢を展開している。襲い来る衝撃を予測し、思わず固く目を閉じる。
しかし、どれだけたっても衝撃が襲ってこない。
恐る恐る目を開けると、そこには魔物を串刺しにした少年の姿があった。
本当に驚かされることばかりだ。先ほどの少年、いや、ソウサクさんの強さもそうだが、回復ポーションは更に衝撃を受けた。なんと傷が治ったのだ。しかも古傷も一緒に痕跡がなくなった。驚くなというほうが無理がある。
チョコとミントなんか小躍りして喜んでいる。彼女達も一応女性だ。やはり傷のない肌というのは嬉しいものなのだろう。
相手の力量を図ることができていないのはどうやら俺のほうだったようだ。
ソウサクさんか、見かけによらず素晴らしい人だ。
しかし、ソウサクさんはこれだけでは終わらなかった。
俺達の命を救い、奇跡的なポーションを与えてくれただけでも十分なのに、今度は武器と防具まで与えてくれるという。防具に関しては、正直がっかりした。ただの白いローブのようなものだったからだ。しかし、俺のこの考えは数秒後に覆された。なんとただのローブが剣を折ったのだ。まさに伝説の防具といっていいだろう。
武器の性能も桁違いだった。俺に与えてくれたのは『ホーンソード』というものだったが、斬れ味、鋭さ、硬さ全てが段違いだ。金属の鎧をバターのように斬れた時は言葉を失った。他のの仲間に与えられた武器も性能がぶっ飛んでいた。
思わず笑いがこみ上げてきた。強さ、賢さ、そして優しさを兼ね備えたこの方こそリーダーと呼ぶに相応しい方はいない。俺がリーダーなんておこがましい。
部下達は商人であるマルナさんの息子だと思っているが、それは絶対に違う。確信を持ってそれは言える。
いつかこの方と再開した時に、部下にしてもらえるように自分の力を磨こう。せめてこの防具と武器に恥じない男になってやる。
ソウサクさんとの出会いから数か月が過ぎた。最近、魔物が活発になっているような気がする。
「リーダーやばいっす、数百の魔物が何故か魔除月の範囲内に普通に踏み込んでるっす。このままいけば間違いなく町が攻められます」
「まじかよ、り、リーダーもっと安全なところに逃げましょう」
「ここもヤバイかもしれないですよ」
トリゾウの報告により団員内で不安な声が上がる。ここは俺が喝を入れないといけないな。
「何を軟弱な。ソウサクさんとの出会いから俺達は更に鍛えたはずだ。魔物が数百?そんなの俺達の敵ではない。今までは旅人を助けて僅かながらの報酬をもらっていたが、今回は街を救って沢山の報酬をもらおうじゃないか」
「さすがリーダー、良いこというじゃない。私の魔法もパワーアップしてるし今ならあの雷狼も倒せるわ!」
「そうですわね、魔物数百体位私たちの敵ではありませんわ」
「報酬のためにもやってやるっすよ!」
俺の言葉に次々団員が同調していく。どうやら不安は払拭されたようだ。
さあ、行こう。街を救うことでソウサクさんのお役に立てることを証明するのだ。
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