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拡散性白猫ブルーグランドマスター&ドラゴンストライクファンタジーこれくしょんGO

作者: 木田原創機


「大丈夫なの、このタイトル!?」

 放課後の教室で僕は大声を上げた。


「『拡散性白猫ブルーグランドマスター&ドラゴンストライクファンタジー

 これくしょんGO』がどうかしたの?」

「もう一度言って」

「『拡散性白猫ブルーグランドマスター&ドラゴンストライクファンタジー

 これくしょんGO』」


「なんかそのタイトル、めっちゃ聞いたことある!!」

「ああ、話題になっているから有名なソシャゲなんだ」

「いやそうじゃなくて、どっかで聞いたことのある名前が並んで」

「で、このゲーム、タイトルが長いからみんな『ブンGO』って呼んでるんだ」


 僕の不満そうな顔を見て、友人が文句をいう。

「面白いゲームなんかないかなって言ってたじゃん。

 だから俺の一押しゲームをおすすめしようと思ったのに」


「まあ、そうなんだけどさ。明らかにパク……、いや、なんでもない」

 せっかく友人がすすめてくれたのだ、ちょっとやってみるか。


 僕はアプリをインストールして起動する。

 ファンタジー世界のようなタイトル画面だ。

「そこまですすめるなら、ちょっとやってみるよ」

 僕は<スタート>ボタンを押した。


<やあ、『拡散性白猫ブルーグランドマスター&ドラゴンストライクファンタジー

 これくしょんGO』の世界へようこそ>


 デフォルメされたサルのキャラクターが出てきた。

 なぜかタイプライターをカタカタ打っている。

 どうやらこいつがマスコットキャラらしい。


<ボクはウィリアム。よろしくね!>

 妙に眼力が強く、しゃべっている間もタイプライターを打ち続けている。

 こっちを見て笑いながら一心不乱にタイプライターを打ち続ける姿は、

 少しだけ狂気を感じる。


 ウィリアムはストーリーの説明をするが、興味ないので流し読みする。

 要約すると、プレイヤーは自分の分身であるキャラクターを育てたり、

 冒険させたりして、一流の作家にするゲームだそうだ。


<最初にアバターを設定してね!>

 画面に三頭身くらいの人型キャラクターが出てきた。

 名前は<BUNGOくん>となっている。


 衣装は着物姿。

 国語や歴史の教科書で見たことある、明治の偉人のようなかっこうだった。


「衣装の変更もできるよ。まあ後々その他の衣装もガチャで手に入るし、

 名前も変更できるからあまり気にしなくていいけど」

 友人が説明を加える。


「じゃあ、設定がめんどくさいからこのままで」

 僕はデフォルトのまま<決定>ボタンを押した。


<さあ、君にプレゼントだよ!>

<ノーマルガチャチケットを10枚GET!!>

<ノーマルガチャでアバターのパーツが手に入るよ!>

<じゃんじゃん回してみてね!>


 おおっと思わず声が漏れた。

 ソシャゲの定番のガチャシステム。

 だいたいのソシャゲに実装されてるのはわかっているが、いざ回すとなると

 テンションが上がる。


 新しく始めたゲームだからなおさらだ。

(ちなみに重課金となると、ガチャを回すのも作業ゲーの一部と化す)


 チケットを10枚手に入れたので、10連ガチャを回す。

 画面中が輝く演出と共に、アイテムが10個並ぶ。

 そしてアイテム画像と共に、ガチャの結果が出る。


<与謝野晶子の髪型>

<世紀末モヒカンヘッド>

<ちょんまげ>

<おやじヘッド>

<アフロヘアー>

<芥川龍之介の髪型>

<リーゼント>

<スキンヘッド>

<三つ編み>

<大仏頭>


「髪型パーツばかりじゃねぇか!」

 僕は思わず机をこぶしでたたいた。


「なんだよこれ! 確率おかしいよ!」

「まあまあ、そんな時もあるって、せっかくだからアバターにつけてみたら?」

「ほとんどネタ寄りのアイテムじゃん! 扱いに困るよ!」

「どうせまたガチャを引けるチャンスがあるんだし、気を取り直して進めようぜ」

 友人の言葉で落ち着きを取り戻し、ゲームを進める。


<じゃあさっそく、物語の世界へ冒険してみよう!>

<このボタンを選んでね>


「えっと<冒険に行く>を選んで、ステージを選べばいいんだな」

 最初なので、行けるステージは一つだけ、『桃太郎の世界』だった。


「ゲームのタイトルにドラゴンとかファンタジーとか入ってるのに、和風の

 世界!?」

「『桃太郎』だって充分ファンタジーだよ」

「それはそうだけど……」

「動物がしゃべるところとか」

「他にファンタジーな部分あるだろ!」

 そんなやりとりをしながら、ステージを選ぶ。


<『桃太郎の世界』へようこそ!>

<“進む”ボタンを押すとBUNGOくんが前に進むよ!>

<ゴール地点にはボスキャラがいるから気を付けてね!>


「ボタンを押すだけ……。最近のソシャゲはもっとゲーム性があるぞ」

 文句を言いながら、“進む”ボタンを連打する。

 すぐにゴール地点にたどり着き、ボスキャラが現れる。


<おばあさんが現れた!>

<おばあさん「貴様の内臓を洗濯してやる!」>


「ほら! ボスキャラだよ!」

「おばあさんがボスキャラなのかよっ!? ふつうは鬼とかじゃないの!?」

「鬼は7ステージあとにでてくるよ!」

「どんだけ長いんだよ! 『桃太郎の世界』!!」


<おばあさんの頭突き! 3のダメージ!>

<BUNGOくんのヘッドバット! 1のダメージ!>

<おばあさんのヘッドドロップ! 3のダメージ!>

<BUNGOくんのヘッドバット! 1のダメージ!>


「なんで技が頭関係ばっかりなの?」

「ほら、作家って頭を使う職業だし」

「頭を使うってそういうことじゃないよ!? あ!」


<BUNGOくんは負けてしまった!>


「弱すぎだろBUNGOくん! おばあさんに負けてるよ!」

「まあ初回の負けイベントだし」

「確かに最近のソシャゲはそういうイベント増えてるけど! 

 さすがにもうちょっと負ける相手考えろよ……」


 画面が切り替わり、ホーム画面に戻る。

 またサルのウィリアムが出てきた。

 <残念! 負けちゃったね!>

 全然、残念そうなそぶりを見せず、相変わらずタイプライターを叩いている。


<実はBUNGOくんは生まれたばっかりでとっても弱いんだ!>

<だから冒険は早かったようだね!>

 最初に言えや、このエテ公がっ!


<BUNGOくんは"物語"を食べて強くなるんだ!>

<ファンタジー、SF、恋愛、童話、ミステリー、エッセイ!>

<ジャンルは問わないよ!>

<だからどんどん"物語"を食べさせてあげてね!>


画面が切り替わる。

白い画面にスクロールバー、あとはいくつかのボタンがある。


<物語はここから書けるよ!>


どうやらこの白い画面に文章を打ち込めということらしい。


「えっ、これって自分でなんか書かなきゃいけないの?」

「そうだよ、プレイヤーが物語を書いてキャラを育てる。

 他のソシャゲにはない画期的なシステムだろ」


 確かにそうだけど……。

 いきなり文章を書けと言っても、何も思い浮かばない。


 まるでそれを見越したように、ウィリアムが話し出す。

<今すぐ書けっていっても難しいから、今回は僕が"物語"を用意したよ!>


 すると白い画面に文章が現れる。

 その文章を読んでみるとこのゲームの操作方法、メニュー画面の説明など、

 ゲームの遊び方をまとめた文章のようだ。


<"物語"といってもこういう説明や日記、方法論、ポエムもOKだよ!>

<さっそくBUNGOくんに読ませてみよう!>


 指示に従ってボタンをクリックする。

 そうするとBUNGOくんが体育座りで本を読み始めた。

 その下には『読書中 読み終わるまで 30:00』とタイマーが表示される。


<本を読んでいる最中は冒険と他の物語を読ませることができないよ!>

<今回はこのアイテムを使おう! “速読薬”だよ!>

<これを使うと頭がすっきりして、気分が高揚して、本を一瞬で読み終わるように

 なるよ!>


「その薬使って大丈夫なの!?」

「ん、なんか問題ある?」

「この説明だと、危ないクスリにしか聞こえないけど……」

「大丈夫、大丈夫だよ。ただの頭がスッと冴える薬だから、大丈夫だって。

 やめたくなったらすぐやめられるし、大丈夫大丈夫」

「逆に大丈夫じゃなさそうだけどっ!?」


 少し迷ったが、使わないと進まないので、アイテムを使う。

 BUNGOくんはあっという間に本を読み、読書中のタイマーが0:00に

 なって消える。


<BUNGOくん『この物語すごくおもしろい!』>

 BUNGOくんがボイス付きでしゃべる。

 読ませているのは説明書なので、微妙な気分だ。


<レベルアップ! BUNGOくんはレベルが上がった!>


<BUNGOくんに本を読ませると経験値を取得するよ!>

<さらに文章量によって"文晶石"が手に入るよ!>

<"文晶石"はステータスを上げたり、ガチャを引いたりできるんだ!

 便利機能の解放にも使えるからどんどん書いて、どんどん貯めよう!>

<文晶石を2400000個手に入れた!>


「ちょっと待って! 文晶石もらえる量多すぎない!」

「そう? でも多くもらえる方がいいじゃん」

「だけど240万だよ! 桁がおかしいよ! どこのジンバブエドルだよ!」

「まあガチャが一回100万だからつり合いがとれてるよ」


「インフレ起こってんじゃん! なんでソシャゲでインフレが起きてんの?!」

「……運営がやらかしちゃって」

「………………………………」

 どんなやらかしをしたら、こんなことになるんだよ。


「と、とにかくじゃぶじゃぶ文章書いて、文晶石を集めればいいんだよ」

「本当に大丈夫? このゲーム……」

 友人のすすめじゃなかったら、もう三回はアンインストールしてるぞ。

 だけど文章を書いて、石を集めるというところは確かに斬新かもしれない。

 せっかくだし何か書いてみようかな。


 入力画面を開き、文章を考えてみる。


 ………………………………。


 だめだ。

 文章なんて授業か宿題の作文くらいしか書かないので、まったく思いつかない。


「なあ、お前はどんな文章を入力してるんだ?」

「僕? 今日会った出来事とか日記とかブログみたいな感じに使ってたりするよ。

 ゲーム内で文章は保存されるけど、他の人には見られないし」


 そうか、当然だけど他の人には見られないのか。

 そういえばスマホに俺オリジナルのポエムが保存してあったけ?

 今考えたらかなり恥ずかしい作品ブツだが、まあ見られないなら問題ないな。


 僕はポエムの文章をコピペする。

 全部合わせて二万文字くらいある。

 さてと投稿ボタンはこれだったかな。


 <読晶石を200個手に入れました!>


「あれ? もらえる石の数が少なくなっている。っていうか“読晶石”?

 “文晶石”じゃなくて?」

「えっ、どれどれ? あー、これは……」

 友人が僕に憐れむような目で見る。

「な、なんだよ、どうしたんだよ」


「ボタン押し間違えたね。読書ボタンじゃなくて、投稿ボタンが押されている」

「投稿ボタン……」

 おっと、なんか嫌な予感がしてきたぞ。


「このゲームって、実は小説投稿サイトと連携していてね。さっきの物語は

 多分ネット上で公開されてるよ」

「……………………は?」

「ネット公開は、“文晶石”よりレアな“読晶石”をもらえるよ。それに他の

 読者から感想もらったり、ポイントをもらったりすれば、さらに“読晶石”が

 手に入るよ!」


「いや、いやいや、いやいやいや、消し方、公開の取り消し方を教えて、

 あれは誰の目にも触れてはならない、一刻も早く消さないと」

「誰だって、初めての小説投稿は恥ずかしいものさっ!」

「そうじゃねぇよっ! 早く公開取り消しを教えろよっ!」


「投稿したときもらった分の“読晶石”を使えば公開取り消しにできるよ」

 僕は速攻で公開取り消しにした。


「ああ、もったいない」

「もったいなくねぇよ! 僕の精神メンタルがもたないよ!」


「そうだ! チュートリアルを終わらせたから、贈り物に“ゴールデンチケット”が

 あるはずだよ」

「“ゴールデンチケット”? なんだそりゃ?」

「グレートスーパーウルトラミラクルレジェンドガチャを引けるチケットだよ」

「だから名前が長いって!」


 まあ、いいや。

 最後にこのガチャを引いて、終わりにしてしまおう。


「なあ、このガチャって頭パーツ以外もあるんだよね」

「『猫の手』とか『天使の羽』とか『ドラゴンの尻尾』とかいろいろあるよ」


 はあ、きっと先ほどのガチャはノーマルガチャだからいいのが出なかったんだ。

 せめて今度はまともなパーツを引き当てたい。


 よしガチャを引くぞ!

 大げさな効果音にじらすような間、そして派手な演出と共にアイテム現れる。


 ――ペガサス――


 おっと、これはかっこよさそうなアイテムだ!


 昇天ペガサスMIX盛り GET!!


「………………………………」

 僕は無言で、“昇天ペガサスMIX盛り”を画像検索で調べてみる。


「………………………………」

 一拍おいて、深呼吸をした。


「やっぱ頭パーツじゃねーかっ!!!!」

 僕はスマホを床に叩きつけた。


 

ノリと勢いが半分、こんなソーシャルゲームがあったらなぁという願望が半分で書きました。

文章を書くというのは自分にとってなかなか骨の折れる作業なので、依存心、射幸心、競争心を利用しているソーシャルゲームとなんとか組み合わせられないかな、と思いました。


デイリーミッションで10文字、100文字、500文字、1000文字で"石"がもらえる。

他作者の作品に感想をつけると、デイリーミッションで"石"がもらえたり、

その感想や意見が作者にとって参考になったら、感想をつけた人に自分の"石"を送ることができるとか。


下書きの文章をアバターに読ませて、『おもしろい』とか『続きが読みたい』みたいな応援をボイス付きで言ってくれたらなぁ、なんて妄想します。

(アバターは男女変更可能、ボイスも複数の声優から選択変更可能で)

(むしろボイスをガチャで入手できるようにしたら、射幸心を煽れるんじゃないかな)


そんなこんなの自分の願望(妄想)をコメディに仕上げました。

楽しんでいただければ超うれしいです。


ここまで読んでくださって、ありがとうございました。



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