↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『0歳から始める異世界転生生活~世界を救う建国物語~』  作者: nyanta
第2章 傲慢と強欲の国
17/84

第6話 奴隷

「ここが私のお家だよ」


 ワンルームマンション程度の広さがある木造の家が立ち並ぶ一角に、マリの家はあった。ここに厳ついと思われる父親がいるんだな。気を引き締めなければ……。


「おじゃまします」

「おにいちゃん、いらっしゃい」


 マリの威勢の良い声は聞こえるが、それ以外の声は聞こえない。よく部屋の中を見渡すと、そこは誰もいない空間が広がっているだけであった。もしかしてと思い天井を確認するも、へばり付いている人などはいなかった。


「夫なら昨日から魔物狩りに出かけているから、今日はいないわ」


 考えていることが顔に出ていたのか、マルナさんが後ろから声をかけて来た。


「魔物狩りですか?」

「ええ、普段は害獣を狩っているんだけれど、冒険者継続するために魔物を狩らないといけないの。私たちが奴隷にならなくて済んでいるのは、夫が毎月ノルマである魔物を狩っているからなの」


 どうやら冒険者になれば、家族も奴隷にならなくて済む仕組みらしい。


「あのね、この前なんかこーんなに大きいイノシシを倒してきたんだよ。凄いでしょ!」

「そうなのか、お父さん強いんだね」

「うん!」

「ふふふ、そんなわけで夫はいないけれどもゆっくりしていってね」

「はい」


 マリの父親に会わなくて済んで安心しているは秘密だ。


「それでは、泊めてくれるお礼にお二人の安全は旦那さんに代わりまして僕が守りますね」

「あら、たのもしいナイト様ね。お願いしようかしら?」

「ええ、任せてください」


 マルナさん、たのもしいじゃなくて、可愛らしい子ねっていう思いが顔に出ていますよ。


「それならマリもおかーさんと、おにいちゃんを守ってあげるよ!」

「あらあら、二人に守ってもらえてママは安心ね」


 マリとマルナさんの笑顔が眩しい。この二人には今後もこの屈託のない笑顔の日々を送って欲しいものだ。




「ただいま」

「あっ、おにいちゃんお帰りなさい」

「マリ、聞いて驚け、今日の獲物は『森雄牛(フォレストブル)』だぞ!」

「なんだか分からないけど、きっと美味しいんだね!」

「あら、ソウサクくん毎日ありがとう。本当に助かるわ」


 マリ家でお世話になってから7日が経過した。泊めてもらうお礼に何かお返しをしようと、毎日食材を持ち帰っている。最初のうちはマルナさんは受け取ろうとしなかったが、腐ったらもったいないという説得と、マリの細身の体に視線を向けることで、マルナさんが先に折れた。マルナさんも、もっとマリにご飯を食べさせてあげたいと思っていたのだろう。今では、ありがとうと言うようになった。多分ありがとうの前には「マリのために」が入るのだろう。

 ちなみに本日のメインである森雄牛(フォレストブル)は害獣の中でも捕獲が困難で貴族でもなかなか手の出せない高級品なのだが、二人が知ることはないだろう。知ってしまうと、それはそれで大変なことになりそうなので、気づかれぬまま美味しく頂こう。


「いただきまーす」

「いただきます」

「こんな美味しそうなお肉使うの初めてだから、お口に会うといいんだけど」

「マルナさんの作る料理が不味いわけないじゃないですか!」

「そーだよ、おかーさんの料理は美味しいよ」

「ふふ、二人とも上手いこと言ってもダメですよ」

「本当ですってば」

「あー、おかーさん顔赤くなってるよ?」

「もう、照れちゃうじゃない」


 3人でテーブルを囲んで食事を取りながら談笑をする。この2人が笑顔でいられるのは、この町の中では奇跡かもしれない。この7日間町で情報収集をしてきたが、心底嫌になるような情報しか入ってこなかった。


 まず、この町の住民たちについてだが、下級市民はみんな、死んだような顔をして生活している。奴隷として毎日こき使われるためしょうがないだろう。中級上級市民の場合は笑顔こそみられるが、自分より身分の低い者を好き勝手に奴隷にし、日々のストレスを発散しているようだ。そして、貴族にはワイロ等でご機嫌をとる始末だ。貴族・王族にいたっては、市民から重税による税の徴収や奴隷をストレス解消の道具として利用していたりするそうだ。そのため、この町の死亡原因は奴隷の虐待死が一番だという。


 例外となるのは冒険者だけだ。冒険者はその希少価値から、家族と共に奴隷制度の枠外にいられる。ただし、毎月1回は魔物を倒して冒険者ギルドに収めなくてはいけないため、一握りの人にしかこの職にはつけないのだ。その一握りの中の1人がマルナさんの夫であるダリンさんだ。ダリンさんのおかげで、今の明るい2人がいるのだろう。


「おにいちゃん、ボーっとしてどうしたの?」

「ん? ああ、なんでもないよ。それよりも明日は1日一緒に遊ぼうか」

「え、いいの? やったー」

「ふふふ、マリよかったわね」


 ……この2人の笑顔が永遠に続きますように。




 ドンドンドン


「おい、いるのは分かってる。ここを空けろ」


 9日目の朝、俺は激しく叩くドアの音で起こされた。横をみるとマリとマルナさんも同じように起きていた。


「なんなのでしょうね?」

「さぁ、分からないわ。」


 マルナさんが首をかしげながらも玄関のドアを開いた。


「はい、どちらさまでしょうか?」

「お前がマルナだな」

「はい、そうですけど……」


 マルナさんの肩越しから、丸々太った商人風の男と、護衛と思われるやる気のなさそうな兵士が1人みえた。


「おい、アレを渡して差し上げろあげろ」

「了解」


 兵士の男が、手に持っている細長い包みをマルナさんに手渡す。マルナさんは不可解に思いながらも、受け取った布に手をかけ――――その動きが固まった。


「おかーさん?」


 マルナさんが固まったのをみて不思議に思ったのだろう、マリがマルナさんのすぐそばに駆け寄る。

 

「なにもってる――――きゃぁぁ」


 マルナさんがとっさに動き、倒れかけたマリを右手で支える。その反動で反対の腕の中のものが見えてしまった。そこには――――1本の腕が納まっていた。


 商人風の男が嫌な笑みを浮かべながら口を動かす。


「この腕に見覚えはありませんか?」

「あ、あります。この手の形と大きさはダリンの腕です。見間違えるはずが――――ありません」

「ほほ、話が早くて助かる。あなたの思ったとおり、それはダリンの腕だ。奴は仲間と共に魔物狩に出かけて死んだ。魔物に腕をちぎられた状態で、仲間を守るために自ら犠牲になったようだ。これでまた1人の優秀な冒険者がいなくなってしまい我々商人にとっては大きな痛手ですよ」

「そんなっ」

「現実をみろ、その腕が確かな証拠だ。さて、ここで問題なのは奴が死んであなた達は冒険者の家族ではなくなったと言うことだ。言いたいことは分かるよな?」

「あっ……」


 これは不味い。ダリンさんが亡くなったということは、マルナさん達は冒険者の家族ではなくなったということ。つまり、冒険者の特権がない。


「喜べ、この大商人のブロームがお前ら親子共々奴隷として可愛がってやる。ぐふふ、前からお前らには目をつけていたのよ」

「マリ、マリだけはどうか見逃してください。私はいいです。でもマリだけはっ」

「だめだ、俺はグルメでな。マリなんて実に美味しそうな体をしているじゃないか。壊れなきゃ良いんだがな」

「そんなっ」

「ヘル、その親子を馬車に押し込め。お前にも後で美味しさを分けてやるよ」

「ヘヘっ、さすが旦那分かってるぜ」

「マリだけは、マリだけは……」

「うるせー、ほらさっさと立て。言うこと聞かないなら今ここで切りk――――ぐはっ」


 思った通りだ。こいつらはマリとマルナさんを奴隷にするつもりだ。そんなことは許せない。許せるはずがない。この平和な家庭を壊し、2人から笑顔を奪うつもりだろう…………ふざけんな!!

 

 気がついたら俺は右こぶしを振りぬいた状態でマリナさんの横に立っていた。護衛らしき男は数十メートル先の木にぶつかって――おそらく気絶している。あんな強そうな鎧を着ていたのだから死んではいないだろう。


「なっ――――お、おおお、お前は何者だ」


 醜い顔を恐怖にゆがませて、喚いている。うん、うるさい。


「俺か? 俺は他の国から来た冒険者だ」

「た、たかが、他国の冒険者がこの国で好き勝手して無事にすむとでも思っているのか?」


 ふむ、先ほどは頭に血が上りすぎてつい護衛の兵士を殴ってしまったが、こいつの言うことにも一理ある。この国には、この国の法律がある。その法律が如何に気に食わなくても、それを悪だと断じて一方的に自分の考えを押し付けるのは間違っているだろう。自分の考えを押し付けても解決しないことは自分で一番分かっているのだから。


「すみません、自分の獲物を取られそうになったものですから」

「自分の獲物だと?」

「えぇ、他国の人間でもこの国で奴隷を買うことができたはずです。この2人をあなた達より先に奴隷にしようと思っていたのですよ」

「ふ、ふざけるな。他国の人間が奴隷を購入できるのは、この国の上流市民以上の者が奴隷にした者だけだ。つまり、上流市民である俺に先に所有権があるんだ。そんな屁理屈が通用するとでも思っているのか?」

「ああ、そうだったのですね。それではブロームさん、この2人を売ってください」

「キサマふざけるのもいいかげんに――――」

「こう見えても腕っ節は強くてですね。まちがって手が滑ってしまうことが――あるかもしれません」


 ちらりと彼方にいる護衛に目を向けながら言うと、ブロームの怒りに赤く染まった顔が青くなってきた。


「い、いいだろう。ただし、1人金貨500枚だ。今すぐに用意できるならばそいつらを譲ってやろう。ほら、2人で金貨1000枚だぞ?そんな大金キサマのような小僧に用意できるのか?」


 俺みたいな小僧には払えないと思っているのだろう。俺を恐れながらも、小ばかにしたような視線を感じる。それにしても、護衛の兵士が殴られてあんな目にあっているのに、それでもこんな金額を提示してくるあたり腐っても商人なのだろう。 

 金貨1000枚か。確かにそんなに金貨は持っていない。しかし、金なんかいくらでも作れるから、問題ない。ただ、タークさんごめんなさい。


「金貨は1000枚ないですが――――」

「ほれみろ、交渉決裂だ」

「――――1000枚はないですが、塩と胡椒なら持ってますよ?」


 俺はおもむろに鞄から塩と胡椒の入った袋を取り出す。


「塩と胡椒だと?」

 

 商人は訝しみながらも、俺が差し出した塩と胡椒を眺めていく。


「本物の塩と胡椒だ!!しかも、こんなに混じりけのない純白な塩は見たことがない。コショウにしてもそうだ。雑味が無く、ここまで味がしっかりしているコショウも今までみたことないぞ。俺のしっている胡椒とこれはぜんぜん違う。小僧、キサマこれをどこで手に入れた!?」

「言うとでもお思いですか?」

「ちっ」

「因みに、後500キロずつ提供できますが、これでも金貨1000枚いかないですか?」

「500キロだと!?」


 商人は驚いた後、少し黙りながら頭の中で計算を始めたようだ。途中で「あとでバレないように」「盗賊を装って、いや、人質を装ってあいつを殺せれば」など口に出ていたが気にしない。


「いいだろう、それで譲ってやる。して、他のはどこにあるのだ?」

「この家の中においてあるので取ってきますよ」


 家の中に戻ると急いでカード化をとき、塩と胡椒を用意して商人の馬車に積んでいく。積み終わるとブロームは大層満足したように頷き、こちらに向き直った。


「あとは、こいつらに奴隷の首輪をつければ手続きできるのだが、生憎店に置き忘れてきてな。少しの間だけここで待っていろ」

「はい、分かりました」


 ニコニコした笑顔をブロームに向けた。速くどこかに行ってくれないだろうか。

 俺の願いが通じたかどうか分からないが、ブロームは馬車を走らせてこの場から離れていった……護衛の兵士をおいて。やつは当分目を覚ましそうにないから、このまま放置でいいだろう。


「そ、ソウサクくん……」


 気絶しているマリを抱いたまま、我に返ったマルナさんが声をかけてきた。今にも泣きそうな顔をしている。


「言ったじゃないですか、ダリンさんがいない間は僕が2人を守るって」

「っ――――――――――――」

「僕じゃ頼りにならないかもしれないけれども、一緒にこの国を出ませんか?」


 ここまできたら、もうこの2人を放っておくことはできない。俺にとってはもう他人ごとには思えない。


「あり……が…………とう」


 会ったことはないが、ダリンさんの思いを引き継ぎ、この2人の笑顔だけは守っていこうと俺は決意した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。