跋
所属するバンド「帝都激楽帯」の作品「跋 -あとがき-」にて、
MV用に作成した散文詩を、歌詞と融合させたものです。
MVはこちらです。
https://youtu.be/Xoks2nLZ1II
などて君は去りにしと
朧眼閉じもせで
ああ旅人よ 秘めよ知るはずぞ
来し方を 見返れど その掌虚ろなり
静けき宵 朱き空に 揺蕩う
雁に交じる 淡き声音に 驚き仰ぐ
然れど軈て 項べ垂れて 息衝く
誰ぞ知らむ 蓋し空似と 訝り払う
などて故郷へ訪ねきて
在りし人に囚はれぬ
ああ旅人よ 耐えよ知るはずぞ
来し方を 偲ぶれど 我が追いしは虚ろなり
彼は誰時 朱き空に 誘う
槐の枝に 架かる梯の さぞ優しからむ
外套の襟 緩める手に 寄り添う
細き指の 甘き温もり 喜び咽ぶ
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駅に着ひたのは何時間前だつただらう
要らなくなつてしまつた私達の家を後にして
本のひとつも携へることなく
ただおまへの影を瞼にばかり写したまま
斯の線路の脇をふらふらと歩ひてゐた
窓辺を通り過ぎる木々を眸で追つているうちに
今の私の命など只のあとがきに過ぎぬことに気が付ひて
おまへの歩ひた道を辿れば
少しは気も紛れるぢやないかと思つただけなのだ
今日の昼は晴れてゐたものだから
並木道は全く夜になつていると云ふのに
空は未だ幾分か明るく
暗くなれば風が一気に冷て
丁度良く両足をかぢかませてくれる
今の声は
嗚呼、私を見つけてくれたのか
何を示すでもなく私の名を口にして
其処に梯があると教えてくれたのか
さうだ、おまへは最後まで優しい女だつた
屹度おまへなら
斯のつみびとが更に咎を重ねやうとも
屹度おまへなら
青白めた掌に私の頬を抱き
仕方のない人と許してくれるだらうね
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「無為に老いたるその身なれば
終幕も許さう」
彼は誰時 朱き空に 誘う
槐の枝に 架かる梯の さぞ優しからむ
静けき宵 頬伝ひし 月影
祈れるまま 夢む面影 我を連れ行け
然れど軈て 笑み深めて 降りぬ
我に来よと 憑るは禍事 君にあらじと