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君に伝えたかったこと

作者: 山田林檎


私はずっと信じていた。


でも、人はみな、嘘をつく。



信じたそばから平気で裏切っていく。



そしてそれは


決して珍しいことでもないらしい



当たり前のように見て見ぬふりをする



人はいつから



真実から眼をそむけるようになってしまったのだろうか



自分の都合のいいように解釈し、



過去を塗り替えていく。





ねぇ、




貴方はどうして



息をするように嘘を吐いたの?











星が浮かんでいる



真っ黒な海の中で小さくきらきらと輝き続ける彼らは



この世の何よりも美しかった




何も求めず


何も与えず



ただ輝く彼らは



私には眩しかった





私はその様子をベッドの上から見ていた。



上半身だけ起こして、ベッドの脇にある窓からカーテンを開け、ひたすらぼーっと見ているだけ。


スマホに愛用のイヤホンを片方だけ繋げて、左耳だけで音楽を聴いた。




なんだか、とても切なくて寂しい。



なんでなのかな。


もっと、彼らを感じたい。



そう思って、窓をカラカラと開ける。



8月の夜だというのに、空気は少しひんやりとしていた。



もう、秋が近づいてきている。



夏が、終わりを告げる。




「もう、そんなにたったんだ・・・」



「んん・・・」



「あ・・」



隣で寝ている彼が少し寒そうにうなり、もぞもぞと布団にくるまった。

そのまま、私にすり寄ってくる。



私はすぐに開けていた窓を閉めた。


右手でそっと、彼の頭を撫でる。



「・・・・ごめんね」




もうすぐ、終わるから。



思えば、私はずっと前から分かっていたのかもしれない。


頭では全部理解していたはずなんだ。



でも、とても不思議なもので。


心は素直になってはくれなかった。




当たり前だ。


私は、確かに、恋をしていたのだから。



本気で好きだったのだから。




ほら、もう過去形にまでできるようになった。




あとは言葉にするだけだよね。





彼の頬に顔を近づけ、静かに私の想いを落とした。



頭を撫でていた手でその頬に触れる。


ゆっくりと瞬きをして、しっかりと彼を見た。




「大好きでした。ありがとう・・・・・と、さようなら。」


















朝の駅のホームには、誰もいなかった。


田舎だから、もともと利用する人自体少ないのだが。






あれから、上着を羽織って、小さな置手紙だけ置いて、ただ夜道を一人で歩いてここにきた。




ホームに着いてからは、3人掛けの小さなベンチに一人で座って、また音楽に酔いしれた。


両耳から流れてくるのは、想い出ばかりで。


私の心をくすぶってくる。



これは、2人で初めてカバーした歌。


これは、彼が好きだったバンドの歌。


これは、2人で作った最初の歌。


これは、私が彼のためにつくった歌。




全部、全部、もう遠い過去の物語。




こんな結末にしてしまったのは、間違いなく自分自身だというのに。



何故、何故こんなにも。



涙は溢れてくるのだろう。





平気なわけがなかった。




さよならを告げることなんて。




自分から、欲しかったものを手放すなんて。




でももう、いらない。




いらないよ。




偽りの愛なんて。




そんなの、誰も幸せになれない。




私も、貴方も、彼女も幸せになんてなれない。






気付いてたんだ、私だけ。


貴方の中に、まだ彼女が生きていたこと。



知ってたんだ、私だけ。


貴方が本気で、私を愛していないこと。



分かってたんだ、私だけ。


彼女には一生勝てないってこと。




それでも、傍にいたかった。



でもね、貴方は誰よりも素直な人だったから。


嘘がつけない人だから。



無理してることに気付いてしまったの。



嗚呼、私に彼は必要ない。



私だけが彼を求めてしまっている。



私が、彼に嘘をつかせている。




だからもうおしまい。



2人の物語に終わりを告げよう。





もう、エンディングは始まっている。



あたりはすっかり明るくなって、遠くから電車が近づいてくる音がする。




両耳からイヤホンをはずして、スマホにぐるぐると巻き付ける。




それをそのまま高く振り上げ、もう一度胸元までゆっくり下ろす。




「はぁ・・・・まったく、バカだなぁ私。」



ゆっくりと線路に近付き、彼との想い出を掴んでいる右手を真っ直ぐ前に突き出す。





「・・・・・・さよなら」




確かめるように、ゆっくり口にした。



そのまま手放す。






駅の構内アナウンスの指示に従って、少し後ろに下がる。




貨物列車が勢いよく私の目の前をかけていった。


ゴォォォォという轟音の中、確かに耳にしたバキバキバキッという音。



壊したのは、私だ。




望んだのも、私だ。




私で始めたのだから、終わらせるのも私がいい。




私だけ、傷ついてしまえばいい。





貨物列車が過ぎた数分後、始発電車がホームに入ってきた。





淡々とその電車に乗った。




もう、前だけみるんだ。




扉が閉まる直前、必死に私の名前を叫ぶ彼の声が聞こえた。


私は耳を塞ぐこともなく、ただ電車に乗った姿勢のまま立っていた。





振り返ったりしない。



振り返れば、また貴方の胸に飛び込んでしまうから。










さようなら、私の愛しい人。





さようなら、私の愛した人。






どうか、無責任な私を許さないでください。



一生、憎んでください。



大嫌いになってください。





けっして、自分の愛した人だと胸に刻まないでください。




一生、憎い大嫌いな人にしてください。






それだけで私は、十分です。



もう、何も求めません。
























大変勝手ですが。



私はこの世の誰よりも、貴方の幸せを祈っています。











































P.S.もう二度と会うことはないでしょう。

































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― 新着の感想 ―
[気になる点] ココロの悲痛な叫び…かな
[良い点] なぜか感動しました。 あともし良かったら私の作品を見てくれると嬉しいです 「異世界転生 5歳の国王大革命」 です
2017/09/16 18:07 退会済み
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